013
宮廷の夜は、静寂に包まれていた。
和真、玲奈、蓮の三人は、月明かりを頼りに宮廷の奥へと進んでいった。玲奈が手に入れた封書には、記録庫へと続く秘密の通路の位置が記されていた。
「本当にこんなところに抜け道が……?」
和真が疑問を口にすると、玲奈は慎重に壁の一角を調べた。そして、隠された木戸を押し開く。
「ここよ」
静かに扉を開けると、そこには狭い通路が伸びていた。土の匂いがかすかに漂い、壁には松明の跡が残っている。
「この通路、長いこと使われてないみたいだな」
蓮が呟く。
「ええ。記録庫に直接つながるものの、現在は誰も使っていないはず……」
「誰にも見つからずに入れるなら、好都合だな」
和真が頷き、三人は慎重に進んでいった。
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記録庫の扉の前にたどり着いた。
玲奈が持ってきた鍵をそっと差し込み、ゆっくりと回す。錠前がかすかに軋む音を立て、扉が開いた。
「……ここが記録庫か」
和真は目の前に広がる光景に息を呑んだ。
広大な書架がいくつも並び、古びた巻物や書物がびっしりと収められている。かすかな蝋燭の光が揺らめき、静寂が支配する空間だった。
「急ぎましょう。時間は限られているわ」
玲奈の言葉に、三人は手分けして異邦人に関する記録を探し始めた。
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しばらくして——
「……あった」
玲奈が震える声で呟いた。
彼女の手には、一冊の古びた書物が握られていた。その表紙には、見慣れぬ古い文字が刻まれている。
「異邦より来たる者たち……?」
和真が声を上げる。
「やっぱり、過去にも私たちのような者がいたのね」
玲奈は慎重にページをめくる。そこには、驚くべき記述があった。
《彼らは“神子”と呼ばれ、この地に導かれし者である。しかし、彼らがこの世界に留まるとき、歴史の均衡が揺らぎ、大いなる歪みが生じる》
「……歴史の歪み」
蓮が呟く。
「黒鎧の男が言っていたことと同じだな」
「つまり、私たちがここにいることで、この時代に何か影響を与えている……?」
「だが、そもそもなんで俺たちはここに呼ばれたんだ?」
和真が焦るように問いかける。
玲奈はさらにページをめくった。そして、ある記述に目を留めた。
《“神子”は、本来一人しか存在しえない》
「……一人しか?」
和真は眉をひそめた。
「つまり……?」
玲奈の手がかすかに震えた。
「この世界に召喚される“神子”は、本来一人であるべきだった。でも……今ここには、私たち三人がいる」
「それが、歪みの原因……?」
「可能性は高いわ」
玲奈は沈痛な表情を浮かべた。
「じゃあ、俺たちの中の誰かが、本来呼ばれるはずじゃなかったってことか……?」
和真が呟いた瞬間——
バンッ!
記録庫の扉が激しく開かれた。
「……!」
和真たちは反射的に身構える。
そこに立っていたのは——黒鎧の男だった。
「やはり、ここに来たか」
男は冷たい声で呟いた。
「やはり、お前たちは“選ばれざる者”だ」
鋭い剣閃が、夜の静寂を切り裂いた——。