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2. 第十一区都市カルカンヌ

 森に生える木々の高さはどれも50メートルばかりの大樹だ。その迫力にも引けを取らないほど巨大な壁が目の前に立ちはだかっていた。


 アルバーから聞いていた通り、まさに城塞都市と言うに相応しい格好をしていた。

 生まれ育った森からおよそ5日間の移動を経てやってきたのは、人間国の第十一区都市カルカンヌという所だ。


 立ち並ぶ巨大な壁の一部には大きな鉄門が構えられている。審問所だろうか、人の列ができており順々に審査されている。

 前にならって俺もその列に仲間入りさせてもらうことにした。


 こうして自分以外の人間を目の当たりにして感情に起伏が発生するのかとドキドキしていたが、実際はそれほど思うことも無く、特段冷静でいることが出来た。

 やはり外見上では差程の違いはないように見えた。


 彼らは魔物という括りで分けられているが、その中でも理性を持つ持たないで大きく違うのだという。

 敵対する人間にとってはそんな事はどうでもいいと思うが、彼らからしたら意思疎通ができるできないで大きく異なる。

 単に外見が人に酷似しており理性を持っている魔物を魔人種というらしい。


「──前に進め」


 前に並ぶ人が審問官の横を通り、俺に順番が回ってきた。持ち物としては、アルバーが過去に持ち帰った硬貨があるということで持たせてくれた他、愛用している剣一本だけだ。

 周りを見ると、俺と似たような格好の人が数人いたために、特別おかしい格好ではないと思っていた。


「どこから来た?」


「……旅の帰りです」


「旅人か。なら良し」


 咄嗟に思いついたのが旅人であるという嘘しかなくて焦ったが、どうにか問題なく入国できそうだ。


「近辺では森から魔物が出現するケースがある。ここらで旅をすることはあまり勧めない」


「あっ、はい。気をつけます」


 人が良さそうな審問官の横を通り抜け、門の真下を潜ろうかと迫った時──


「おいマーク、身分証の提示を徹底しろと局長に言われただろ」


「あぁそうか、忘れていた。悪い」


 ……終わった




「………」


 身分証がないと分かるや否や即座に怪しい人物と認定され、とある建物に連れられた。

 上司を呼ぶから待ってろと一言言われ、部屋には俺を監視する男だけが残った。


「……………」


 顔を前へ向けた姿勢のまま微動だにしない監視役の男へと視線を向ける。

 この男からはラブンと同等かそれ以下の魔力しか感じられない。溢れ出る魔力を抑えているにしても、わざわざこの少量を残すだろうか。

 確かアルバーは自らの膨大な気配を隠すために最小限まで抑えていると話していた。となればこの男も相当な実力者なのだろうか。


 と、壁に設置されている扉がギギギと軋み声を上げて開かれた。金色の髪が目立つ若い男が入ってきた。青年と言うべきか、監視役の男よりも若そうだ。


 部屋に入るなり、俺と対になるようにして机の反対側の椅子へと腰掛けた。


「さて、少年。いくつか質問をするから答えてくれ」


「……分かった」


「少年は旅人であると言うが、出身はどこだ?」


「……ここから東にある遠方の街から来た」


「東…?あちらには大森林しかないが……そこを越えた先に少年の街があるのか?」


「はい」


 これで押し通すことが出来なければ他に言い訳はない。

 部屋に三人、ここに来るまでに五人ほどの兵がいた。逃げ切れるだろうか。


「少年、歳はいくつだ?」


「え、15ですけど……」


「15歳か。そんな子どもが遥々旅をするものなのか。この国では満16歳にならなければ冒険者にも魔法学園にも通えない。当然仕事も許されないのだが……どこかあてはあるのか?」


「え、ちょっと待ってください。じゃあ16にならないと何もできないんですか?」


「そういう事だ。悲惨ではあるが、この国では未成人に人権が与えられないからな。成人になるまで親元を離れないのが常識だ。……知らなかったのか」


 嘘だろ……。俺は何のためにここ来たんだ。さすがのアルバーもこれは知らなかったのだろうか。

 机に肘をつき両手で頭を抱える。なんて虚しいのだろう。

 最初から年齢を偽っていれば良かったのか?


「虚偽の身分証が発行されたことが分かれば、即刻死刑だよ」


 えーーー!?即刻死刑?

 罪重くね?


「──少年がここに来たのは、ただの旅目的というわけではないんじゃないのか?本当の目的は何だ?」


 すでにこの男には色々と透けている。今さら嘘を言ったところで無駄だろう。


「……この世界についてもっと学びたいから来たんだ。恩人からの勧めでここを目指して来た」


「なるほど、それは魔法について学びたいという事であってるか?」


「あぁ。まだまだ俺の知り得ない魔法が何千何万とあるに違いないと思ってる。俺はそれがどんなものなのか、この目で確かめたい」


 男の目を見てつい興奮気味に語ってしまったことに気がつき、机に乗り出していた身を引っ込ませる。


「少年の心意気はよく分かった。僕も魔法には無限の可能性を感じている。いつか君のような人間と出会える日を待っていたよ!」


 先程までのやや険しい表情はどこへ行ったのやら、目の前の男は年相応ぶりな嬉々とした顔をしていた。


「──いいだろう、少年を魔法学園に入学させる」


「「!?局長!それは国の重刑に当たります!」」


 後ろの兵士二人が驚いたように声を揃えてそう言った。先程この男が自身で言っていたことだ。虚偽の身分証発行は即刻死刑に値すると。


「それはバレたらの話だろ?バレなければ何の問題もないじゃないか」


「いやしかし……」


「お前たちが上の人間にチクらなければいいだけなんじゃないか?」


「「──!」」


 局長と呼ばれたこの男、審問官たちの直属の上司なのだろう。上司として部下に何たる暴挙を振るっているのか……


「私は!あの日局長から頂いた恩義を片時も忘れたことはありません!私の上司は局長ただ一人です」


「──!じ、自分の上司も局長だけであります!!」


 誰かにばらすことなど有り得ないときっぱり言い放つ二人の部下を後ろ目に、男はよろしくと言って手を差し伸べてきた。




 壁と壁の隙間が僅か1メートルほどの路地を歩き進みやがて見えたのは、大勢の人が行き交う大きな通りだった。全幅20メートルほどの巨大なレンガ道の左右端には多くの店が立ち並び賑わっている。

 ここは第十一区都市カルカンヌの街中だ。


「ガイランゲル王国にある十一の都市の中でも 最大規模と言われている市場だよ」


 審問所を出て、男に連れられて今に至る。


「ここはまた別の日に来るといい。いつでもやってるからね。さ、ついて来て」


 賑わう通りから外れ、歩くことほんの5分ほどでやって来たのは一つの屋敷だった。

 俺の生まれ育った街ではまず見ないほどの大きさをしている。ちょうどヤックたちの住む家と同じくらいだろうか。


 玄関扉を開け、中に入るよう誘導されるがままにお邪魔した。


「あの、ここは……?」


「僕の家さ。これからは僕と少年………まぁいいか。とにかくこれから一緒に住むからよろしくね」


「え、いいんですか?」


「もちろんだよ。とりあえず上がろうか。遠慮しないで自分の家だと思って使ってくれ」


 そう言って玄関に俺を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。いきなり自分の家だと思えと言われても……何が何だか。いまいち状況が呑み込めないでいる。


「さて、じゃあまずは自己紹介からかな。僕はアラン、流石に分かってると思うけど、第十一区の審問局長をやっている」


「俺、いや僕はルベリアだ」


「あぁ別に畏まらなくていいって。僕の一人称がこれなだけで、少年──ルベリアは「俺」だろ?それに、歳だってほとんど変わらない訳なんだし」


「え──?いや、歳変わらないって……」


「ルベリアは15歳だろ。僕はその一個上の16だから」


「えーーーーー!!!???」


 本日二回目にして一番の驚愕だ。たしか16から成人となって人権が与えられるという話だ。え?審問局長ってそんな簡単になれるものなの?


「まあそういう訳だから、タメ口で全然構わないよ」

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