表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた財布  作者: 魔洗水
1/1

「財布がない!!」

「財布がない!!」


突然、一人の同僚が悲鳴を上げた。

彼の名前は『縦倉』。入社2年目の若手である。


カバンの中に入れておいた財布が消えてしまったらしい。

話を聞くと、縦倉は財布の入ったカバンを休憩室に置いたまま、その場を1時間ほど離れてしまった。

戻ってきたら中の財布が無くなっていたのだ。


「本当にカバンの中に入ってたのか?」

「どこかに置いてきちゃったんじゃないの?」

「ロッカーにあるんじゃね?」


周りから色々言われる縦倉。

縦倉はムッとし、「確かにカバンの中に入ってたんですよ」と強く言い張った。


事件が起きた休憩室は、休憩時間以外はほとんど人の出入りが無い。鍵は無く、誰でも自由に出入り出来る。そんなセキュリティゼロの環境にも関わらず、私物を置いたままにする人(特に若手)が多い。


そんな状態が何年も続いていたが、不思議と盗難が起きた事は今まで一度も無かった。つまり、今回が初めての事件。


「よし、みんなで探そう!」


そう言い放ったのは、縦倉の2つ上の先輩の『ピータロー』だ。

ピータローは後輩の面倒見がよく、後輩たちからも慕われていた。もちろん縦倉からも。

困っている縦倉を見て、居ても立っても居られなくなったらしい。


その場にいた数名で辺りを捜索する。だが、いくら探しても見つからない。


「やっぱり盗まれたのかな...。」


泣きそうな顔で言う縦倉。


「そんなことする奴、この職場にいるかな? きっと見つかるよ!」


縦倉を励ますピータロー。捜索はまだまだ続く。

縦倉が今日立ち寄った場所、歩いた道、全てくまなく探した。

だが、財布が見つかることはなかった。


キーーンコーーンカーーンコーーン...。


終業のチャイムが鳴り響く。捜索は中止された。


「オレ財布の中に定期入れてたんですよ。帰りの電車代自腹か...。ってか、財布が無いから切符も買えないし。」


しょんぼりする縦倉。

すると、それを哀れに思ったピータローがこう言った。


「今日オレ車だから、お前の家まで送ってってやるよ。お前の家知ってるしね。」


驚く縦倉。先輩に家まで送ってってもらうなんて、そんなことお願い出来るはずがない。しかも縦倉の家とピータローの家は全くの逆方向。


「とんでもない! 同期に金借りるので大丈夫です。」


「本当にいいの? 送ってあげるのに。」


「大丈夫です! オレのことは気にしないでください。今日は一緒に財布探してくれてありがとうございました。」


ピータローは悲しそうな顔で帰っていった。

なんて素晴らしい先輩なんだ。一生あなたに付いていきます。そう心に誓った縦倉であった。



翌日、今回の事件は職場全体に知れ渡っていた。

会社からは「貴重品は置いたままにするな」という忠告が下された。


「よお縦倉。お前も財布盗まれたのか。」


そう声を掛けたのは、縦倉の3つ上の先輩の『西原』だ。


「俺もこの前パチンコ屋で財布盗まれたんだよ。」


先日、会社帰りにピータローとパチンコ屋に行った西原。ちょっと目を離した隙に財布が無くなっていたという。


「免許やクレカの手続きがクッソだるかった。金も下せないし。」


「ですよねー。俺もやらなきゃ...。」


ため息をつく2人。そんな2人のもとに、ピータローが近づいてきた。


「あ、ピータローさん! おはようございます! 昨日はありがとうございました!!」


元気に挨拶する縦倉。


「おはよう。昨日は災難だったね。大丈夫?」


「大丈夫じゃないです...。」


しょんぼりする縦倉。

すると西原がピータローに向かってこう言った。


「おい、ピータロー。お前、疫病神が憑いてんじゃねーの?」


「ちょっとー、西原先輩、変なこと言わないでくださいよー。」


ピータローをいじる西原。2人はとても仲良しだ。


今回の事件以降、休憩室に私物を置く人はいなくなった。だが、それも束の間。半月が過ぎると、また置き始める人が徐々に現れていった。


そして、またもや事件が起きてしまった。

つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ