036
三人は「凍れる世界の中心」を目指して、また一歩を踏み出した。
霜銀の宮殿での試練を乗り越えたものの、体力も気力もすり減っていた。吹雪が再び視界を覆い尽くし、彼らは互いに声を掛け合いながら慎重に進んだ。
「次で最後だと思いたいな……」
和真が息を切らしながらつぶやいた。
「きっとこれが最後の鍵になるわ。だからこそ、どんな試練が待っているのか……」
玲奈が前を見据えながら応じた。
「どんな試練だろうと越えるだけだ。ここまで来て諦めるわけにはいかない」
蓮が前を行きながら力強く言った。
---
「凍れる世界の中心」と示される場所に近づくにつれ、寒さは極限に達していた。
雪原は青白い光を反射し、風の音は唸りを増している。地面は完全に凍りつき、足を滑らせれば深い雪に埋もれそうな状態だった。
「もう少し……」
玲奈が鍵を手に、模様を頼りに道を確かめながら進んだ。
やがて彼らの目の前に広がったのは、巨大な氷の湖だった。その湖は完全に凍結し、表面は鏡のように輝いていた。湖の中心には、大きな氷の柱が立っている。その柱は、これまで見たどの鍵の場所よりも強い光を放っていた。
「……あれだ。あれが、最後の鍵かもしれない」
和真が柱を見つめながら呟く。
---
三人は氷の湖の端まで進み、慎重に足を踏み出した。
氷は滑りやすく、少しの油断も許されない状態だった。それでも三人は一歩一歩進み、湖の中心に立つ柱へと近づいていった。
「ここまで来れば……!」
玲奈が前を見据える。
---
しかし、柱のすぐ近くまでたどり着いたその時——
湖全体が低い唸り声を上げ始めた。
「何か来る……!」
和真が身構えた。
氷の湖の表面が波打つように揺れ、その中心から巨大な影が現れた。それは、氷でできた龍のような姿をしていた。体全体が青白い光を放ち、鋭い爪と尾を持つその姿は、まさに最後の試練に相応しい威圧感を放っていた。
「これが最後の試練ってわけか……!」
蓮が剣を構えた。
「やるしかないわね!」
玲奈が魔法を構え、呪文を唱え始める。
「行くぞ! 絶対に越えてみせる!」
和真が懐中時計を掲げ、光を放った。
---
氷の龍との戦いが始まった。
龍は凍てつく息を吐き、氷の湖を一瞬で凍らせた。三人は足元に気をつけながらも必死に攻撃を仕掛けた。和真の懐中時計の光が龍の動きを鈍らせ、玲奈の炎の魔法が冷気を打ち消す。そして蓮はその隙を突いて剣を振り下ろし、龍の鱗を砕いていった。
龍は何度も反撃を試みたが、三人の連携によって次第に追い詰められていった。
---
激闘の末、龍は一際大きな咆哮を上げ、やがてその巨体が霧となって消えていった。
「やった……」
和真が息を整えながら呟いた。
「これで、最後の鍵が手に入る」
玲奈が柱の上を見上げた。
---
三人は柱に近づき、慎重に最後の鍵を手にした。
その瞬間、湖全体が一瞬だけ光を放ち、静けさが戻った。
「……これが最後の鍵か」
和真が鍵を握りしめながら言った。
「次はどうすればいいの?」
玲奈が尋ねる。
「この鍵の模様が示しているのは……“凍える時の祭壇”という場所よ」
「最後の鍵を使う場所か」
蓮が頷いた。
「ここで立ち止まるわけにはいかない。行きましょう」
玲奈が強い意志を込めて言い、三人は新たな目的地を目指して再び歩き出した。
---
次なる試練が待っているかもしれない。しかし、三人は最後の鍵を手にし、進むべき道を見失うことはなかった。




