表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時を越えて  作者: pj.masta
23/38

023

 村を後にし、三人は北の森へ向かって歩き出した。


 夜明けが近づいていたが、空にはまだ薄暗さが残り、冷たい風が肌を撫でていた。


「本当にこんな森の奥に“神子の道標”があるのか?」


 和真が歩きながら尋ねる。


「確証はない」


 蓮が肩をすくめる。


「でも、これまでの情報からしても、神子にまつわる手掛かりは残されている可能性が高い」


「ええ。もしそれが見つかれば、次の“時の鍵”の場所が分かるかもしれない」


 玲奈も慎重に付け加える。


 和真は懐中時計を握りしめながら、視線を前に向けた。


(これが“時の鍵”だとしたら……他の鍵を集めれば、何かが変わるのか?)


 彼の中で、答えのない問いが渦巻いていた。


---


 森の入り口は、薄い霧に包まれていた。


「静かだな……」


 蓮が呟く。


 和真も辺りを見渡すが、人の気配は全くない。聞こえるのは風が枝を揺らす音だけだった。


「どっちへ進めばいいの?」


 玲奈が不安げに尋ねる。


「村の老人は、森の奥だと言っていた。とにかく進むしかない」


 蓮が言い、三人は森の中へと足を踏み入れた。


---


 森は思った以上に深く、足元には草や落ち葉が積もり、進むたびに微かな音が響いた。


「これ、本当に道標なんて見つかるのか……?」


 和真がぼやく。


「道標と言われているが、実際にどんな形をしているのかも分からない」


 玲奈が慎重に答える。


「石碑のようなものかもしれないし、あるいは……」


 その時、蓮が急に立ち止まった。


「どうした?」


 和真が尋ねると、蓮は周囲を見回しながら言った。


「……誰かいる」


「誰か?」


 玲奈が驚き、辺りを見渡す。


 しかし、そこには三人以外の人影は見当たらなかった。


「気のせいかもしれないが……さっきからずっと視線を感じる」


「……!」


 和真も慎重になり、耳を澄ませた。


 かすかだが、確かに何かが動いているような音が聞こえた。


「何かいる……」


 蓮が低く呟く。


 次の瞬間、木々の間から影が揺らめいた。


「っ……!」


 和真たちはすぐに身構える。


 だが、その影は異界のものではなく、一人の人物だった。


「……旅の者か?」


 現れたのは、古びた僧衣をまとった男だった。


 彼の目は鋭く、まるで三人を見透かすようにじっと見つめている。


「あなたは?」


 玲奈が問いかけると、男は静かに答えた。


「吾は、この森を守る僧。ここに“道標”を探しに来たのか?」


「知っているのか、その道標を」


 蓮が詰め寄るように尋ねる。


 僧は少し間を置いてから頷いた。


「知っておる。だが、道標を探すことは簡単ではない。それに……お主らが本当に“時の鍵”を求める者であるならば、証を見せてもらわねばならぬ」


「証……?」


 和真が疑問の声を上げる。


 僧は和真をじっと見つめ、そして、彼が手に持つ懐中時計に目を留めた。


「それが“時の鍵”の一つか」


「……たぶん、そうだ」


 和真は正直に答えた。


 僧は再び静かに頷くと、ゆっくりと身を翻し、森の奥へと歩き出した。


「ついて来い。道標へ案内してやろう」


 そう言い残し、僧は森のさらに深い部分へと三人を導いた。


---


 森の中をしばらく進むと、突然、開けた空間に出た。


 そこには、巨大な石の柱がそびえていた。


「これが……道標……?」


 玲奈が驚きの声を上げる。


 柱には古代文字が刻まれ、その周囲には小さな祠のようなものがいくつも並んでいた。


「これが“神子の道標”か……」


 蓮も目を見張る。


 和真は、懐中時計を握りしめながら柱に近づいた。


 すると——


 時計が再び光を放ち始めた。


「っ……!」


 その光が柱全体を包み込み、古代文字が淡い輝きを帯び始めた。


「やっぱり、この時計が反応してる……」


 和真は息を飲む。


 その時——


 僧が静かに口を開いた。


「時の鍵の力が反応しているようじゃな。次の鍵の場所が分かるかもしれぬ」


「どうすれば……?」


 玲奈が僧に問いかける。


 僧は柱の古代文字を指し示した。


「この文字が次の手掛かりを示しておる。解読できるか?」


 三人はその文字を見つめた。


 それは確かに何かの座標を示しているようだったが、詳しい意味は分からない。


「これを解読しなきゃ次に進めないってことか……?」


 和真が眉を寄せる。


「解読するには……そうじゃな」


 僧は少し考え、こう提案した。


「この文字の意味を知るには、さらに北の大寺院へ向かう必要がある。そこには、かつて神子が使っていた“言霊の巻”が保管されている。あれがあれば、この文字の解読が可能になる」


「大寺院……?」


 玲奈が驚いた声を上げる。


「では、その大寺院へ行けば、この文字を解読して次の鍵の場所が分かるということか?」


「その通りじゃ」


 僧は静かに頷く。


「道は険しいが、選ぶのはお主らの自由じゃ」


 和真たちは顔を見合わせた。


「……次の目的地は決まりだな」


 和真が懐中時計をしまいながら言った。


「大寺院へ行こう」


 三人は新たな目的地を胸に、再び歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ