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時を越えて  作者: pj.masta
10/38

010

 和真の全身に冷たい汗が流れた。


 黒鎧の男はまるで逃げ場などないとでも言うように、静かに剣を構えていた。その姿は、まるで彼らを待ち伏せしていたかのようだった。


「……お前は、一体何者なんだ?」


 和真の問いに、男はわずかに唇を歪めた。


「名乗る必要はない。お前たちはただ、この世界にとって不要な存在に過ぎん」


 その言葉に、蓮が低く笑った。


「不要な存在、ね……ずいぶんな言い草じゃねぇか」


 蓮はじわりと間合いを詰めながら、男の動きを見極める。しかし、男は動じることなく、静かに彼らを見下ろしている。


「この世界に干渉するな。お前たちがいれば、いずれ大いなる歪みが生じる」


「歪み……?」


 玲奈が眉をひそめる。だが、黒鎧の男はそれ以上の説明をするつもりはないようだった。


「問答は無用。ここで終わらせる」


 次の瞬間——


 男が地を蹴った。


 その動きは異様だった。まるで空気を切り裂くような速さで迫る。そして——


「ちっ……!」


 蓮が即座に剣を抜き、迎え撃つ。


 鋼がぶつかる音が夜に響く。衝撃の余波が周囲の草を揺らした。


「和真くん、後ろへ!」


 玲奈が叫び、和真の腕を引く。


 蓮は一撃を防いだものの、力の差は歴然だった。男の剣が鋭く弧を描き、蓮の防御を押し崩す。


「クソッ……!」


 蓮が後退する。しかし男はそれを許さず、さらに踏み込む。


「このままじゃ……!」


 和真は状況を冷静に分析しようとするが、何もできない自分に歯がゆさを覚えた。


 ——何か、この状況を打開する方法はないのか?


 その時だった。


「やめなさい!」


 玲奈が前に出た。


 男は剣を止め、じっと玲奈を見つめる。


「お前……」


「あなたの目的は何? 私たちがこの時代に来た理由を知っているの?」


 玲奈の問いに、男はしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。


「……お前たちが知るべき時が来る。だが、それは今ではない」


「だったら、なぜ私たちを狙うの?」


「お前たちの存在が、この時代を狂わせるからだ」


「それは、どういう意味?」


 玲奈の問いに、男は答えなかった。ただ、ゆっくりと剣を下げると、一歩後ろへ下がる。


「……お前たちに選択の余地を与える」


 そう言い残し、男は夜の闇へと消えていった。


 和真と玲奈、そして蓮はその場に立ち尽くす。


「……今のは、一体?」


 和真が震える声で呟く。


 玲奈は、ただ静かに夜空を見上げた。


「私たちの存在が、この時代を狂わせる……?」


 彼女の言葉が、夜風に溶けていく。


 和真は強く拳を握った。


 ——自分たちがこの時代に来た理由。それが、ただの偶然ではないとするならば。


 これから、自分たちは何を選び、どう生きるべきなのか。


 夜はまだ、深かった——。


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