冒険者
あんなにゴーレムに夢中になってくれているのだから邪魔するわけにはいかないよな。
お世話になっているんだしご飯でも用意するか。
「食べれないものある?」
「ないです」
やはり反射で答えているだけで質問をちゃんと聞いていないようだ。
それだけ喜んでくれているということだな。
こんなに夢中になってくれるなんて嬉しい限りだ。
家を出て少し歩く。
ご飯作るって言っても俺は食べる必要ないし一人分でいいか。
指から電撃を放つ。
先程の狼との戦いで使った魔法だ。適当に打ったので名前はない。
狙いをはずすなどということはなく鳥に命中する。
よしよし鳥を仕留めることができた。
ーー水流刃
水の刃で鳥の毛と皮を剥ぎ脚や手羽などを切り落とし内臓を取り出し適当に捌く。
部位の名称などはわからないが、まぁ食べる上で名前など知っている必要はあまりないだろう。
よしできた。
なんやかんやで捌くのに7分ほどかかってしまったが別に急いでいるわけではないし、いいか。
土魔法を使い器を作り水魔法で水を出す。
水と骨などを入れ出汁を取る。
そして火魔法で熱する。
枝を拾い水魔法で削り汚れを落とす。
そして削った枝に鶏肉を刺す。
いわゆる焼き鳥というものだ。
味付けは古屋にあった調味料を使う。
「悪魔様何しているんですか?」
「キミのご飯作っているんだ。」
少しキョトンとした後に慌て出す。
「そ、そんな悪いです。」
「作ってもらってばかりだと悪いからね」
「そんなゴーレムまでいただいてしまってー」
シルアの言葉を遮る。
「後は出汁だけだから」
「それでも」
なかなかにシルアは頑固だ。
「そういえばまだ魔力与えてなかったな。今からやるか」
話を逸らす。
「....はい。」
少し不満に思ってそうだが、無事話を逸らせてよかった。
居候している身であるのに何もしないのは心苦しいからね。
よしできた。
出汁を取るのに時間を食い結局6時ぐらいになってしまった。まぁ少し遅いが良い時間だろう。
魔力容量を上げるため魔力を注がれたシルアはすぐそこでゴーレムと戯れていた。
「できたぞ」
「はい。」
返事こそそっけなかったが、ぐ〜と可愛らしい音を鳴らすと、ゴーレムを放置してすぐに席へと座る。時間も少し遅いためお腹が空いていたのだろう。
「召し上がれ」
その合図とともにご飯を食べ始める。
肉ばかりになってしまったが、想像以上に良い食べっぷりに嬉しくなる。
少しの時間シルアを見守った後外に出る。
今日はもう少しゆっくりしたかったが、お掃除をしないといけないらしい。
「敵かな?」
まだ結界にも到達していないようだが、マジックサーチに何かが引っかかっていた。
引っかかるということは魔力持ちということだ。
だが魔力容量はかなり低い。
これだけで判断はできないが、この程度の魔力容量ならば10人束になってもあの魔大狼にも勝てない程度なのであまり警戒する必要はないだろう。
迷子の可能性もあるが、まっすぐこの古屋へ向かっている。
たまたまの可能性もあればシルアの知り合いの可能性もある。
知り合いであればできれば会いたくないし、迷子の場合はどう扱えばいいのかがわからない。
敵の方がまだ楽からも知れない。
考えがまとまってないうちに人影が少しずつ古屋へと近づいてくる。
視力の良いこの悪魔の目には、もう敵がすでに視えていた。
魔法使いが3人剣士が6人というまぁまぁな人数での行動で、魔力持ちが4人もいる。
(あの家紋召喚主の家で見たことあるな。)
ビンゴのようだ。
あの雰囲気からして殺しにきている。
(悪魔になってからこういうことにやけに敏感になったな。)
「よーし始めるか。」
ーー夢世界
幻影魔法をかける。
森は突如として夢の世界に侵食されていく。
結界によりシルアのいる古屋だけが護られていた。
「高みの見物と行こうか。」
「なんだこれは!!」
さっきまで反応が少なかった魔力サーチにいくつもの反応が映る。
それも一つや二つではない魔力サーチ範囲全体にだ。
「一旦魔力サーチは切るぞ!」
「了解した。」
何事かわかっていない剣士たちは緊迫した反応を察しとりあえず魔法使いの言う言葉に了承する。
「くそっ!迂闊には動けないな。」
魔力サーチがうまく効かないうちに動くのは悪手だろう。
ということで、とりあえずはヘタに動かず周りの様子を見ようと考えがまとまった。
しかしそんな甘い考えはすぐに崩された。
「おい!あんなところに家があるぞ!!」
「....は?」
1人の剣士がそう言い出す。
だがどこにもそんなものはない。
魔法使いは剣士たちに比べ魔法の耐性があるため夢世界の影響が少なかった。
だが剣士たちは違う。
「あんなところに美味しそうな料理が!」
「動くな!!」
魔法使いの静止を振り払う。
「金だ!金!」
他の剣士たちもだんだん蝕まれていく。
すでに剣士たちはまともに考えることもままならなくなっている。
そのため5人の剣士はバラバラに動いていた。
各々の望みや欲望が反映された夢でも見ているのだろう。
金を求めたり食べ物を求めたりと。
「くそっ!どうなってるんだ。」
勝手に動き回る剣士にイラつきを覚える。
しかし影響があるのは剣士だけではない。
「あぁ...!!あんなところに魔導書が。」
「何もないんだって!!!」
少しずつ狂っていく周りの様子を見て、理性のあるものも段々とパニックになっていく。
そしてそんなパニック状態の中ついに、魔法使いすらも夢世界が蝕んでいった。
だが驚くべきことにたった1人耐えているものがいた。
「ちっ!!めんどくせーな。」
周りの魔法使いや剣士が夢の中に落ちていく中1人たった1人の剣士が抵抗している。
その剣士は他のものと少し違った。
その剣士は他の剣士とは違い魔力があり、魔法使いより強い忍耐力があった。
そして沢山の場数を踏んでいた。
(くそっ!女を連れ戻すだけの簡単な依頼だと聞いていたんだがな。)
それもそのはずこの剣士は、依頼を受けた冒険者だった。
腰にぶら下がっているプレートから見るにBランクのようだ。
Fランクから始まる冒険者のランク制度を踏まえるとなかなかの実力者だ。
「ハッ!!」
気迫で自分の周りの魔力を飛ばす。
並外れた度量があるからこそできるものだ。
しかしすぐにまた魔力に襲われる。
(ちっ厄介だな。このままだと逃げ出すのも危ういぞ)
ーー部位強化
脚を魔力が覆う。
部位強化は一部だけを魔力で覆うことで魔力消費を抑えることができる。
主に剣士が得意とする魔法だ。
ーー部位強化
ーー部位強化
それを3つも重ねる。
地面を踏み締め大地を駆ける。
明らかに部が悪い。
一般的な冒険者だったら勇敢に挑むことを好むかもしれない状況だが、この男は引き際を弁えている。
そして夢世界の発動者も命を奪おうとはしていなかった。
そのため引き際の良さと相まって逃げ切ることに成功した。
...だが他のもの達は違った。
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