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時を越えて  作者: pj.masta
11/38

011

 黒鎧の男が消えた後も、和真たちはその場に立ち尽くしていた。


「……なんだったんだ、あいつは」


 和真が、まだ戦慄の残る声で呟いた。確かに、男は襲い掛かってきた。しかし最後の瞬間、まるで何かを試すかのように彼らを見据えたまま去っていった。


「私たちが、この時代を狂わせる……」


 玲奈が男の言葉を反芻する。彼女の表情は沈み、思考の渦に囚われているようだった。


「ただの脅しじゃないな」


 蓮が低く呟く。肩の傷を押さえながらも、その目は鋭かった。


「……確かに、俺たちは本来ここにいるはずのない人間だ。けど、それだけで命を狙われる理由になるか?」


「分からない。でも……」


 玲奈が顔を上げる。


「彼は明らかに、私たちがここに来たことを知っていた。まるで、最初からそうなると決まっていたみたいに」


「俺たちの転移が、偶然じゃなかったってことか?」


「その可能性は高いわ」


 玲奈の言葉に、和真は思わず息を呑んだ。だが、すぐに頭を振る。


「そんなこと……誰が、何のために?」


「それを突き止めなきゃいけない」


 玲奈の瞳に決意の光が宿る。彼女はこの三年間で、すでに幾つもの困難を乗り越えてきたのだろう。その姿が、和真には頼もしくもあり、どこか遠くに感じられた。


「……で、どうする?」


 蓮が問いかける。


「このまま無策でいるわけにもいかねぇ。あの男は、また現れるぞ」


「ええ。でも、何かを知っているならば、こちらから探る手もあるわ」


「探るって……どこを?」


 和真が尋ねると、玲奈は少しだけ考え、口を開いた。


「宮中の記録庫。そこには、帝の側近しか閲覧できない秘蔵の書物があるの」


「そんなものに、俺たちのことが載ってるのか?」


「分からない。でも、異邦人の記録が残されている可能性はあるわ。過去にも、私たちと同じようにこの時代に現れた者がいたのなら——」


「そいつらがどうなったかも、分かるかもしれないってことか……」


 蓮が腕を組む。


「だが、それって簡単に調べられるのか?」


「普通なら難しいけれど……私には少しだけ、宮中に影響を持つ人脈があるの」


「……お前、本当にこの時代に馴染みすぎてるよな」


 和真が苦笑すると、玲奈は微かに微笑んだ。


「そうかもしれないわね。でも、それを利用しない手はないでしょう?」


「まあな……」


 和真は納得した。たとえ危険だとしても、このまま何も知らずに過ごすよりはずっといい。


「じゃあ、決まりだな。宮中の記録庫を探る」


 蓮が立ち上がる。


「ただし、慎重にな。あの黒鎧の男が本当に俺たちを監視しているなら、何をするにしても気をつける必要がある」


「分かってる」


 玲奈も立ち上がり、静かに衣を整えた。


 和真も、懐中時計を握りしめる。


 ——自分たちがこの時代に来た理由を知るために。


 そして、未来を選ぶために。


 夜の風が、彼らの決意を包み込むように、静かに吹き抜けていった——。


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