001
特に考えなしに書いているので、読みづらいところや思考の飛んでいるところがあるかもしれません。
飽きるまで読んで頂ければ幸いです
水瀬和真は、机に広げた数学の問題集とにらめっこしながら、溜息をついた。
「……ダメだ、全然頭に入らない」
図書館の自習室は静まり返っていた。机の上には参考書と筆記用具、そして古びた懐中時計が置かれている。祖父の遺品として譲り受けたもので、和真はなぜかこれを手放せずにいた。
「……もうこんな時間か」
懐中時計の蓋を開くと、短針と長針が午後十一時を指している。そろそろ帰らないと明日の授業に響くが、どうにも勉強に身が入らない。受験勉強に追われる日々、そして最近ぎこちなくなってしまった幼馴染の篠宮玲奈のことが頭をよぎる。
彼女とは小さい頃からずっと一緒だったが、玲奈は音楽大学への進学を決め、和真とは違う道を歩もうとしていた。それが分かってから、どこか距離を感じるようになってしまった。
そんなことを考えていると、不意に懐中時計の針が逆回転を始めた。
「え……?」
思わず時計を握りしめた瞬間、まばゆい光が溢れ、視界が真っ白に染まる。
---
意識が戻ったとき、和真は柔らかい草の上に倒れていた。夜の静寂が広がる森の中。さっきまでいた図書館の雰囲気とはまるで違う。
「……ここは?」
立ち上がろうとして、違和感を覚えた。服装が変わっている。着ているのは灰色の学生服ではなく、和装のような緩やかな衣。布の手触りが異様にリアルだった。
「夢……なのか?」
冷静になろうと、頬をつねる。痛みが走る。
辺りを見回すと、森の奥にぼんやりとした光が見えた。とにかく状況を確認しようと、その方向へ向かう。木々の間を抜けた先には、月明かりに照らされた広大な都が広がっていた。
立ち並ぶ木造の屋敷、道を行き交う人々の衣装、そしてどこか馴染みのない言葉。和真は戦慄した。
「まさか……平安時代……?」
混乱しながらも、人々の話を聞こうと近づくが、彼らの言葉はどこか違う響きを持っていた。完全に理解できるわけではないが、不思議と意味は分かる。
それでも、和真の存在は不審だったのだろう。じろじろと見られ、ささやき合う声が聞こえる。そのとき——。
「何者だ!」
突然、甲冑をまとった武士たちに取り囲まれた。
「ま、待ってくれ!」
思わず後ずさるが、すぐに木刀のようなもので肩を押さえつけられる。
「間者か? 答えぬならば捕縛する!」
刀を抜こうとする武士たちを前に、和真はどうすればいいのか分からなかった。言い訳をしようとしても、この時代の言葉を完全には使いこなせない。
絶体絶命——そう思ったそのとき。
「お待ちなさい!」
澄んだ声が響いた。周囲がざわめき、武士たちが道を開ける。
そこに現れたのは、十二単を纏った一人の少女だった。美しく整った顔立ち、凛とした佇まい。その姿を見た瞬間、和真の心臓が跳ね上がる。
「……玲奈?」
間違いない。そこに立っていたのは、幼馴染の篠宮玲奈だった。
「和真くん、やっぱりあなたも来たのね」
玲奈は穏やかに微笑みながら、そう言った。
その言葉の意味を理解するより早く、和真の意識は混乱の中に沈んでいった……。