006
和真の中に、静かな決意が芽生えた。
このまま黙って見過ごすわけにはいかない。蓮はこの世界に来た理由も、帰る方法も何かを知っている。何より、自分たちと同じく現代から来た人間を、ただ処刑されるままにすることなんてできるはずがなかった。
「玲奈、方法はあるのか?」
和真が小声で尋ねると、玲奈は一瞬考えたあと、すぐに頷いた。
「方法はあるわ。ただ、少し危険よ」
「危険でもやるしかないだろ。具体的には?」
「今夜、牢の警備が手薄になる時間帯があるわ。そこを狙うしかない」
「そんな時間があるのか?」
「宮廷では夜になると警備の交代があるの。短いけれど、監視が疎かになる瞬間が生まれるはず」
「そこを突くんだな……」
和真は唾を飲み込んだ。一瞬の隙をついて、蓮を牢から救い出し、そのまま宮廷の外へ脱出する。それが成功すれば、蓮の知る『門』の情報を得ることができるかもしれない。
「……お前、どうする?」
和真が蓮に問いかけると、蓮は微かに笑った。
「俺は死ぬ気はない。お前たちが手を貸してくれるなら、全力で乗るさ」
蓮の目には、鋭い覚悟が宿っていた。
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その夜。
玲奈の言った通り、牢の周囲の警備が交代する時間が訪れた。
和真と玲奈は物陰に身を潜め、見張りの数を慎重に確認する。確かに、一瞬だけ監視の目が緩む瞬間があった。
「今よ!」
玲奈が合図を送り、和真は素早く牢の鍵を開ける。蓮は静かに立ち上がり、すぐに外へ出ると、すばやく辺りを見回した。
「こっちだ!」
玲奈が手を引き、三人は静かに廊下を駆け抜ける。
しかし、そううまくはいかなかった。
「待て、不審者だ!」
警備の隙をついたはずが、想定外の見張りに見つかってしまう。武士たちが駆け寄り、剣を抜く音が響く。
「玲奈、逃げろ!」
和真が叫ぶと同時に、蓮が素早く動いた。
彼は懐から細工の施された短剣を取り出し、鋭い動きで相手の隙を突く。
「お前……強いな」
和真が思わず呟くと、蓮は淡々と答えた。
「生きるために鍛えただけだ」
玲奈がすぐに別の通路を示し、三人は宮廷の奥へと駆け出した。
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なんとか追っ手を振り切り、彼らは宮廷の外れにある小さな庭園へと辿り着いた。
ここまでくれば、もう安全……と思ったその瞬間。
「……逃がすと思うか?」
低く響く声に、三人の背筋が凍りついた。
そこに立っていたのは、黒い鎧をまとった男だった。
「……誰だ?」
和真が問いかけるが、男は無言で剣を抜く。
その刃先が、月光を浴びて鈍く輝いた。
「お前たちは……ここで終わる」
冷徹な声と共に、男は一歩踏み出した。
和真、玲奈、そして蓮は、運命の戦いに巻き込まれていく——。