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第6話 活発な意見交換会

 資料調べから二日後、放課後の談話室では二回目の代表会議が開かれていた。


「さっそくだけど、次のお茶会について意見を交わしたいと思う。まずは僕とシャルロットの二人で過去のお茶会について調べたから、参考までに聞いてほしい」


 セヴリードの提案に皆頷く。自分の名前が出るだなんて思いもしなかったシャルロットは、嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになる。あの時は失言することもなく、楽しい時間だった。


 セヴリードはそんなシャルロットに気づかずに、各代の色が強く出ることを含めた全体の印象から説明をし始めた。その後、具体的に昨年と一昨年のお茶会について解説をする。

 シャルロットはセヴリードと事前に確認をしていたので分かっていたが、書記担当のフィンだけでなく他の代表も興味津々のようで集中して話を聞いていた。


「……以上が過去のお茶会の傾向。今年はどうしようか」


 セヴリードの問いかけに最初に反応したのは侯爵家のマチアスだった。


「正直、俺は皆が楽しめればそれが良いと思ってる。具体的な案というより、概念で申し訳ないけど」


 茶目っ気のある笑みを浮かべるマチアスに、セヴリードは同意した。


「僕も同感だよ。生徒同士の親交を深められるお茶会にしたいんだ。皆もどうかな?」


 シャルロットを含め、グレトーナ、フィン、ロニカもそれぞれ同意の言葉を口にする。その中でグレトーナがのんびりとした口調で続けて考えを述べた。


「それなら立食形式にして、皆で茶葉を持ち寄るのはいかがでしょうか。それぞれ個性が出て、きっとお話をするきっかけになるんじゃないかしら」


 グレトーナの提案聞き、シャルロットはその光景をすぐに想像した。なるほど、確かに盛り上がりそうだ。クラス関係なしに様々な会話が発生するだろう。

 共感したシャルロットはグレトーナに視線を送り、微笑む。


「グレトーナ、とても素敵ね。楽しい想像がすぐに出来たわ。今年はフィンを始めとした商家のご子息が多いし、近隣諸国に駐在していた家や留学生もいるから、お茶の種類も期待できそう」


「任せてください。うちの実力お見せしますよ」


「フィンが用意するお茶は評判になってすぐに無くなりそうね」


 話に乗ってくれたフィンにそう言って返す。

 盛り上がってきた議論だったが、ロニカから冷静な指摘が入る。


「んー、楽しそうですけど、ちょっと心配。生徒がそれぞれ用意するとしたら、お茶の量、凄いことになりますよね? 途中で冷めちゃいそう」


 シャルロットは改めてお茶会を想像した。一斉に並ぶポットは最初熱々で、徐々に熱を失い冷めてしまう。生徒分のポットがあるからこそ入れ替わりも頻繁に起きず、美味しくない紅茶になってしまいそうだ。


 どうしたものかと思案していると、マチアスが自信満々な笑みを見せた。


「魔石を使えば解決するよ。熱を発する平べったい魔石の上に対応するポットをおけばいい。魔石とポットの調達は俺に任せてよ。発熱するよう魔力も全部に込めておくからさ」


 天才魔法使いと名高いマチアスは、さも簡単なことのように言いきった。しかし、実際は魔石の改造に専用ポットの準備と高度な技術が求められる。さらに加えて、全生徒分を用意しなければならない。

 シャルロットは想像しただけで、戦いた。魔力も技術力も求められるだなんて、魔法局でも出来る人は少ないだろう。


「あの、身体に負担はないのかしら。無理はよくないわ」


 シャルロットは思わず声をかけた。マチアスはシャルロットの反応に驚いたのか、眉を一度大きく動かした。


「ははーん、公爵令嬢は俺の実力を甘くみてるな。至急、資材を集めるから一個試しに作って見せてやるよ。驚くなよ」


「それなら僕も同席させてもらおうかな。構想を練りたいし」


「歓迎するよ、王子様」


 何故か、流れでマチアスの能力をセヴリードと一緒に見ることが決まってしまった。元々マチアスのその才能を見たいと思っていたので、シャルロットは素直に喜んだ。どんなものが見られるのか、今から楽しみだ。


「あの、少しいいですか」


 黙々と書いていたフィンが手を止め、皆に視線を向ける。


「第一クラスや第二クラスでは問題ないと思いますが、第三クラスには試験を突破して入学できた生徒が多数います。質素な生活をしていて、国からの補助で学園生活を送っている者もいます。その中には紅茶をそもそも飲んだことがない者もいると私は推測しています」


 フィンは真剣な声で続けて周りに語りかける。


「以前、馴染みの行商人と話をした際に、茶葉の使い方を知らない人たちがいると聞きました。どうやらパンに振りかけるものだと思っていたようで、正しい使い方を説明したところ、大変驚かれたとのことです」


「えー、パンにかけちゃうんですか! 信じられない」


 ロニカの驚愕にフィンはゆっくりと首を縦に振って同意を示した。


「私も驚きましたが、行商人の話は確かです。このことを踏まえると、茶葉を選ぶどころか、そもそも使い方が分からない生徒もいるのではないかと思います。恥ずかしい思いをさせてしまう可能性があります」


 思いもよらない話に皆、静まってしまう。名だたる家の出身者ばかりなので、紅茶の楽しみ方を知らない人がいるだなんて、想像すら出来ていなかった。

 シャルロットも色々とフィンから話を聞いていたが、この話は初めてだった。


「そこで考えたのですが、持参したい茶葉がない、あるいは茶葉のことが分からない生徒向けにオリジナルブレンドを作れる機会を設けたらどうでしょうか。紅茶用の茶葉だけでなく、ハーブや他国の茶葉も用意したら植物や他国について勉強することもできます。茶葉は私を含んだ生徒の商会から取り寄せれば費用も安く済むでしょう」


 問題を提示し、すぐに解決策を提案する。そこにさり気なく自分の家を関与させるフィンの手腕に、シャルロットは驚きつつも感心した。ラファシェ商会の未来は間違いなく明るいだろう。

 真剣な顔で話を聞いていたセヴリードが口を開く。


「自分の視野の狭さを思い知ったよ。フィンの言うとおり、学園には色々な出自の生徒がいるからそこを考慮しないとね。生徒同士の仲を深めたいのに、そもそも参加する生徒を傷つけてしまう可能性があるとは思わなかった。フィン、話してくれてありがとう。僕はその案に賛成」


 周りも賛同を示し、無事に今回のお茶会のテーマが決まる。

 その後も会議は円滑に進み、お茶会の計画がどんどん決まっていく。事前の講習会も含め、大まかな内容が決まり、二回目の会議も終わりを迎えようとしていた。

 そんな中、セヴリードがフィンとロニカに声をかける。


「そういえば、第三クラスには留学生が来ていたと思うけど、学園には慣れたのかな?」


 第三クラスには、隣国のアルグ公国から来た留学生が来ていた。この国を守る女神について詳しく学びたいという強い想いで一人でこの国に来た男子生徒だ。大地主の息子でなかなかに容姿が整っていると評判なことはシャルロットも知っている。

 このバンドーナ王国とアルグ公国は第一言語が異なっており、留学生は読み書きは得意だが、会話はまだ慣れていないとも聞いていた。


「私から声をかけるようにしてはいるのですが、周りとの親交は深められていないのが実情です。やはり言葉の壁がありまして」


「確かにカッコいい方ですけど、ちょっと近寄り難いかも。皆、お喋りたいと思ってるんですけどねー」


 フィンとロニカがそれぞれの印象を話していく。


「お互い文化が違うから難しいよね。とはいえ、せっかく一年この国で過ごすと決めてくれたのだから、有意義な時間になるようこちらも働きかけたいと僕は思ってる。公国ならではのお茶を用意してもらうよう依頼してもらってもいいかな?」


「ええ、もちろんです。アルグ公国では酒を飲む日は祭日のみのため、酒の代わりに甘いものが娯楽になっています。日常的に摂取するお茶もそのような趣向を凝らしていると聞いていますので、殿下のご期待に添えられると思います」


「本当にフィンは詳しいね。ありがとう。……皆で良いお茶会にしようね」


 セヴリードの発言を受け、皆、良い返事を返す。

 こうして第二回代表者会議は終了した。


 終了後、それぞれが席を立つ中、シャルロットはマチアスに近づいて行った。せっかくの機会なので、魔法について聞いてみたいと思い、声をかける。


「本当に魔法というか、魔力が凄いのね」


 尊敬の眼差しで見つめると、照れくさいのかマチアスははにかんだ。


「すぐに資材を取り寄せるから楽しみにしてろよ。えっと……、俺、ちょっと前まで市井暮らしだったから、堅苦しい呼び方苦手なんだ。下の名前で呼んでもいいか?」


「もちろん。遠慮しないで気軽に呼んでくれたら嬉しいわ」


「ありがとう、シャルロット。俺も下の名前で呼んでほしい。そっちの方が、慣れてるんだ」


「分かったわ、マチアス。よろしくね」


「こちらこそ」


 マチアスは琥珀色の目を嬉しそうに細めた。

 色々問題はあるものの、やっぱり学園に入学してよかった。こうやって新しい交友関係が築けていくのは、大変楽しい。

 シャルロットは自分の選択が間違っていないことを実感しながら、マチアスにほほ笑んだ。

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