第一話ブラック企業脱出!異世界で始まる新たな一歩
汗と疲労でシャツが肌に張り付く。ユウトはオフィスの蛍光灯の下、肩を落とし、デスクに突っ伏していた。目の前のパソコンには、売上データのエクセルが開いたまま。時計は23時を回っている。
「ユウト、無能!この資料、明日朝イチで直せよ!」
上司の怒鳴り声が耳に残る。パワハラなんて日常茶飯事だ。残業100時間超え、休日出勤、給料は手取り20万未満。ユウトは唇を噛み、呟いた。
「…もう、死にてえ。異世界とか行けたらな…」
「だろ?俺もそう思うわ」
隣のデスクから声。親友のミリア、25歳、元事務職だ。彼女もまた、ブラック企業の犠牲者。二人で深夜のオフィスで愚痴をこぼすのが、唯一の息抜きだった。
ミリア『この会社、マジで地獄。アニメみたいな異世界、行けたらいいのにね』
ユウト『ああ、魔法とか使えて、自由に生きられる世界な…』
二人は顔を見合わせ、苦笑い。現実逃避の空しい会話だ。
その瞬間、オフィスが光に包まれた。
「ふふ、君たちの苦労、ちゃんと見てたよ」
キラキラと輝く金髪の女性が、突然デスクの上に現れる。ふわっとしたドレス、背中に光る翼。まるでアニメの女神だ。
ユウト『…は!?誰!?』
ミリア『え、なに、このキラキラ!?CG!?』
女神『私は女神エリス。この世界の苦しみを耐え抜いた君たちに、チャンスをあげる。異世界で、やり直してみない?』
ユウトは目を疑う。ミリアは口をパクパクさせる。
女神『ユウト、君の我慢強さと観察力。ミリア、君の細やかな気配りとタフさ。異世界でなら、輝けるよ』
ユウト『…マジ?でも、なんで俺たち?』
女神『ふふ、ブラック企業で潰されずに生き抜いた人間は、強いんだよ。さあ、行く?』
ユウトとミリア、互いに顔を見合わせる。もう迷う理由はなかった。
ユウト『行く。こんな地獄、もう嫌だ』
ミリア『私も!新しい人生、欲しい!』
女神が指を鳴らすと、光が二人を包み込んだ。
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目を開けると、目の前はエメラルド色の湖。風に揺れる草花、遠くにそびえる魔法の森。空には二つの月。
ユウト『…ここ、異世界?マジで来たのか!?』
ミリア『うわ、めっちゃ綺麗!アニメそのまんま!』
女神エリスがふわりと現れる。
エリス『ようこそ、異世界アルテアへ。ユウト、君には特別な力を授けるよ』
ユウトの手の甲に、光る紋章が浮かぶ。
エリス『これは「真眼の紋章」。相手の長所と短所を見抜く力。ただし、1日3人まで、使うと精神に負担がかかるよ』
ユウト『長所と短所…?それ、どんな力だよ?』
エリス『ふふ、君なら分かるはず。この世界で、潰された才能を咲かせるんだよ。ミリア、君はユウトを支えてね』
ミリア『え、私も!?まあ、いいけど!なんか楽しそう!』
エリスが笑って消える。ユウトとミリアは湖畔に取り残された。
湖のほとりで、ぼろぼろのローブを着た青年がうずくまっていた。歳は20歳くらい。メガネの奥の目は、怯えたように揺れている。
ユウト『おい、大丈夫か?』
青年『…う、うるさい!近寄るな!』
ミリア『うわ、めっちゃ警戒してるね。どうする、ユウト?』
ユウトはふと、手の甲の紋章が光るのを感じた。試しに青年を見つめる。頭の中に、情報が流れ込む。
*名前:カイト。長所:驚異的な集中力、細かい作業が得意。短所:極端に人見知り、自信ゼロ。*
ユウト『…お前、カイトだろ?何か、得意なことある?』
カイト『は!?何!?いきなり…俺、なんもできないよ…』
ユウトは湖畔に落ちていた壊れた魔法具を拾う。ランタンみたいな形だが、明かりがつかない。
ユウト『これ、直せるか?なんか、お前ならできそうなんだけど』
カイト『…は?なんで俺が…でも…ちょっと見せて』
カイトが魔法具を手に取り、目を細める。指先が震えながらも、細かい部品をいじり始める。
ミリア『お、なんか本気モード入ってるよ!』
30分後、カイトが「できた…」と呟く。魔法具がキラキラと光り、湖畔を照らす。
カイト『…俺、こんなの直せたんだ…初めて、できた…』
ユウト『ほらな、すげえじゃん。お前、才能あるよ』
カイトの目から、涙がポロリ。
カイト『…誰も、こんな俺のこと、認めてくれなかった…ありがとう…』
ミリア『うわ、泣ける!ユウト、ナイス!』
ユウトは頭をかく。紋章を使うと、頭に軽い痛みが走った。
ユウト『…これ、けっこうキツイな。でも、悪くねえ』
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夜、湖畔で3人が火を囲む。ミリアがドラゴン魚を釣ってきて、シチューを作った。
ミリア『はい、ユウト、カイト、食べて!この魚、めっちゃ美味いよ!』
ユウト『うお、マジでうめえ!地球の魚より100倍いい!』
カイト『…こんな美味い飯、初めてだ…』
3人は笑い合う。星空の下、ユウトは思う。
ユウト『ここなら、生き直せる。カイトみたいな奴、もっと救えるかもな』
遠くで、エリスの声が響く。
エリス『ふふ、ユウト、いいスタートよ。次は、会社を作ってみなさい。この世界、君の手で変えられるよ』
ユウトはシチューを飲み込み、ニヤリと笑った。
ユウト『会社か…悪くねえな。やってやるよ!』