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時を越えて  作者: pj.masta
15/38

015

「時の狭間……?」


 和真は呆然としながら、周囲を見回した。そこには何もない。空も、地面も、全てが淡く揺らぐ白い光に包まれていた。


 玲奈もまた、息を呑んだまま、目の前に立つ影のような存在を見つめている。


「あなたは……誰?」


 玲奈の問いに、影は静かに答えた。


「私は“記憶の番人”。時を超えし者たちに、真実を伝える者」


「真実……?」


 和真の胸の鼓動が高鳴る。


「君たちは、この世界に呼ばれた。だが、本来呼ばれるはずの“神子”は、たった一人でなければならなかった」


「それって、俺たち三人は間違いだったってことか?」


 蓮が鋭く問いかける。


 影はゆっくりと首を横に振った。


「間違いではない。しかし、歪みが生じたことは事実だ」


「じゃあ、どうして俺たちは……?」


 和真の問いに、影は手をかざした。


 すると、白い空間に微かな光の粒が舞い始める。


「この世界には、二つの未来が存在している」


「二つの未来……?」


 玲奈が思わず呟く。


「一つは、“神子”がただ一人としてこの地に降り立ち、世界の運命を導く未来」


「もう一つは?」


「もう一つは、“神子”が複数存在し、世界の均衡を崩し、歴史を歪める未来」


「……!」


 和真の背筋に寒気が走る。


「俺たちがここにいることで、後者の未来が生まれようとしているってことか?」


「その可能性は高い」


 影の声は淡々としていた。


「では、どうすれば……?」


 玲奈の瞳に、強い決意が宿る。


「私たちは何をすれば、この世界を正すことができるの?」


 影はしばし沈黙し、そして、静かに言った。


「答えは、お前たちが選ぶべきもの」


「……選ぶ?」


「“神子”として、この世界に残り運命を導くか」


「それとも——」


 影の言葉が続く。


「本来の歴史に戻るために、“一人”を選ぶか」


「……!」


 玲奈と和真、そして蓮の顔色が変わる。


「……俺たちの中で、誰か一人しか残れないってことか?」


 蓮が低く呟く。


 影は静かに頷いた。


「一人がこの世界に残り、役目を果たすならば、歪みは収束する。しかし、それは即ち——」


「残らなかった者は、元の世界へ戻る?」


 玲奈が息を詰まらせる。


 影は、それには答えなかった。ただ、淡く揺らぎながら、こう続けた。


「お前たちは、いずれ選択を迫られる。その時が来た時——お前たちが何を選ぶのか。それが、この世界の運命を決める」


 次の瞬間——


 白い空間が揺らぎ、光が強まった。


「……!」


 和真は目を閉じる。頭がくらくらと揺れ、意識が遠のいていく。


 そして——


 気がついた時、彼らは再び記録庫に戻っていた。


---


「……っ!」


 和真は荒い息をつきながら周囲を見回した。記録庫の中、書物が散らばり、微かに燭台の炎が揺れている。


「今のは……」


 玲奈もまだ混乱している様子だった。


「……幻覚、じゃないよな」


 蓮が慎重に言葉を選びながら、呟く。


 その時——


「ようやく、戻ったか」


 低い声が響いた。


 三人が顔を上げると、そこには黒鎧の男が立っていた。


「……!」


 男は相変わらず冷たい眼差しを向けている。


「どうやら、お前たちは“答え”の一端を知ったようだな」


「お前は……」


 和真が問おうとした瞬間、男は静かに言った。


「覚えておけ。選択の時は、そう遠くない」


 そして、男の姿は、霧のようにゆっくりと消えていった。


「……」


 玲奈が、ぎゅっと拳を握りしめる。


「私たちの選択が……この世界の運命を決める」


 和真はただ、懐中時計を強く握りしめた。


 その針は、静かに、しかし確かに進み始めていた——。


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