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走り書きはここまでです。
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翌朝、和真たちは北の地へ向かう準備を整えた。
円信から旅に必要な最低限の物資を受け取り、簡単な食糧と水、それに古い地図を持って寺を後にする。旅路は長く、決して楽なものではない。しかし、彼らには確かめるべきことがあった。
「北の地って、どれくらいかかるんだ?」
和真が地図を広げながら尋ねる。
「都から北へ三日ほど馬を使えば着くはずだが、俺たちは徒歩だからな……五日、いや、それ以上かかるかもしれない」
蓮が慎重に答える。
「そんなに……」
玲奈が呟いた。
「でも、それだけの距離を移動してまで確かめる価値があるんでしょう?」
「ああ」
蓮は頷く。
「北の地にあるのは、かつて“神子”が災厄を封じた場所だと聞いている。その封印が今、揺らぎ始めているって話だ」
「封印……」
玲奈が思案する。
「つまり、過去に現れた“神子”が何かを封じ込めた。その何かが、今になって解き放たれようとしている?」
「可能性はある」
蓮が腕を組む。
「もしそうなら、“黄昏の災厄”が本当に現れる前兆かもしれない」
「……ますます、行かないわけにはいかないわね」
玲奈が決意を込めて言った。
和真も懐中時計を握りしめる。
この旅の先に、彼らの存在の意味があるはずだ。
---
都を出て、一行は北へと進んだ。
旅路は険しく、道は徐々に人の気配が少なくなっていく。
「しかし、静かだな……」
和真が辺りを見回しながら呟く。
「普通なら、旅人や商人が通っていてもおかしくないのに」
「ああ……」
蓮が周囲を警戒しながら言う。
「どうやら、この先の村で異変が起きているらしい」
「異変?」
玲奈が蓮を見つめる。
「ああ。少し前から、“夜になると村から人が消える”って噂がある」
「消える……?」
和真が眉をひそめた。
「行方不明ってことか?」
「そうだ。しかも、村の中には“影のようなものを見た”っていう証言もある」
「影……」
玲奈の顔がこわばる。
「まさか、それって……」
「“異界の影”かもしれない」
蓮が低く呟く。
「この北の地には、古くから異界と繋がる場所があると言われている。“黄昏の災厄”が現れるとすれば、そこに何か関係があるはずだ」
「……」
和真は息を呑んだ。
彼らが進もうとしているのは、まさにこの世界の危機の核心部。
そして、それが自分たちの運命と深く結びついている可能性がある。
「行こう」
玲奈が先に歩き出した。
「この先で、何が起こっているのか確かめなきゃ」
「おいおい、慎重に行けよ」
蓮が苦笑しながら後を追う。
和真もまた、迷いを振り払うように歩を進めた。
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夕方、目的の村へとたどり着いた。
しかし——
「……誰もいない?」
村は異様なほど静まり返っていた。
人気がなく、まるで何かに飲み込まれたかのように、全ての家の扉が閉ざされている。
「まさか、もう全員が……」
玲奈が不安げに呟く。
「夜になると、人が消えるんだったよな?」
和真が蓮に確認すると、彼は頷いた。
「そうだ。もし噂が本当なら、今夜、何かが起こるはずだ」
「……待って」
玲奈がふと、ある家の前で立ち止まる。
家の中から、かすかに何かの気配を感じた。
「誰かいる……?」
彼女がそっと扉を叩く。
すると——
「……入れ……」
かすかな声が聞こえた。
和真たちは顔を見合わせ、慎重に扉を開ける。
すると、中には痩せ細った老人が、怯えたように座り込んでいた。
「……あなたは?」
玲奈が問いかける。
老人は震える手で、ゆっくりと指を差した。
指の先にあったのは——
壁に刻まれた、異様な紋章だった。
「これは……?」
和真が近づく。
すると、懐中時計が突然、淡い光を放ち始めた。
「っ……!」
その瞬間——
村全体が、静かに闇に包まれた。
そして——
「……来る……!」
老人が震えながら呟く。
次の瞬間——
村の外れから、不気味な黒い影が揺らめきながら現れた。
「何だ……?」
和真は、息を呑む。
その影は、人の形をしていた。
だが、目も口もない。ただ、闇の中で揺らぐだけの存在——。
「……異界の影」
玲奈が震える声で呟く。
「まさか、これが“黄昏の災厄”の……」
影がゆっくりと動き出す。
そして——
次の瞬間、それは恐るべき速さで和真たちへと襲いかかってきた——!