石の記憶 番外編 海と空 恋は紺碧の色
第4章 オハナの記憶・前編
十二月。
ハワイの暖かな風が、スミス家の庭を通り抜けていた。
その日の夕方、真里亞はメラニーに誘われてスミス家を訪れていた。
「マリア、今日は私の母を紹介するわ」
メラニーがリビングへ案内する。
そこには、穏やかな笑顔を浮かべた年配の女性が座っていた。
「私の母、レイナ・サラ・ムラカミよ」
メラニーが紹介する。
「私たちはクプナと呼んでいるの」
「はじめまして。安代真里亞です」
真里亞が丁寧に頭を下げる。
レイナは真里亞の顔を見つめ、優しく微笑んだ。
「あなたが真里亞ね」
「はい」
「優しそうな瞳をしているわ」
「ありがとうございます」
真里亞は少し照れながら笑った。
そこへイーサンとアンドリュー、ヒナもやって来た。
「クプナ、元気だった?」
「ええ。あなたたちの顔を見ると元気になるわ」
ザックも笑いながら料理を運んできた。
「今日は大勢で食べよう。大勢のほうが楽しいからな」
やがて皆がテーブルを囲んだ。
食事をしながら、自然と家族の話になった。
「マリア」
レイナが静かに呼びかける。
「私たちのルーツは日本なの」
真里亞は黙って耳を傾けた。
「私の祖先も、日本からこのハワイへ来たのよ」
「そうなんですね」
「ええ。でもね」
レイナは少し笑った。
「私たちはアメリカ人として生きてきたの」
メラニーが頷く。
「日本の文化も大切。でも、ここで生まれ育った私たちにとって、アメリカも大切な場所なの」
「両方が私たちの中にあるのよ」
レイナが続けた。
「だから昔は、少し複雑なこともあったわ」
真里亞は黙って聞いている。
「日本がハワイを攻撃したの」
レイナは淡々と話した。
「歴史の中では、そうなるしかなかった事情もあったのでしょうね」
少し間を置いて、静かに続ける。
「私たちは苦しんだわ。日本にもルーツがある。でも、私たちはアメリカ人として生きてきたのだもの」
それは、長い年月を生きてきた人の昔話だった。
怒りをぶつけるわけでもない。
誰かを責めるわけでもない。
ただ、自分たちが歩いてきた時間を、静かに語っている。
「でもね、マリア」
レイナは微笑んだ。
「それでも家族は家族なのよ」
真里亞は、その言葉を静かに受け止めた。
メラニーが母の肩にそっと手を置く。
ザックも黙って頷いた。
リビングには、しばらく穏やかな時間が流れていた。
過去は、もう変えられない。
けれど、この家で今こうして笑っている家族の時間は、誰にも奪えない。
真里亞は、そんなことを思った。




