014
黒鎧の男が剣を振るう。その動きは、まるで風のように素早かった。
「くそっ!」
蓮が反射的に剣を抜き、迎え撃つ。しかし、一瞬の交差の後、蓮は大きく後退させられた。
「……ちっ、やっぱりこいつ、ただの武士じゃねぇ」
肩で息をしながら、蓮は鋭い視線を男に向ける。
「記録を覗き見するとは……余計なことをしたな」
黒鎧の男は低く呟く。彼の手に握られた刃には、微かに青白い光が宿っている。まるで、異質な力を宿しているかのように——。
「選ばれざる者……それってどういう意味なんだ!」
和真が叫ぶ。
「俺たちは、ただこの時代に飛ばされただけなんだ! なのに、なぜお前は最初から俺たちを狙うんだよ!」
「……」
男はしばらく沈黙した後、静かに答えた。
「お前たちは、本来ここに存在してはならない者だからだ」
「どういうこと……?」
玲奈が息を呑む。
「神子は、一人しかいない。それが、この世界の摂理だ。だが、今ここには、お前たち三人がいる……その時点で、この世界の均衡は崩れ始めている」
「だからって、殺そうとするのかよ!」
和真が拳を握りしめる。
「お前たちが消えれば、歴史の歪みは修正される」
男は淡々と言い放った。
その言葉に、和真の中に怒りが込み上げる。
「……ふざけるな!」
思わず和真は前に踏み出した。しかし——
「っ……!」
男の剣が閃く。和真は反射的に身を引いたが、それでも頬に一筋の切り傷を負った。
「動きが違いすぎる……!」
蓮が呻く。彼も戦い慣れているはずだが、黒鎧の男の剣は、まるで彼らの一手先を読むかのように鋭かった。
「このままじゃ……!」
玲奈が必死に何かを探すように視線を巡らせる。そのとき——
「……!」
彼女の視線が、開かれた記録の一節に留まった。
《神子が真に選ばれし時、時の鍵は開かれる——》
(時の鍵……?)
玲奈の脳裏に、ある考えが閃く。
「和真くん、あなたの懐中時計……!」
「えっ……?」
和真は驚きながらも、ポケットに手を入れる。そして、そこには今も光を失った懐中時計があった。
その瞬間——
「……!」
懐中時計が、淡い光を放ち始める。
「……なるほど」
黒鎧の男がわずかに目を細める。
「やはり、選ばれるべき者は……」
男が剣を振り上げる。次の一撃が、和真たちを襲おうとした、その時——
光が弾けた。
「なっ……!」
和真の視界が一瞬、真っ白に染まる。
そして——
次の瞬間、彼らは記録庫ではなく、全く別の場所に立っていた。
「ここは……?」
玲奈が呆然と呟く。
見渡す限り、どこまでも続く白い空間。
「俺たち、どこに……?」
和真が困惑する。
——その時、彼らの前に、ひとつの影が現れた。
それは、黒鎧の男とは違う、まるで幻のような存在。
「あなたたちは……」
玲奈が言葉を失う。
影は、ゆっくりと口を開いた。
「……選ばれし者よ。時の狭間へようこそ」