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巻き込まれ体質の異世界者  作者: 田原あんぱん
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2-2、忍び寄る影

ファーストホルダーに勝手に選ばれて数日が経った。

神に祈りを捧げると、神と名乗る爺さんと繋がって余計なことになりそうなので、あれから祈りは行わなかった。


加護がなくても特に問題なく生きていける。

若干体が重くてだるいことと、魔力が枯渇するから魔法が使えないその程度だ。

ブレシングスキルは固有の能力であるため、魔力量は必要とせず問題なく発動する。


むしろ、もう魔法のない世界で生きているのだから、チート的に魔法を使うのも宜しくはないと思うことにした。


(魔法無しで生きていこう!)


そう決意しながら、教室を出て部室へ向かう。


すると、絵奈が後ろから追いかけてきた。


「波木くん、一緒に部室いこ」


2年になりクラス替えがあったが、絵奈とは今回もクラスが一緒になった。


靴を履き替えて、本館の後ろを通り抜けようとした時だった。絵奈が真白の袖を掴み突然立ち止まった。


「どうした?」


真白は突然の出来事に少し驚く。


「クラスの女子たちが波木君のこと真白くんって呼んでるでしょ・・

だから私も真白くんって呼んでいいかな」


絵奈は照れくさそうにしている。


新しいクラスになった初日、確かにクラスの女子達に囲まれて、下の名で呼んでいいか聞かれたのだった。


「どうぞご自由に」と真白が答えたため、それで定着し男子からも真白と呼ばれている。


「うん、いいよ」


「ありがとう!じゃあ、私のことも絵奈って呼んでもらえたら嬉しい・・・」


「分かった」


呼び方に特にこだわりはなかった。


「やった!!!」


絵奈すごく嬉しそうだった。



部室に入ると、普段この部屋で見かけることのない人物がそこにはいた。


「よぉ!!」


パイプ椅子にドシっと腰かけている吊り目くんこと夏川だった。


「たぁくんなんでここにいるの?」


絵奈が驚いて問いただす。


すると、部長の鏡花が饒舌に語りだした。


「夏川、うちの部に入りたいって頭下げてきてね、だから仕方なく入部を許可したってわけ。

ほんとは嫌だったんだよーでもねーこいつ高校時代部活何もしてなかったんだって。青春を無駄にしてたと思わない?

思うよね?だから引退まで数か月しかないけど、まぁ楽しんでいってって言ったのよ。やっぱり私って優しいよね」


「なんか裏がある気がして仕方ないんですけどね」


田島はよく鏡花の性格を知っている。


「はぁ?ないよないよーー!!夏川の田舎のおばあさん家に遊びに行っていいなんて、そんな条件に釣られてなんてないよぉ」


「やっぱり」


田島は納得して頷いている。100発100中である。


「あ、でもたぁくん野草とかにすごく詳しいんですよ。昔は雑草博士なんて言われてて・・」


絵奈は夏川をフォローするようにそう言うと、夏川もまんざらでもない顔をしている。


「まぁ、野草はここら辺に住んでたら一生理解できないだろうな。似たような形状の物も結構あって、

本で見ても差が分かりづらいんだ。実際に触って匂いを嗅いで違いが分かるものもある」


自慢気に話す夏川だったが、それに反応したのが真白だった。


「吊り目くん!!!」


なぜか夏川の手を両手で握りしめている。


「な、なに?・・・てか先輩だろ!」


「吊り目先輩!!!」


「いや夏川先輩だろ!!」


「俺を野草のある場所に連れて行って、いろいろ教えてください」


真白は目をキラキラと輝かせている。


図書室の文献で野草の本は見たけれど、そうか確かに実物を見ないことには始まらない。

夏川についていけば、実物の野草をたくさん拝めるかもしれない。


「おー!?なんか分からんけどいいぞ。俺のばあちゃん家付近は野草の宝庫だ」


「ありがとうございます。吊り目先輩!!!」


真白の中の夏川の評価が10上がった。

夏川も急に慕ってくれる後輩ができたようで嬉しそうにしている。


こうして、夏川祖母の家に、真白、絵奈、鏡花、田島、引率夏川で遊びに行くことになった。




電車とバスを乗り継いで、夏川祖母の家に到着した。

周りは山と田と畑に囲まれている瓦屋根の大きな民家だった。


「ばあちゃん--!」


引き戸の玄関扉を勢いよく夏川が開ける。

すると、中から割烹着を着た優しそうなおばあさんが玄関に迎えに来てくれた。


「いらっしゃい。遠いところから良く来てくれたねー!さぁ上がって上がって」


「園芸部の部長、遠見です。この度はありがとうございます。お世話になります」


真白、絵奈、田島も鏡花と一緒に頭を下げる。


「まぁ、ご丁寧に。お腹すいたでしょう。昼ごはん用意してあるからね」



嬉しそうに手招きをしている。


すると、奥の部屋から一人の男性が現れ、大きく声を上げた。


「絵奈ちゃん・・・!」


「・・おじさん?」


絵奈は勢いよく靴を脱ぐと、その男性の腕に抱き着く。

夏川の父だった。


「おじさんほんとにごめんなさい!!!」


絵奈は泣いているようだった。


「絵奈ちゃん、大きくなって・・元気だったかい?菜穂ちゃんもお母さんも元気にしてる?」


うんうんと絵奈は大きく頷く。

その様子に、夏川の父も嬉しそうだ。


「それはよかった。絵奈ちゃん達が悪いわけじゃない。だから気にしなくていいんだ。お父さんから連絡はないか?」


「うん・・・ないよ」


絵奈は少し表情を曇らせる。


「そうか・・・ずっと心配してたんだよ。でも、私もちょっと休養が必要でね。

でももう元気になったから、何か困ったことがあったらいつでも相談するんだぞ。おじさん出来ること少ないかもしれないけど、出来る限り頑張ってみるから」


「ありがとうおじさん」


その様子をただ茫然と見ていた真白たちに気付いた夏川の父は、絵奈をくるりと後ろに向かせた。


「ほら、みんながびっくりしてるぞー!せっかく来たんだ。楽しんでいってくれ」


するとなぜか夏川がもらい泣きしている。

「親父・・・やっぱ最高かよ」


間違いなく夏川はファザコンだと思う真白たちだった。




夏川の祖母が用意してくれた昼食は、山菜の炊き込みご飯で作った大きなおにぎりと稲荷寿司がどん!と大皿に並べられており、その他の大皿に煮物、漬物の盛り合わせ、から揚げ、そして各々にすまし汁があった。


「ほんとおいしーー!!」


絵奈や鏡花が声を上げる。


「何にが入っている?」

と使われている山菜に興味津々の真白。


そして、無口な田島。


夏川は「ばあちゃんの料理はうまいんだ!」と自慢げに声を上げている。


昼食後は各々好きなように過ごした。

真白は、夏川の祖母に案内してもらい、田や畑について学んでいたし、

夏川は鏡花と田島を近くの川へ案内し、水辺で遊んでいた。

絵奈は、夏川の父親と近況について縁側で話し込んでいた。


日が暮れると、急に寒くなった。

「じゃあ、じゃんけんで決めようぜ」

夏川は楽しそうに提案する。

男子と女子、どちらがどの部屋を寝室にするかというじゃんけんである。

母屋の縁側に面した部屋か、離れの少し狭い部屋かである。


母屋には、襖を挟んで多く部屋があった。

しかし、「男子と女子の部屋が近いのは宜しくないぞ」と夏川父が笑顔で制したため、部屋割りをどうするかという話になったのだ。


「どっちでもいいんですけどね」


と言う真白に対して、「はぁ?それじゃあ面白くないだろ」と夏川が言った。


鏡花も「そうだそうだー!」と夏川に便乗した。


鏡花VS夏川


「絶対私が勝つ!!!!」


鏡花は勢い付いている。


「まぁ俺が勝つけどな!!!」


「部長頑張ってー!!」


絵奈も楽しそうだ。


「じゃんけん!!!!!!」


グーとパー


鏡花の勝ちである。

鏡花たち女子は、母屋の部屋をゲットした。



絵奈はお風呂を済ませると、長い縁側の先の部屋を目指した。

窓から見える外の景色は、まさに漆黒。

街灯がないとここまで暗いのかと思うと、若干怖くもある。


窓を開けると星が見えるだろうか。

絵奈は、少し窓を開けてみることにした。

虫が入らないようにできるだけ窓の隙間を少なくして、頭と肩だけ身を乗り出した。


「あーきれい」


すさまじい量の星が見えた。


しかし、次の瞬間、心臓が飛び跳ねる。


目の前の生垣に黒い物体が蠢いたのである。


「きゃぁ・・・!」


絵奈は急いで窓を閉め、その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。

すると、その声を聞いた鏡花が飛んできた。


「絵奈どうした!!!」


「今、あそこで黒い影が動いたの!!!」


「あそこ?」


鏡花は室内の光を遮断するため、瞼の上を両手で囲い、ガラスに張り付きながら外を覗き込む。


「うーーーん。何もいないよ」


と鏡花は言うと、絵奈が閉めた窓を勢いよく開いた。


「やっぱりなんもないな」


「ほんとですか・・・?」


絵奈は恐る恐る外を見る。

確かに動くものは何もない。


「絵奈、もしかして幽霊みた?」


鏡花はにやにやしている。


「やめてくださいよぉ・・・」


半泣きになる絵奈の背中をなでながら、鏡花は優しく抱きしめた。


「大丈夫」

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