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巻き込まれ体質の異世界者  作者: 田原あんぱん
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2-1、神に選ばれました

何か座右の銘を決めろと言われたら、「平穏無事」と答えようと真白は思っている。

特別な刺激や力も必要はない。ただ、単純に毎日を平和に過ごしたい。

望みはただそれだけだ。


しかし、異世界からの転生という普通ではありえない体験をした真白に対して、

そんな甘い人生は用意されていないのだ。


「えーーーと、ちょっと頭整理するんで待ってもらえますか」


今置かれている状況に頭がくらくらしていた。

今日は確かに朝から体に違和感があった。

痛いわけでも苦しいわけでもないのに、心臓が妙に熱を帯びているような感覚。

しかし、その違和感を認めてしまったら余計なことに巻き込まれそうな気がして、

気のせいということにしてやり過ごしていたはずなのに。


「それはいいけどぉ、ワシ、お主に何度も問いかけてたんだよ。無視してたでしょ?」


やっぱりあの違和感はこの脳内にはっきりと浮かぶ老人の仕業だったようだ。

体の水分が全部抜けたかのようなしわだらけの肌と曲がった腰、

手に持った杖を頼りに、何とか立っている状態に見えた。

手は小刻みに震えているし、もういつ死んでもおかしくないんじゃないかと思えた。


寝る前の日課である加護神への祈りを捧げたのがまずかった。一気にこの老人に繋がってしまったのだ。


混乱する気持ちを抑えながら、真白は質問する。


「それで、本物のオルス様だとして、僕に何の御用時ですか?」


オルス神、それは真白の加護神の名である。

50人に1人という凡人ブレシングスキルしか持ち合わせていない真白にとって、直接神が話しかけてくるなどありえない話だ。


神を名乗る偽物と考える方が自然だと思う。


「よくぞ聞いてくれた!心して聞くが良い」


オルスと名乗るこの老人は、顔をキリッとさせた。

手の震えは止まっていなかったが。


「おぬしは・・・!!!ワシの・・・ごほごほ」

神は興奮したせいでむせ返っている。


「大丈夫ですか?」


のどを詰まらせて死にそうだ。


「大丈夫じゃ・・・!改めて申し伝える。


「波木真白、お主をワシの上位筆頭者ファーストホルダーに任命する」



「えええーーーーー!!」


真白は愕然とその場にふさぎ込む。


絶望絶望絶望の中の絶望。

目立たず、地味に、平穏に生きられればそれでいいだけなのに、そんなものに任命だなんてマジで無理だ。


そして、神に丁重に申し伝えた。


「・・・お断りします」




人間は、神の祝福を持って子は生まれ、神の加護によって固有能力「ブレシングスキル」を必ず1つ授かる。

そして、その加護を授けてくれる神の名を3歳の時に教会によって伝えられ、

感謝の祈りを捧げることと引き換えに、魔力を得る。


神がどのブレシングスキルをどういう理由でその者に与えるかは詳しくは分かっていない。


世襲制で現れるものもあるにはあったが、ランダムなのかと思えるほど血筋は関係ないものが多かった。


例えば、「風属性特化」のブレシングスキルを持つ者は、初級魔法ウインドカッターから派生する数多くの風魔法を取得できた。

しかし、魔法属性に関わる能力を持ち合わせていない真白のような者は、ウインドカッター(初級)は使えても、それ以上のものを取得することは難しかった。

ブレシングスキルに由来した能力のみ、その鍛錬によって取得できるというわけだ。


前世では、魔法士や戦士など、戦力として適性のあるブレシングスキルが貴重価値があるとされていた。それは、圧倒的に保有人数が少ないことにも由来していたし、

国家魔法士や国家直属部隊としての地位を得られる可能性が高かったからだ。


真白の「絶対的記憶力」など50人に1人な上に、魔道具で替えが効くとなると、雑魚扱いである。


雑魚がファーストフォルダーになるなんて、聞いたこともなかった。



上位筆頭者ファーストホルダーとは?


「神に選ばれし人間の頂点に立つ者たち」のこと


前世では一般的な教養本「神々の仕組み基本編(下巻)」に記載されている中学生レベルの知識である。


ファーストホルダーは、貴重価値のあるブレシングスキルを持つ者、「上位能力者」から現れると言われていた。


「なんで俺がファーストホルダーなんですか・・・なにより俺のブレシングスキルは雑魚クラスですよ」


真白は頭を抱えた。目立たず、そっと生きていきたいのだ。そんな怪しい立場なんてごめんである。


「人間がブレシングスキルにランク付けしてるだけで、神にそんな考えはないの」


オルスはしれっとそう伝えた。


「考えてみぃ、戦力特化の能力者ばかりの世界だとどうじゃ。誰が作物を作る?誰が物を売る?

あっちやこっちやで火の手が上がるじゃろう。神はバランスを見て適正に合わせて能力を与えているだけじゃ。上も下もない。

ただ、人間が言う上位能力者は、その地位を手に入れるために努力してる者が多い上に、命が惜しいから

神への祈りが頻繁になる。それで神と繋がりやすくなる。まぁ努力なくして上にはいけんってことじゃの」


その理屈は分かったとしても、それならなおさら真白は不適合者である。

能力強化の努力などしていないからだ。


「でも、祈ってるのだって加護が貰えるからで信仰心も薄いし、俺は無理です」


そういうとオルスは「うーん」と唸りだした。


「それがの、前のファーストホルダーだったぽっくり爺さんが危篤になっちゃって。友達のサキュバスちゃんに頼んで、乳房をぽっくり爺さんの手に含ませてあげたわけ」


(友達のサキュバスちゃんって・・・サキュバスは悪魔だった気が・・・)


真白は突然悪魔の名前が出てきたことに驚く。


「そしたら、息を吹き返したからサキュバスちゃんに添い寝してもらって、何とか1か月頑張ってくれたんだけど」


危篤だった者が1か月、よく頑張ったと思う。


「さすがにもう無理って言って死んでしまっての・・・まあそんなこんなでお主がファーストホルダーに決まりましたぁ」


オルスは嬉しそうに緩く手を叩く。


「いや、他の優秀な人から選んでくださいよ」


真白がそう言うと、オルスは急に小声になりこう告げた。


「他にいない」


「え?」


「もう他にいないの。わしが加護与えてる人間。おぬしだけ」


「えええ、そんなことってあるんですか」


無名神なわけだから、加護を受けているものは少ないとは想像していた真白だったが、さすがにここまでとは思っていなかった。


「いやー色々あってさ、てへへ」


しかし、なんでそんなに照れながら言うんだろう。


やっぱりこいつ偽物の神じゃないか。

神というのはもっと偉大なものだと思っていたのに、その辺の老人と変わらない。


「ま、そういうことで宜しくの!あ、あとぽっくり爺さんに授けていた能力、おぬしに授けといたからの!後でそれっぽいの作って送っとくー」


それっぽいのってなんだ・・・


「ちょ、ちょっと待ってください」


脳内のイメージから消えようとする神を呼び止めるも、


「じゃあまたのー!あ、毎日の祈りは忘れずにの」と言って逃げるように消えていった。


頭が痛い。

人生2回目だけど、その両方合わせても最大の不幸日だ。


しかし、考えてもしかたないのでとりあえず寝ることにした。


「どうにかなれ!」


真白は自暴自棄になっていた。



朝起きると脳内イメージに1通の通知が届いていた。


上位筆頭者ファーストホルダー 特別固有能力 「加護の判定」を授与する


確かに、それっぽい賞状のようなもので作られていた。


(これも100人に一人は持ってる中の下の能力じゃん・・・・)


「君のはブレシングスキルは○○だよー」とか「加護神の名は〇〇だよー」

とか鑑定できる教会職員の必須スキルだが、小さな村でも一人はいる珍しくも何ともない能力だった。


真白はそれっぽい賞状をイメージの中で破り捨てた。


あれは偽神に違いないな、見なかったことにしよう。


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