035
三人は鍵を手に入れ、次なる目的地「霜銀の宮殿」を目指して再び歩き出した。
氷海の塔での試練を乗り越えたものの、先行きは決して楽なものではなかった。道中、冷たい風がますます強くなり、雪原は視界を妨げるほどの吹雪に覆われていた。
「ここからどれくらいかかるんだ?」
蓮が身を縮めながら尋ねる。
「この模様の示す場所が正しければ、あと半日の距離のはずよ」
玲奈が鍵を手にしながら答えた。
「一刻も早く着きたいところだな。この寒さじゃ、長く持たない」
和真が顔を覆いながら前を見据えた。
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険しい吹雪の中、三人はお互いに声を掛け合いながら前進を続けた。
途中、雪に隠れた岩に足を取られたり、冷たい風で顔が凍りつきそうになったりと、試練は続いた。それでも彼らは決して立ち止まることなく進み続けた。
「もう少し……もう少しで着くわ」
玲奈が鍵の模様を確認しながら励ました。
「たどり着けると信じよう」
蓮が強く頷く。
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やがて、彼らの目の前に大きな影が見えてきた。
それは、雪と氷の中から突き出た巨大な建造物だった。宮殿全体が銀色に輝き、まるで氷でできた彫刻のようだった。その高い塔と広がる城壁は、霜と雪に覆われているにもかかわらず、威圧的な美しさを保っていた。
「これが……霜銀の宮殿」
和真が息を呑む。
「すごい……本当に現実のものとは思えない」
玲奈も目を奪われていた。
「でも、これが最後の試練とは限らない。気を引き締めよう」
蓮が警戒を解くことなく言った。
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宮殿の入り口には、巨大な氷の扉がそびえ立っていた。
その表面には、またしても古代文字が刻まれている。和真が懐中時計を掲げて光を当てると、文字が青白く輝き、扉が静かに開いた。
「中に入れる」
和真が声を上げる。
三人は扉の向こうへと足を踏み入れた。
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宮殿の中は、冷たいながらも荘厳な雰囲気に満ちていた。
広い大広間の天井は高く、氷でできたシャンデリアが青い光を放っていた。壁面には精巧な氷の彫刻が並び、その一つ一つが物語を語っているかのようだった。
「ここもすごい場所ね……」
玲奈が周囲を見渡した。
「次の鍵はどこにある?」
蓮が前を見据える。
「この先の玉座の間にあるはずよ」
玲奈が模様を頼りに進むべき方向を指し示した。
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三人は慎重に宮殿の奥へと進んだ。
途中、氷の彫刻が動き出すこともなく、静寂だけが彼らを包み込んでいた。足音が反響する中、ようやく玉座の間へとたどり着いた。
そこには、豪華な氷の玉座が鎮座しており、その上には再び鍵と思われる光る物体が置かれていた。
「見つけた……!」
和真が呟いた。
「でも、何かが出てきそうね」
玲奈が警戒を緩めずに答える。
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三人が玉座に近づこうとしたその時——
大広間全体が震動し、冷たい風が一気に吹き抜けた。
「またか!」
蓮が剣を構える。
目の前に現れたのは、巨大な氷の騎士だった。その体は鎧に覆われ、両手に大剣を持っている。青白い冷気をまとったその姿は、まさに宮殿を守る最強の番人といった風格だった。
「こいつを倒さないと鍵は取れない……」
和真が懐中時計を掲げた。
「気をつけて! これまでの試練よりも強いわ!」
玲奈が呪文を唱え始める。
「行くぞ!」
蓮が叫び、三人は氷の騎士との戦いに挑む。
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騎士は巨大な剣を振り下ろし、氷の床を粉砕するほどの力を見せつけた。三人はその攻撃をかいくぐり、連携を駆使して攻めに転じた。
和真は懐中時計の光を騎士に当て続け、動きを鈍らせた。玲奈は炎の魔法で冷気を打ち消し、蓮はその隙を突いて剣を振り下ろした。
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激闘の末、三人はついに騎士を打ち倒した。
騎士の体は霧となり、やがて静けさが戻った。
「やっと……」
和真が息を整えながら呟く。
「鍵を取れるわね」
玲奈が玉座の上を見上げた。
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三人は鍵を手にし、これで全てが終わりではないことを知っていた。
「この鍵が、何を示しているのか……」
和真が鍵を見つめながら言った。
「次の場所が分かったわ。この模様が示しているのは、“凍れる世界の中心”……」
「最後の場所かもしれないな」
蓮が呟く。
「そうね。行きましょう」
玲奈が強い意志を込めて言い、三人は新たな目的地を胸に歩き出した。
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次なる試練が彼らを待ち受けている。しかし、彼らは鍵を手にし、進むべき道を見失うことはなかった。