027
石像たちが動き出し、重々しい音を立てながら和真たちへと近づいてきた。
「くそっ! またこいつらか!」
蓮が剣を構え直し、即座に迎撃の準備を整える。玲奈も後方で呪文の準備をしながら周囲を警戒していた。
「和真くん、懐中時計の光を当ててみて! あれが石柱に反応したんだから、また役に立つはず!」
玲奈が指示を飛ばすと、和真は懐中時計を掲げ、石柱へ向けて光を放った。
光が石柱に当たると、柱の紋章が再び輝き始めた。しかし、石像たちは動きを止めず、さらに勢いを増して迫ってくる。
「まだ止まらないのか……!」
和真は焦りを隠せない。
蓮が最も近くに迫った石像へ突きかかり、その剣で一撃を放つ。しかし、剣が当たった部分は小さなひびが入るだけで、石像自体の動きにはほとんど影響がなかった。
「なんて硬さだ……!」
蓮が歯を食いしばる。
その時、玲奈が小声で呟きながら手を振り上げた。彼女の手から放たれた魔法の光が、石像の脚元に炸裂する。爆発の衝撃で、石像の一体がぐらつき、動きが一瞬鈍った。
「魔法は効くみたい! でも、完全には止められない……」
玲奈が叫ぶ。
「なら、何か他の方法を見つけるしかない!」
和真は懐中時計の光をさらに柱の上部へ向け、照射の角度を変えた。
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その瞬間——
柱の頂上に埋め込まれた鍵のような物体が淡く光り始めた。それと同時に、石像たちの動きがわずかに鈍る。
「……効いてる! もっと光を当て続けてみるんだ!」
蓮が後方を振り返って叫んだ。
「わ、分かった!」
和真は懐中時計をしっかりと握り、柱の光が広がるように意識を集中した。その光が石柱全体を包み込むにつれ、石像たちの動きが徐々に遅くなっていく。
「あと少し……!」
玲奈が魔法を追加しながら状況を注視する。
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ついに——
石像たちは完全に動きを止めた。まるで力を失ったかのようにその場で固まり、もう一切動かなくなった。
「やった……!」
和真が安堵の息をつく。
蓮が慎重に石像に近づき、その様子を確認する。
「動かないな。どうやら、本当に止まったみたいだ」
「でも、このまま気を抜かないで。まだ試練が終わったわけじゃない」
玲奈が警戒を解かずに言った。
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三人は柱の周囲を回り込むようにして、柱の頂上にある光る物体へと近づいていった。それは、確かに先ほど和真が懐中時計を掲げた時に反応した“鍵”だった。
「これが、次の時の鍵……」
和真がつぶやく。
その鍵は手のひらに収まる程度の大きさで、金属でできているように見えた。触れると冷たい感触がし、表面には複雑な模様が彫り込まれている。
「間違いない。この鍵を持ち帰れば、また先へ進める」
玲奈が慎重に鍵を手に取りながら言う。
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しかし、鍵を手にした瞬間——
洞窟全体が突然震動を始めた。
「……何だ!? 地震か?」
蓮が声を上げる。
「まさか……これが鍵を持ち去ることに対する罠……?」
玲奈が冷静に洞窟内を見回した。
震動は次第に激しくなり、洞窟の天井から小さな岩片が崩れ落ち始めた。
「まずい! 早くここを出よう!」
和真が叫び、三人は鍵を持ったまま洞窟の出口へと急いだ。
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激しい震動の中、三人はギリギリのところで洞窟を脱出した。
外に出た途端、背後で洞窟の入り口が崩れ落ち、完全に塞がれた。
「ふう……助かった」
蓮が息を整えながら呟く。
「でも、この鍵を手に入れたことで、次の場所へ進む道が開けるわ」
玲奈が鍵を握りしめながら言う。
「次はどこなんだ?」
和真が尋ねると、玲奈は先ほど鍵に記された模様を思い出しながら答えた。
「……鍵には、『北の氷壁』と刻まれていたわ」
「北の氷壁か……また厳しい道のりになりそうだな」
蓮が苦笑する。
「それでも、進むしかないわ。この鍵が次の手掛かりを教えてくれるはずよ」
和真もその言葉に頷いた。
新たな鍵を手に入れた三人は、次なる目的地である北の氷壁を目指して歩みを再開した。




