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ep.2 最悪と烙印された漫画と読者の反応

 画面が開いた瞬間、画面一面に地獄が広がっていた。


『予想外の終わり方……今まで見てきた中で最悪な終わり方の漫画だわ』

『期待外れの最悪漫画 てか急に終わったな』

『絶対にまともな終わり方しないだろうと思ってた。最悪な漫画ランクインするだろ』


 そこには作品に対する感想という名の、罵詈雑言に等しい言葉が並べられている。最悪、クソな漫画、期待外れ、等の誹謗中傷な言葉が、ネットの海に波を起こしていた。

 自称ハピエン房バドエン地雷の俺は、最終話はこんな終わり方はないだろうと、涙を流しながらショックを受けた。だがいくら最悪な終わり方をしたからとはいえ、今まで追ってきた作品に対して、作者が見ているかもしれないのにこんな言葉を綴ったりしない。

 視界に広がる暴言の嵐に、指先が震えてきた。

 コメントを打った人の気持ちは、ハピエン主義者である俺はわからなくもなかった。期待していた物語の最終話が、こんな悲劇で幕を閉じられたら、バッドエンドが好きな人以外誰だって気分は良くない。しかし、作品に対して批判なコメントを送るのにも、限度というものが存在する。文句を吐くのは構わないが、これ程まで過激な言葉はいくらネットだからって、マナーを守るべきだ。

 ふとその中に、相互であり仲が良かった絵師のコメントがチラリと見えて、これでもかと瞳孔を小さくして目を見開いた。

『もう少しまともな終わらせ方はなかったのかな? 連載されてからずっと追ってたけど、まさかのバッドエンドでちょっとショック。最後まで読んだのに後味が悪い』

「……あゆあさんも、こいつらと同じ考えをするんだ」

 幻祓が連載されて俺が一番初めに仲良くなった絵描きだ。お互いに好きなCPの話を語り合ったり、作品関係なく話したり、サークルに参加したときは、合同誌で出すほど仲が良かった。今度オフで会わないかと予定をたてていたくらいだ。きっと誰よりも仲がいい自身があるくらいだ。

 だからこそ、仲が良かった相互さんが、共に最初から作品を見ていた人が『ショック』や、『後味が悪い』なんてコメントをしているのを見て、俺は衝撃を受けた。きっとこの人のことだから、気がついているだろうと勝手に思い込んで、勝手に自分と同じことを考えているだろうと勘違いした。

 だが所詮インターネット、SNSで知り合っただけのネット友達。好きなものは同じでも、考えていることは違うのだと、世間一般と同じような考えする人なのだと今知った。

 ふと俺は、何故自分勝手に相手に対して失望しているのかと、机に肘を付いて頬杖を突いて考える。人間なのだから、考えが違うのは当たり前だ。この世に同じ考えを持つ人間は存在しない。存在するとしたらソイツは、自身の体から抜け出した殺しに来るだろうドッペルゲンガーだ。

 椅子の背もたれに寄っかかり、所々シミのある天井を見上げた。勝手に自分の考えを押し付けて、同じでないことに勝手に失望して、勝手に人物像を思い描いていた。ずっと自分好みの推しカプシチュエーションの話をしていたから、どこか頭のネジが緩んでしまったのだろう。

 他にもSNSで似たようなことを呟く人達を見て、俺はもう一度週刊少年ステップの今月号を開いて、幻祓の最終話に描かれた最後のシーンを見た。

 最後のページに書かれているのは主人公の涼夏は、まだ希望に満ち満ちていた訓練生の頃が恋しくて、その頃に縋るように手を伸ばし、そのまま息を絶える。それが最後のコマだ。

 その場面を見て再び涙が込み上げてきた俺は、息を吸ったり吐いたりと呼吸を整え、心を落ち着かせようとする。引き出しからートとボールペンを取り出して、最終話が何故このような終わり方をしてしまったのか、ツラツラと考察を書き始める。

 まず思いついたのは、出版社からによる打ち切り。だがこの打ち切りという線は、非常に低いのである。

 曲がりなりにも人気作品であり、これまでの単行本の売り上げは、週刊少年ステップで連載されてきた中で堂々と一位だ。グッズやアニメ円盤などもかなりの収入と、心掴社に莫大な売り上げを入れた。

 それなのにこんな杜撰(ずさん)な終わり方は、一気に人気が低迷してしまい、読者やキャラファン層などがいなくなってしまう。それにより出版社にとって売り上げに、大打撃を与えてしまうことになる。だからすぐに打ち切りの線を消した。

 次に思いついたのは、作者によるネタ切れ。しかしこの線も低い。

 そもそも物語を構成するにあたって、一話と最終話を考えてから、どのような話の流れがあり、最後まで繋がるのか考える。これは二次創作者達も同じことをやるし、物語を創作するにあたって、基礎中の基礎である。

 人気作品を描くために当たり前の工程であるのに、それを怠ってここまで人気に上り詰めたのは、ある意味天才ではあるが……基礎が出来てないのは短才だ。この線も考えられないと、その線もすぐに切り捨てた。

 そして可能性があるのは、作者自身に何かがあったかだ。

 持病が悪化してしまって、作品を終わらなさなければいけない。病気が発覚したことにより今後描けなくなってしまうから、こんな形だが最後にしてしまう。など稀にあるが、作者自身の身に何かがあり、物語を強制閉幕せざるを得なくなったというケースがある。

 しかしそれが事実ならば、最後のページの次の頁に作者からのメッセージがある筈だ。しかし作者からのコメントが一切なく、代わりに最新作に関しての情報が少しだけ記載されているだけだ。

 逆にファンを苛立たせ、ネットの方でも『新作とかどうでもいい』なんて書かれている。

 俺はノートを閉じて、幻祓考察隊がどのようなことを書いているのか、『幻祓 最終話 考察』と検索をかける。なにかいい情報はないかと調べるが、結果まだそれらしいものが出回っていなかった。

 もう少し時間をおいてからにしようと、Ⅴwitterを閉じようとマウスを動かした。その時、一つのコメントに目が留まった。

『最後はちょっとあれだったけど、自分的には今までの話は神だし、最悪の漫画とは思わないかな。作者がどういう意図があってあんな終わらせ方したのか、気になるかな』

 その呟きを見た俺は、マウスを動かしてカーソルをアイコンに合わせ、クリックを押して画面にプロフィールが表示された。

 呟き主のアカウント名は『イザナミ』で、フォロワー数は驚異の十万人の、人気夢小説作家だった。俺はフォロワー数が多いことに思わず『凄いっ……』と言葉を溢した。

 プロフィール欄にpoxivに繋がるURLが載っており、そこをクリックすればアカウントと共に作品が表示された。

 作品は主に幻祓の夢小説を書いていて、彼女が出した小説は全て一万ブックマークだ。ギャグから恋愛モノ、多種多様の作品があり、他のジャンルを含めれば千作品もある。

 俺はそのうちの一番ブックマークの多い作品を開いて、冷めた珈琲を飲みながら文字をつらつらと読む。普段は腐小説や漫画を見る俺には、夢小説は少し新鮮で少しずつ世界観に引き込まれていった。

 読了した俺は、珈琲を飲もうとしたが、マグカップの中はいつの間にか空っぽだった。新しいモノを入れようと、立ち上がろうとした瞬間、膝から崩れ落ちて四つん這いになる。

「めっちゃくちゃおもろかった! この方神なのか? あ、神だったのかもしれない、こんな読破した後でも余韻があるとか、しかも話の内容が滅茶苦茶にすこかった」

 根っからの腐男子の俺は、初めて感じる夢小説に対する尊いという感情に、一瞬流されそうになって、己の頬を思いっきり引っ叩たいた。

「しっかりしろよ! 俺は腐男子腐男子腐男子。この世全ての樹涼作品が生きる糧、生命そのもの。夢男子なんかじゃない。俺は根っからの腐男子二次創作者だろ!」

 赤く腫れた頬を撫でながらもう一度椅子に座って、普段以上に速いタイピングで、腐漫画作品やイラストを流れるように観覧していく。次々にブックマークを押して、作品を見ていって満足したのか、ニヤケながらパソコンを閉じて、やはり樹涼作品はいいなと呟きながらベッドに寝転んだ。

 満足感に浸りながら、先程読んだ夢小説と腐小説を思い返して、俺は夢も腐もそんな変わらないのかもと思った。夢作品と腐作品の共通点は『こうであったらいいな』や『こんなことがあったらいいな』と、己の願望が詰め込まれていることだ。所謂『欲の塊』だ。

 それは普通の小説家や漫画家も同じで、自分の理想とした世界や、存在してほしい物語を、文字や絵にして表現している。その作品に対して、読者は『自分ならこうするかな』と、誕生したのが二次創作だ。

 俺自身も、幻祓を読んで『物語に描かれていないところで、こんなやり取りがあったらいいな』と思ったことがきっかけで、現在立派な腐男子になった。そしていつの間にか人気腐の二次創作者の一人になったのだ。創作から生まれるのは新たな創作物。と、どこかのユーザーが呟いていたことを、俺は思い出して笑った。

 俺はスマホでⅤwitterを開き、先程と作品に対してコメントしていた『イザナミ』に、コメントを返した。

『FF外から失礼します。自分も全く同じ考えです。私は自他ともに認めるハピエン房で、最終話に対してちょっとショックでしたが、終わり方に少し違和感を覚えました。自分と似たようなことを考えている人がいて、ホッとしています』

 そうコメントを送って五分後に、イイネを返されてコメントが送られてきた。

『やはりそうですよね。僕もそれに関して不思議に思いました。まず最終話なら事前に予告があるはすなのに、それが無くて「ん?」と思いました。この違和感を感じている人が一人じゃなくてよかったです』

 そのコメントに、俺は少し声を上げて、すぐにメッセージを返そうと思ったら、違う人からのメッセージが飛び込んできた。

『こちらもFF外から失礼します。私もお二人の意見に同意見です。作品を最後まで見てきたのですが、この終わり方はあまりにも不自然で、回収するべき伏線が回収されておらず、これは作者に何かあるのではないかと思っています』

 同じ考えを持ったユーザーからのコメントに、俺はすかさずアイコンをクリックして、プロフィール欄が映る。

 アカウント名は『ユズ』で、主にイラストを描いている人で、フォロワー数は千にも満たない新人さんだ。アカウントを作ったのも最近らしくて、画力はピカイチだがまだまだ知名度が低いから、フォローしている人がいない。poxivのURLもなくて、新人創作者だというのもわかる。

 そんな人からのコメントに、俺は『自分も同意見です』とコメントを返せばイザナミがそれに続いて返事が送る。返信を何度も何度もしていくうちに、幻祓の最終回の話から何処の話が好きか、そんな話に守派がり始めた。

 先程までの憂鬱な気分から、読者同士で話の感想言い合うのが心地よくて、いつの間にか笑いながらキーボードを打っていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字等ございましたら、ご報告して下さると大変ありがたいです。

コメント大歓迎ですが、誹謗中傷はお控えください。

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