030
三人は手にした鍵を胸に抱き、次なる目的地「氷冠の神殿」を目指して歩き出した。
極北の地は、ただでさえ過酷な環境だ。雪と氷に覆われた地形は進むほどに険しくなり、風はますます冷たさを増して肌を刺す。三人は身を寄せ合いながら、少しずつ前へと進んでいった。
「氷冠の神殿って、一体どんな場所なんだ?」
和真が雪を踏みしめながら尋ねる。
「その名前からして、氷に覆われた大きな建造物だとは思うけど……」
玲奈が寒さに震えながら答えた。
「極北にそんな場所があるなんて、あまり聞いたことがないな」
蓮が地図を確認しつつ、険しい表情を浮かべる。
「ただ、これまでの手掛かりはどれも正しかった。この鍵に記された模様も、きっと正しい道を示しているはずだ」
玲奈が確信を込めて言うと、和真と蓮も無言で頷いた。
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しばらく進むと、三人の目の前に広がる白銀の景色の中に、何か異質なものが現れた。
それは、巨大な氷の山頂に建てられた、厳かな神殿の姿だった。遠目に見ても、その規模と威圧感が伝わる。神殿全体が純白の氷で覆われ、太陽の光を受けて輝いている。その輝きは、まるで大地そのものから神聖なオーラが放たれているかのようだった。
「あれが……氷冠の神殿か」
和真が息を呑む。
「これまでの場所とは比べ物にならない規模ね……」
玲奈が驚きの声を漏らす。
「きっと、あの中に次の鍵がある」
蓮が剣を握り直し、神殿を指差した。
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三人は神殿へ向かうため、さらに険しい道を進むことになった。
氷の坂道を登り、足元を滑らせないよう細心の注意を払いながら進む。途中で何度も休憩を挟み、凍えた手を温め合いながら少しずつ標高を上げていった。
そしてついに、彼らは氷冠の神殿の入り口へとたどり着いた。
神殿の門は巨大で、純白の氷でできた扉が重々しくそびえていた。その表面には複雑な模様と古代文字が彫り込まれ、長い年月の中で風雪に耐えた跡が見て取れる。
「これが……神殿の入り口か」
和真が扉に触れると、その冷たさが手袋越しにも伝わってきた。
「開けられるの?」
玲奈が不安そうに尋ねる。
「試してみるしかない」
和真が懐中時計を取り出し、扉に掲げた。時計の光が扉の表面を照らすと、文字がぼんやりと浮かび上がり始めた。
「何か書いてある……」
玲奈が目を凝らして文字を読み取る。
「『時の鍵を携えし者よ、その光を扉へ注げ』」
「なら、これでいいはずだ」
和真は懐中時計の光を扉全体に向けた。
すると、文字が輝きを増し、扉が低い音を立ててゆっくりと開き始めた。
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神殿の中は、外の冷たい空気とは異なり、静謐な雰囲気に包まれていた。
広大な大理石の床がどこまでも続き、壁面には巨大な氷の彫像がいくつも並んでいる。天井は高く、氷のドームが太陽の光を受けて柔らかい光を散らしていた。
「すごい……こんな場所が本当に存在するなんて」
玲奈が呆然と天井を見上げる。
「でも、次の鍵はどこにあるんだ?」
和真が周囲を見渡す。
その時、彼らの前方に、またしても巨大な石柱がそびえ立っているのが見えた。柱の頂上には、青白い光を放つ物体が埋め込まれていた。
「あれだ……」
蓮が目を細める。
「次の鍵がそこにある」
和真が懐中時計を握りしめ、一歩前へ進んだ。
しかし——
石柱が突然光を放ち、彼らの周囲に氷の壁が現れた。
「これは……?」
玲奈が驚きの声を上げる。
「また試練か……!」
蓮が剣を構え、周囲を警戒する。
氷の壁の中から現れたのは、氷の鎧を纏った戦士のような姿だった。戦士たちは冷たいオーラを放ちながら、三人に向かって歩み寄ってくる。
「こいつらを倒さなきゃ、次の鍵にはたどり着けないってことか」
和真が時計を掲げながら呟く。
「だったら、やるしかないわね」
玲奈が魔法の準備を始める。
「慎重に行こう。ここで倒れたら元も子もない」
蓮が剣を握り直し、仲間たちに呼びかける。
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三人は力を合わせ、次の試練に挑む決意を固めた。
氷冠の神殿での試練が、再び彼らの前に立ちはだかる——。




