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もう一つのボール



 西暦2042年。

 サッカーは終わった。

 正確には――

 “普通のサッカー”が終わった。

 理由は単純。

 人類が飽きたからだ。

「最近の試合、点入んねぇよな」

「戦術ばっか」

「もっとカオスが見たい」

 そんな声に応えるように、ある男が現れた。

 元天才監督――

 黒崎イレブン。

 彼は会見で、こう言った。

「ならボールを増やせばいい」

 最初、人類は笑った。

 だが。

 その一年後。

 世界は変わった。

『ツーボール』

 サッカー史上最悪にして最高の競技。

 ルールは単純。

ボールが二つある。

 それだけ。

 東京ツーボールリーグ第二節。

 スタジアムは満員。

 観客は叫んでいた。

「赤球いけェ!!」

「青止めろ!!」

「右も左も来てるぞ!!」

 実況が絶叫する。

「始まりましたァァ!!

 地獄の90分!!」

 主人公・空野レイは、高校生。

 だが彼は普通のサッカー選手ではなかった。

「……見える」

 彼の目には、  二つのボールの軌道が“線”として見えていた。

「レイ!!

 赤来てる!!」

「いや、囮だ」

「はァ!?」

 次の瞬間。

 青球が飛ぶ。

 レイは振り向きもせずボレー。

 ドゴォッ!!

 ゴール。

「うおおおおお!!」

 だが。

 この競技には、  普通のサッカーにはない恐怖があった。

二つの絶望。

 一つを見れば、  もう一つが死角から来る。

 ディフェンダーは混乱し、

 キーパーは壊れ、

 観客すら視線が追いつかない。

「左!!」

「いや右!!」

「赤だ!!」

「青だ!!」

「どっちだァァァ!!」

 試合開始から五分。

 すでに両チーム三点ずつ。

 地獄だった。

 レイは静かに息を吐く。

「……まだ足りない」

「何?」

「本当のツーボールは、  こんなもんじゃない」

 その瞬間。

 敵エースが笑う。

 銀髪。

 細い目。

 背番号99。

 男の名は――

双城シン。

「ようやく会えたな」

 シンは片足で赤球をリフティングしながら、  もう片方の足で青球をドリブルしていた。

「なっ……!?」

「同時操作だと……!?」

 観客席が凍る。

「人間は二つを処理できない」

 シンが笑う。

「だから面白ぇんだよ」

 ドン!!

 シンが両方のボールを同時シュート。

 赤は左上。

 青は右下。

 キーパーは一瞬止まる。

 脳が処理できなかった。

 ゴール。

「バケモノだァァ!!」

 実況が叫ぶ。

「これがァ!!

 “二重思考の怪物”!!

 双城シンだァァァ!!」

 レイは震えていた。

 恐怖ではない。

 興奮だった。

「……面白ぇ」

 ツーボール。

 それはスポーツではない。

人類の脳を破壊する競技。

 戦術。

 反射。

 空間認識。

 全てが狂う。

 そしてこの競技には、  さらに上の領域が存在した。

《トリプルタイム》

 三球投入。

 発動条件――

両チーム合計十得点以上。

 スタジアムの天井が開く。

 三つ目のボールが落下する。

 観客全員が立ち上がる。

「出るぞ!!」

「マジかよ!!」

「脳が壊れる!!」

 シンが笑う。

 レイも笑う。

 そして。

 三つ目のボールが、  ピッチへ落ちた。

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