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時を越えて  作者: pj.masta
9/38

009

 竹林を抜けた先に広がるのは、夜の静寂に包まれた小さな廃寺だった。


 崩れかけた屋根と、草むした境内。かつては人が住んでいたのだろうが、今はただの廃墟となっている。


「ここなら、しばらくは安全だ」


 蓮が境内の奥へと進みながら言う。和真と玲奈も周囲を警戒しながら後を追った。


 蓮は無造作に腰を下ろすと、肩の傷口を確認した。血は止まりかけているものの、痛みはまだ残っているようだった。


「手当てしなきゃ……」


 玲奈が懐から小さな布を取り出し、水筒の水で湿らせながら傷口に当てる。


「お前、ずいぶん慣れてるな」


 和真が思わず呟くと、玲奈は微笑んだ。


「ここで生きていくには、覚えなきゃいけないことが多かったから」


「……」


 和真は玲奈が過ごした時間の長さを改めて感じた。


 三年前に転移したという蓮。そして、和真よりも先にここで目覚めていた玲奈。二人の間には、自分の知らない時間が確かにあった。


「……お前、戻りたいって気持ちはあるのか?」


 ぽつりと和真が尋ねる。


 玲奈はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。


「戻りたいと思ってた。でも……今は分からない」


「……そっか」


 和真は何も言えなくなった。玲奈がここで築いた時間と、戻ることへの迷い。それを簡単に否定できるはずがなかった。


 一方、蓮はそんな二人のやり取りを静かに聞いていたが、やがて低く呟いた。


「俺は……戻れるなら、戻りたいと思ってる」


 和真と玲奈が顔を上げる。


「この世界は、俺たちにとっては異邦だ。ここで生きることはできても、本当の意味で受け入れられるわけじゃない」


 蓮はゆっくりと立ち上がり、月を仰いだ。


「だが……この世界に来た理由が分からない限り、戻る方法を見つけたとしても、それが正しい道なのかは分からない」


「……」


 その言葉に、和真も玲奈も何も言えなかった。


 ただ、彼らの前には、まだ解き明かされぬ謎が広がっている。


---


 その夜、和真はなかなか寝つけなかった。


 蓮の言葉が頭を巡る。


 ——この世界に来た理由が分からない限り、戻る方法を見つけても、それが正しいのか分からない。


(本当に……俺たちはなぜここに来たんだ?)


 懐中時計を手に取る。


 光を放っていたはずの時計は、今はただの古びた遺品のように沈黙していた。


 その時——


 外から、微かに人の気配がした。


「……!」


 和真は反射的に身を起こし、玲奈と蓮を揺さぶった。


「誰か来る……!」


 二人もすぐに目を覚まし、身を潜める。


 草を踏みしめる足音が近づいてくる。


 そして——


「……やはり、ここにいたか」


 静かな声が、夜の闇を切り裂いた。


 和真は息を呑んだ。


 そこに立っていたのは——黒鎧の男だった。


「なっ……!」


「逃げても無駄だ。お前たちは、ここで答えを出さねばならない」


 剣を構える男。


 その背後には、月光に照らされた紋章が刻まれていた。


 それは、この時代のどの武士にもない——異世界の者だけが持つ紋章だった。


 和真の背筋に、冷たい汗が伝った。


(こいつは……一体何者なんだ……?)


 夜風が、静かに吹き抜ける。


 次の瞬間、再び運命が動き出した——。


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