007
和真は息を呑んだ。
黒い鎧を纏った男の気配は異様だった。まるでこの闇夜に溶け込むかのように静かに佇みながらも、確かな殺気を放っている。
「……誰だ?」
和真が問いかける。しかし、男は答えず、ただ剣をゆっくりと構えた。
「ヤバいな……」
蓮が低く呟く。彼の視線は鋭く、まるで相手の隙を伺うようだった。
「和真くん、後ろに下がって」
玲奈が小声で囁く。彼女の表情には緊張が滲んでいるが、どこか覚悟を決めたような目をしていた。
「逃げる道はあるのか?」
和真が後退しながら尋ねると、玲奈は静かに首を横に振った。
「この男を突破しなければ、先へは進めない」
「……そういうことか」
和真の拳が自然と握り締められる。
男は一歩、また一歩と近づいてくる。その動きには迷いがなく、まるで彼らの動きを全て見透かしているかのようだった。
「来るぞ!」
蓮が叫んだ瞬間、男が地を蹴った。
閃光のような剣の一撃が空を裂く。
和真は反射的に身を伏せた。鋭い風圧が肌を撫で、背後の柱が真っ二つに裂ける。
「ちっ……!」
蓮が瞬時に動き、男の剣を受け止める。しかし、その力の強さに蓮は後退させられた。
「このままじゃ、押し負ける……!」
玲奈が急ぎ和真の腕を引く。
「和真くん、こっち!」
彼女が示したのは庭園の奥に続く細い抜け道だった。しかし、黒鎧の男はそれを見逃すはずもなく、すぐに蓮へと追撃を仕掛ける。
「くそっ……!」
蓮はなんとか攻撃を受け流すが、一瞬の隙を突かれ、肩を斬られた。鮮血が闇夜に飛び散る。
「蓮!」
「大丈夫だ……こいつ、ただの武士じゃない。動きが異常だ……!」
蓮が苦しげに言う。
玲奈は僅かに表情を強張らせた。
「……もしかして、この男も私たちと同じ異邦人かもしれない」
「なに……?」
和真は驚愕した。
まさか、この男も転移者なのか? だとすれば、なぜ玲奈や蓮とは違い、敵として立ちはだかるのか——。
「玲奈、お前、こいつの正体を知ってるのか?」
「分からない……でも、この世界にいる異邦人が私たちだけじゃないのなら、可能性はある」
「だが……!」
和真が言葉を続けようとしたその瞬間、黒鎧の男が再び構えた。
「この世界の理を乱す者は、ここで消えろ」
低く響く声が、静かな夜に広がる。
男の剣が、再び閃いた——。