表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/19

ep.17 繋家長男救出・その1

 負祓士には、三種類のタイプがある。

 それは『アタッカー型負祓士』と『サポーター型負祓士』と『サブアタッカー型負祓士』

 アタッカー型は負幻想魔に対して、清心術や慈武具を使って対峙し倒す人。このタイプは七割と占めており、殆どの負祓士は脳筋と言っても過言ではない。

 サポータ型は慈力で怪我を治したり、特殊障壁を展開し敵の攻撃を受け止める人。このタイプは二割とアタッカー型と比べると少なく、特にヒーラー役として重宝されているが、一部からお荷物と蔑まされる悲しき存在。

 サブアタッカー型はアタッカーやサポーターになれる『万能人間(オールラウンダー)』だ。だがこのタイプは非情に稀で、負祓士業界でも一割にも満たない程数が少ない。更に通常の負祓士と比べると、慈力は三倍増しで長時間の攻防戦や重症者への治療を、可能にできるまさに万能。幻祓でもこのタイプは、片手で数えるくらいの人数しかいない。

 ちなみに想魔を扱う人は、その想魔によってかわる。ここでの俺の想魔(?)は、両方の性能を兼ね揃えている為、サブアタッカー型に分類される。そう、一応桐生智也は『サブアタッカー型』なのである。

 そして、繋捧晴は()()()()『サブアタッカー型』の負祓士としての、素質と適正がある。

 おそらくというのは原作での繋捧晴は、慈武具で負幻想魔や負召士達との戦闘描写から見て、紛れもない『アタッカー型負祓士』だ。だがアタッカー型にしては、立ち回りはどこかサポーター型のように、他負祓士の補助をしている描写があった。

 もしかしたら本来の繋捧晴は『サポーター型負祓士』適性があったのにも関わらず、アタッカーとして前線で戦っていたのは、言わずとも『繋結星』のようになる為だろう。

 今回はどうなるかわからないが、繋捧晴がサブアタッカーの負祓士としての才能を開花させれば、原作をも超える負祓士と成りえる。

 その道へ(いざな)う為には、やはりどのタイミングで『力の発現』するかだ。トリガーは結星さんで間違いないとして、結星さんの死から繋家に引き取られるどこかで発現していたから、早くても一ヶ月後だろう。

 今回結星さんの死を回避し、お兄さんの『さきくばれさん(?)』を救出したら、どうなるのだろうか。

「まぁ、今考えた所でどうにかなる訳じゃないからね」

『一人で何言っているんだ主』

 一人考察をしていると、頭上から水月が不思議そうにこちらを見ている。

「いや、コッチの話。それより、彼の慈力はこの先から感じるの?」

『えぇ、正直手がかりを燃やしたと聞いた時、頭抱えてしまったわ』

 それは少し前に水月と緋陽を召喚し、お兄さんの慈力を辿れば行けると言われ、例の手紙は証拠隠滅に燃やしたことかな? まぁ、お兄さんの慈力のついたモノがあったおかげで、こうして着々と救出に迎えているわけだが……。

 ーー少し違和感というか、気になる点がある。

 発見した物は結星さんとは違った形の[『形代』で、その形代に纏う薄黄色の慈力は、手が身に纏っていたモノと同じだから間違い。そして見つけた場所は繋家から少し離れた大木で、結星さんと同じ身長くらいの高さに、等間隔に進む先の木に貼られている。

 まるでこの先に来いと言わんばかりに、罠なのではと錯覚するほど、誘導印であろう形代が張られている。

 もしこれが負召士に気づかれずに設置したモノだとしたら、さきくばれさんはかなりの凄腕の負祓士に違いない。

 故に、負召士に捕らえられたのかわからない。

 ここまで正確に印を付けられるほど精密な慈力操作と、敵に知られない様後から慈力放出仕様の形代。まるで自分が攫われると分っていたかのような、こうなることを想定して、下準備していたのではないかと思ってしまう。それくらい正確な位置に、貼られた形代をそっと触れる。

 またそれとは別にーー。

「……見たことあるな」

 そう、見たことがあるのだ。この世界に来る以前の『白馬優(おれ)』の記憶が、知っていると知らせてくれる。

 脳裏に浮かぶは推しカプイラストを見てはラブスタンプ、見てはラブスタンプを押す自分。その時流れてきたイラストに、俺は「え、解釈一致過ぎ」と言葉を漏らし、一万ラブスタンプ以上押したい衝動に駆られながら高速1ラブスタンプ。そして再び推しイラスト漁り……脳内逆再生して『イラスト』を再び映す。

 そのイラストは、原作に名前だけ登場するキャラのイメージ画。勿論その絵は読者による妄想という名の産物画だが、これが多くのオタクを狂わせ、中には幻覚を見始める者などいた。

『コイツは公式』

『何言ってるんだよ、ソイツは最初から登場しているだろ(泣)』

『兄弟喧嘩という名の名戦闘シーン、いつ思い出しても泣けてくるわ』

『コイツは幾人の夢女を生産した魔性の男(オムファタール)だよな』

『公式様! どうかコイツを原作に登場させてください!! 金ならいくらでも出す!!』

『マジでこんなのだったら、何故名前だけなのか意味がわからない。いつ登場させるの、今でしょ』

 TLで登場してほしいと切実に願う人や、幻覚になられて元から登場していたと錯覚する人で溢れ返り、投稿してから半日で十万ラブスタンプが付いた。

 確かのその登場人物の名前はーー。

『主、この先から複数の人間の気配を感じるわ』

 そのうちの一つは捕らえられたお兄さんで、残りは負召士だろうな。負召士は一体何人だろうか、人数によっては倒さず、サイレント救出したい。けどここで負召士を捕らえて置けば、捧晴君の破滅ルートは無くなる筈だ。それに水月と緋陽が傍に居るから、簡単に制圧できるだろ。

 歩き続けると林を抜けて、視界には大きな寺のような建物があった。

「こんな所に何で寺があるのかな」

 ここが負召士のアジトだとしたら、この寺は普通ではないだろう。もしかしたら侵入者用や結星さん対策の罠や、何人か見張りがうろついているだろう。いくら水月や緋陽がいるからとはいえ、下手に動けばこちら側が不利になって、最悪の場合お兄さんで脅して、俺が殺される可能性がある。

 ここは慎重にーー。


 体がピリッと痺れた感覚がしたと同時に、背後に浮かんでいた水月と緋陽が、その場に落ちて倒れる。

 振り返ると地面に倒れ伏し、手負いの獣のような呻き声を漏らしている水月と、苦しそうに胸を押さえながら冷や汗を流す緋陽。俺は意識朦朧そうな緋陽をゆっくりと起こし、寺から少し離れた木に引きずって行く。連れて行ってから水月の元に駆け寄り、緋陽と同じように起こしてから、緋陽のいる木に引きずりながら連れて行く。

 あの場から離れたからか、少し落ち着きを取り戻した水月と緋陽に、俺は今起きたことについて問う。

「二人とも、急に苦しんでどうしたの?」

『……悪いが主、俺達は一緒には行けない』

「どうして!?」

『あの寺から、俺達を拒む力を感じた』

「拒む?」

『えぇ、正確に言えば負幻想魔を寄せ付けない強力な『結界』と言えばいいかしら』

 そんなモノが張られているのか。というか負幻想魔限定の結界とか、相当な手練れがあの寺にいるのか。

 ……ん、と言うことはつまり。

「俺一人で、救出に行かないといけない?」

 え、それって結構無理ゲーなのでは。

 この世界に来て1日も立ってない俺にとって、戦える術は水月と緋陽しかない。その二人が戦闘不能の中、どうやって救出しに行かなければいけないのだろう。いくら知識があったとて、それを活かす大きい身体と力が無ければ、意味のないモノだ。そもそも慈力のない俺が、負召士とまともにやりあえるとは思えない。仮に救出に向かうのならば、負召士との戦闘は出来るだけ避け、お兄さんを救出しなければならない。

 まさかここまで来て引き返す危機に、俺はその場にしゃがんで頭を抱える。

 考えろ、考えるんだ。何も持たない僕がお兄さんを救出する方法と、万が一戦闘になった時の対処法を。主人公だって、慈力が使えない時に武器を使って戦って、問題を解決したではないか。

 そう、僕にも武器があれば……。

『武器が必要か、主』

 頭を抱え悩んでいる俺に、水月が俺の頭の中の考え事を覗いて、ボソッとそう呟く。そうだとコクリと頷いて見せると、水月は無言で手を差し出してきたが、その手がなんなのかわからない。意味が解らないと首を傾げると、水月は『右手を差し出せ』と言ったので、言われた通り右手を差し出すと水月に手を握られる。

 右手に刻まれた水月との繋がりを示す印が淡く輝きを放ち、なんだのだろうと静観していると、右手の甲から何かが生えてきた。

 刀の持ち手である柄らしきものが、ゆっくりと生えてきて、そのまま刀身が徐々に姿を現す。刀身は青白い輝きを放ち、夜闇に降り注ぐ月光のように美しく、繊細な模様も刻まれている。その美しき刀に思わず見惚れていると、水月はそのまま後ろにパタンと倒れてしまった。

 突然倒れて俺は冷や汗が吹き出し、刀を片手に水月の隣に膝をつく。

「大丈夫!? いや、倒れている時点で大丈夫じゃないよね」

『まぁ、あの結界に触れた時点で、力の半分以上消し飛ばされたからな。万全なら武具出したところで、倒れるなんてことはない』

「……ところで、この武器は」

 今も淡い光を放つ刀身、大きさからして短刀だろう。これは俺に合わせてのサイズなのか、水月自身が扱う武器なのかも知れない。けど、こんなにも美しい武器は初めて見た。

 あと、負幻想魔が慈武具出したの初めて見た。

 俺が知るのは、負幻想魔を祓う為の武具を製作する人が作っていたから、まさか張本人が出すとは思わなかった。いやそもそも、これって本当に慈武具なのだろうか。

 本人に聞こうと視線をやると、もはや虫の息な姿を見ては、今問いただしてもそれだけで力尽きそう。

 俺に戦う手立てをくれただけでもありがたい。緋陽も苦しそうだし、今は二人を休ませないと。

 近くにあった木の枝で、送還法陣を描いて戻した。今日は二人にすごく働いて貰った。初めて出会ったばかりなのに、こんなに酷使させてしまった。

 でも、水月が俺に貸してくれた武器がある。不安がないとは言えないけど、これがあればなんとか立ち向かえるだろう。

読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字等ございましたら、ご報告して下さると大変ありがたいです。

コメント大歓迎ですが、誹謗中傷はお控えください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ