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時を越えて  作者: pj.masta
16/38

016

 記録庫の静寂が、まるで深い湖の底のように重くのしかかっていた。


 和真は懐中時計を握ったまま、じっと針の動きを見つめていた。それは今も淡い光を帯びており、まるでこの世界と何かを繋げているかのようだった。


「選択の時は、そう遠くない……」


 黒鎧の男の言葉が脳裏にこびりついて離れない。


「……和真くん」


 玲奈が静かに口を開く。その瞳には、迷いと決意が入り混じっていた。


「私たちは、本当に……選ばれるべきではなかったの?」


「……」


 和真は言葉に詰まった。彼らがこの世界に来たのは偶然ではなく、何かしらの意図があった。その事実は、もう疑いようがない。


 しかし、その一方で——


「俺たちがいることで、この世界が歪んでいる」


 それもまた、揺るがぬ現実だった。


「くそっ……」


 和真は拳を握りしめる。自分たちの存在が、この世界に何をもたらしているのか——それが、まだ分からない。


「……とにかく、ここを出よう」


 蓮が冷静に提案する。


「このまま記録庫に長居するのは危険だ。俺たちがここにいたことが知られれば、宮廷内の連中も動き出す」


「……そうね」


 玲奈も頷く。


 彼らは散らばった書物を元に戻し、静かに記録庫を後にした。


---


 夜の宮廷を抜け、和真たちは再び廃寺へと戻った。


 月明かりの下で、三人は肩で息をつきながら、改めて話し合うことにした。


「整理しよう」


 玲奈が静かに言う。


「私たちは、何者かによってこの時代に召喚された。でも、それは本来、一人だけのはずだった……」


「それが、何かの理由で俺たち三人になった」


 蓮が続ける。


「そして、それが歴史の歪みを生み、黒鎧の男が“修正”しようとしている」


「でも、俺たちの中の誰かが“本来の神子”で、あとの二人は間違いだったってことなのか?」


 和真の問いに、玲奈は静かに首を振った。


「分からないわ。でも、仮にそうだとしても……」


 玲奈はぎゅっと手を握る。


「私たちは、ここにいる。それだけは、確かなことよ」


「……」


 和真は玲奈の横顔を見つめる。


 彼女は強い決意を持っている。過去に何があったとしても、自分がこの世界で生きている事実を、否定するつもりはないのだろう。


「選ぶってことは、つまり……」


 蓮が静かに呟く。


「俺たちの中の誰か一人が、この世界に残り、あとの二人は元の世界に戻るってことだ」


「……」


 その言葉に、三人の間に沈黙が落ちた。


 自分が選ばれなければ、この世界を去ることになる。


 それは、果たして救いなのか、それとも……。


「……まだ時間はあるわ」


 玲奈がゆっくりと口を開く。


「黒鎧の男は、“選択の時は遠くない”と言っていた。でも、今すぐじゃない」


「なら、どうする?」


 和真が尋ねると、玲奈は迷いのない声で答えた。


「私たちがこの世界にいる意味を、もっと探すべきよ。なぜ、私たちがここに呼ばれたのか。なぜ、黒鎧の男は“神子は一人であるべき”だと考えているのか」


「つまり、まだ答えを出すには早いってことか」


「ええ。それに……」


 玲奈の瞳が、静かに夜空を映す。


「この世界を変えるべきなのか、元に戻すべきなのか、それを決めるのは、私たち自身のはずよ」


 和真は玲奈の言葉を噛み締める。


「……そうだな」


 答えを急ぐべきではない。


 自分たちが、この世界に来た理由を探すために——彼らは、再び動き出す。


 その選択が、未来をどう変えるのかはまだ分からない。


 けれど——


 夜明けは、すぐそこまで来ていた。


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