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時を越えて  作者: pj.masta
3/38

003

 和真の胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていく。


「玲奈……お前、本気でここで生きていくつもりなのか?」


 彼の問いに、玲奈は微かな苦笑を浮かべた。


「……正直に言うと、分からない。でもね、和真くん。私、ここで生きるしかなかったのよ」


「生きるしか……?」


「ここに来た時、私はすぐにこの世界の仕組みに気づいた。でも、言葉も満足に話せなかったし、頼れる人もいなかった。でも運良く、藤原家の姫として迎えられたの」


 玲奈はそう言いながら、そっと自分の袖を撫でる。美しい十二単の布地が滑るように指先を流れていく。


「受け入れられるしかなかった……ってことか」


「ええ。でもね、それだけじゃないの」


 玲奈の表情が少しだけ険しくなる。


「この世界には、私たち以外にも『異なる者』がいる可能性があるわ」


「異なる者……?」


「私がここに来るより前にも、別の『異邦人』が現れたって話があるの。それが誰なのかは分からない。でも、少なくとも私たちと同じように、現代から来た可能性がある」


 和真は息を飲む。まさか、自分たちだけではないのか?


「それって、つまり……戻る方法を知ってる人がいるかもしれないってことか?」


 玲奈は小さく頷く。


「ええ、でも、それが味方かどうかは分からない。だから、慎重に動く必要があるの」


 和真の頭の中で、混乱と興奮が入り交じる。この時代に来た理由は分からないが、少なくとも帰る可能性があるなら、それを探す価値はある。


「……玲奈、お前は戻りたいのか?」


 しばらくの沈黙の後、玲奈はそっと視線を落とした。


「……正直に言えば、和真くんが来るまでは、もう戻れないと思ってた。だから、ここで生きる覚悟を決めていたの。でも、あなたが来たことで……少しだけ、考えが揺らいでいる」


「……そっか」


 和真は玲奈の言葉を噛み締める。


「じゃあ、一緒に探そうぜ。戻る方法を」


 玲奈は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。


「……ありがとう。でも、簡単にはいかないわよ」


 そう言って玲奈が口元に指を当てた瞬間、屋敷の外から慌ただしい足音が響いてきた。


「……誰か来る」


 玲奈がすぐに和真の袖を引く。


「和真くん、ここにいることを知られたらまずいわ。隠れて」


 和真は急いで屏風の陰に身を潜めた。


 しばらくすると、襖が開く音がし、男の声が響いた。


「姫様、お話がございます」


「何かしら?」


「先ほど、城門付近で不審な者が捕えられました。異様な言葉を話し、奇妙な衣服を身につけておりました」


 和真の心臓が跳ねる。


「……まさか」


 玲奈も鋭い視線を向ける。


「その者はどこに?」


「現在、地下牢にて拘束中でございます」


 玲奈は数秒考えた後、静かに答えた。


「分かりました。後ほど私も確認しに行きます」


「かしこまりました」


 足音が遠ざかる。和真は息を潜めて玲奈を見ると、彼女も何かを考えているようだった。


「……もう一人の転移者、かもしれない」


 玲奈が小さく呟く。


 和真の中に、さらに大きな疑問が生まれた。


「この世界には、まだ他にも俺たちのような人間がいるのか……?」


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