034
三人は「氷海の塔」へ向けて再び歩き始めた。
白銀の祭壇で得た鍵を手にし、次の手掛かりに胸を膨らませながらも、その道のりは決して簡単なものではなかった。風はますます冷たく、雪と氷が行く手を阻む。足元が滑りやすく、進むたびに注意を要した。
「塔が見えてきた!」
和真が声を張り上げた。
彼の視線の先には、遠くにそびえ立つ巨大な氷の塔が見えた。それはまるで空に向かって突き刺さるような形をしており、その頂きは雲に隠れて見えなかった。
「これが……氷海の塔」
玲奈が立ち止まり、その姿に息を呑む。
「すごいな……まるでこの世界の中心みたいだ」
蓮もそのスケールに圧倒されたように口元を引き締める。
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氷海の塔へと続く道は険しかった。
雪と氷で覆われた坂道を登り、冷たい風が顔に吹き付ける中、三人は何度も足を滑らせながらも前進を続けた。ようやく塔の麓にたどり着いた時、彼らはほとんど体力を使い果たしていた。
「塔の中に入るには……」
和真が懐中時計を取り出し、塔の入り口を照らした。
入り口には巨大な扉があり、その表面にはまたしても古代文字が刻まれていた。その文字は淡い青い光を放っており、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。
「懐中時計の光を当ててみて。今まで通りならこれで扉が開くはず」
玲奈が指示を出す。
和真が懐中時計の光を扉に向けると、文字が輝きを増し、扉が低い音を立てて開き始めた。
「入れる!」
蓮が剣を構えながら先に進む。
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氷海の塔の中は、まるで別の世界だった。
高い天井と広大な空間が広がり、壁面には美しい氷の彫刻が並んでいる。床は滑らかな氷でできており、歩くたびに靴底がきしむ音が響いた。
「ここもまた、すごい場所ね……」
玲奈がため息を漏らす。
「次の鍵はこの塔のどこかにあるはずだ。進もう」
和真が懐中時計を握りしめ、三人は塔の奥へと歩みを進めた。
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塔の最上部を目指して階段を登るにつれ、次第に不気味な気配が漂い始めた。
壁面の彫刻がゆっくりと動き出し、まるで三人を見つめているかのように感じられる。
「気をつけろ。何かが近くにいるかもしれない」
蓮が剣を抜き、周囲を警戒した。
「この塔には鍵を守る何かがいるはずよ」
玲奈も魔法の準備を整えた。
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やがて彼らは、塔の頂上に広がる大広間へとたどり着いた。
そこには、再び巨大な石柱が立っていた。その柱の頂上には、鍵と思われる青白い光を放つ物体が埋め込まれている。
「見つけた……!」
和真がつぶやく。
しかし、次の瞬間——
大広間全体が震動し、空気が冷たく張り詰めた。
石柱の周囲に現れたのは、巨大な氷の竜だった。体長は広間全体を覆うほどで、冷たい霧を吐きながら三人を威圧する。
「また試練か……!」
蓮が剣を構える。
「行くしかないわ。あの鍵を手に入れるために!」
玲奈が呪文を唱え始める。
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氷の竜との戦いが始まった。
竜は冷気を放つ息で三人を攻撃し、巨大な尾で床を叩いて震動を引き起こした。三人は力を合わせ、それぞれの役割を全うしながら竜を追い詰めていった。
和真は懐中時計の光で竜の動きを鈍らせ、玲奈は炎の魔法で冷気を打ち消す。蓮はその隙に剣を振るい、竜の硬い鱗を一つずつ削っていった。
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長い戦いの末、竜はついにその巨体を崩し、静かに霧となって消えた。
「……やっと倒した」
蓮が剣を下ろし、息をつく。
「鍵を取れるわね」
玲奈が慎重に柱の頂上を見上げた。
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三人は柱に近づき、鍵を手にした。
その瞬間、塔全体が一瞬だけ青白く輝き、そして静けさが戻った。
「これで次に進める」
和真が鍵を握りしめ、強い意志を込めて言った。
「次の場所はどこ?」
玲奈が鍵を見つめながら尋ねる。
「鍵の模様によると、“霜銀の宮殿”と呼ばれる場所よ」
「また難しそうな名前だな」
蓮が苦笑した。
「でも、これまでもそうだったし、これからもそうだろう」
和真が確信を込めて答えた。
三人は次なる目的地を胸に抱き、再び歩き出した。