026
黄昏の聖域を離れた三人は、次の目的地へ向けて北へと歩みを進めていた。
次に向かうべき場所について、玲奈は石柱の文字からいくつかのヒントを解読していた。その内容によれば、“時の鍵”の一つは、さらに北の険しい山岳地帯に隠されているという。
「これで、また一歩進める」
玲奈が地図を見ながら呟いた。
「でも、北の山岳地帯って具体的にどこなんだ?」
和真が眉をひそめながら尋ねる。
「石柱に書かれていた言葉を読み解く限り、『霧深き谷の端』と書かれていた。おそらくその周辺に隠されているはずよ」
「霧深き谷の端か……まるでおとぎ話みたいな響きだな」
蓮が苦笑する。
「とはいえ、石柱の文字がこれまで全て正しい手掛かりを示してきた以上、これもまた確かなんだろう」
「じゃあ、そこを目指して進むしかないな」
和真が頷き、三人は次の目的地へと歩みを進めた。
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道中、彼らは次第に山岳地帯の険しさを実感するようになった。
細い山道を登りながら、空気はどんどん冷たくなり、足元の岩場が不安定になっていく。日が落ちると気温が一気に下がり、休憩を取る度に三人は体を寄せ合い、暖を取った。
「しかし、本当に大変な場所だな……」
和真が息を切らしながら呟いた。
「これ以上、先に進むと危険が増しそうね」
玲奈も冷たい風に顔をしかめる。
「それでも、進むしかないだろ」
蓮がきっぱりとした声で応じる。
「俺たちがここで止まるわけにはいかない。次の鍵を見つけなきゃ意味がないんだ」
「分かってる。気を引き締めていこう」
和真が頷き、三人はさらに先へと足を進めた。
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ついに彼らは、霧深き谷の入口へたどり着いた。
その場所は、まるで別世界のように静まり返り、霧が重く立ち込めている。谷底には深い影が落ち、何か得体の知れない気配を漂わせていた。
「ここが……霧深き谷の端?」
玲奈が立ち止まり、息を呑んだ。
谷の先には、暗い影に包まれた洞窟が口を開けている。その洞窟の入り口には、またしても見覚えのある古代文字が刻まれていた。
「これって……」
和真が懐中時計を取り出した。
すると、懐中時計が再び淡い光を放ち始め、洞窟の文字を照らした。
「間違いない。次の鍵は、この奥だ」
「だけど、また何か試練があるかもしれない」
玲奈が警戒を込めた声で言う。
「この場所の雰囲気が普通じゃない。何かが待ち受けているはず」
「それでも行くしかない。鍵を見つけないと、進まないからな」
蓮が剣を構えながら前に進む。
「そうね。慎重に進みましょう」
玲奈も同意し、和真も懐中時計を握りしめて三人は洞窟の中へと足を踏み入れた。
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洞窟の中は、異様な静けさと冷気に満ちていた。
和真たちは慎重に足を進め、洞窟内に刻まれた古代文字や紋章を観察しながら進む。奥へ進むにつれて、壁に描かれた模様がより複雑になり、光を反射するようになった。
「これは……光ってる?」
和真が手を伸ばすと、模様は淡い青い光を放ち始めた。
「間違いないわ。この光は、鍵が近い証拠よ」
玲奈が顔を上げる。
「でも、周囲を警戒して進むべきだ。何が出てくるか分からない」
蓮が剣を握り直し、さらに奥へと進む。
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しばらく進むと、洞窟の突き当たりに広がる大きな空間にたどり着いた。
そこには、再び巨大な石柱がそびえており、柱の頂上には何かがはめ込まれているようだった。
「もしかして、あれが次の鍵……?」
和真が目を凝らす。
柱の周囲には、いくつもの石像が並んでおり、その姿は前に見たものよりも精巧で、より強い威圧感を放っていた。
「これを手に入れるには、また何かしら試練があるってことだな」
蓮が険しい表情を浮かべる。
「でも、やるしかない」
和真は懐中時計を掲げ、石柱に光を当てた。その瞬間、洞窟全体が一瞬輝き、静寂を破るように石像が動き始めた。
「来たぞ! 気をつけろ!」
蓮が叫ぶ。
三人は再び力を合わせ、この試練に立ち向かうことを決意した。
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鍵を手に入れるための試練が今、始まる——。




