悪魔の食事
悪魔階層ー下層ー
酔いが覚め少し歩き回る。
すると先ほどまでの空間とは異なり長径150m、短径130mほどの広い空間が見える。
その空間では驚くことに200ほどの火の玉のようなものが浮遊していた。
(なんだこれ?)
生きているうちでは、このようなものを見たことがなかった。
あまり知らないものには触れないのが吉ではあるが、あまり脅威には感じない。
触っちゃえと心の中の悪魔が囁く。
触った方がいいよと心の中の悪魔が囁く。
心の中にすら天使はいなかった。
心の中の会議は迷うことなく終わる。
そっと手を伸ばし触れる。
意外と透けたりするわけでもなく触れることができた。
とても暖かく心地が良い。
触れていると何だか食べたくなる欲求に駆られる。
「はっ!!」
危うく口に入れかけたが、ギリギリで思いとどまる。
もしこれを口にしたらもう戻れないそんな気がした。
ここまで魅力を感じたのは生前を合わせて初めてだろう。そう思うほどに危うかった。
「きっとこれは、人間の魂かなんかに違いない。」
これほどの魅力を持ったものが人の魂だとしたら欲しくなるのも理解してしまう。
優れた人が堕落した魂や絶望した魂を悪魔が欲すると聞いたことがある。
自分の魂がどうなるか、などは気にせず召喚魔術を調べていたが、冷静な環境になり考えると、もう少し慎重になるべきだったな。
「だが何故こんなにも魂があるのだろう?」
その疑問に答えるかのようにアナウンスが遠くで鳴る。
「食事の時間です。準備してください。」
どうやら奥の部屋から聞こえるようだ。
危険な可能性もあるが、知るためには向かうしかない。
翼を動かし飛ぶ。
景色はあまり変わらないが、だんだんと賑やかになっていく。
さきほどのアナウンスは想像以上に遠い。
どうやら聴覚も上がっているようだ。
「それでは、始めてください。」
アナウンスが響く。
実体のない人間のようなものが戦っていた。
お互いに触れることはできないようだが、ルールのようなものがあるのだろうか?
(あれはゴーストか?)
ゴーストとは人間の死後成仏できずにいるものだ。
片方のゴーストが魔法を放つ。
どうやら魔法自体も本物ではないようだ。
もう片方のゴーストは避けきれずに直で喰らう。
「そこまで」
無機質な声が響く。
アナウンスが勝者を判定する。
そして勝った方のゴーストが先程広場で見た魂を食う。
すると姿が変わる。
体格も大きくなりより禍々しく
ーー悪魔のような姿になっていく。
「それでは、始めてください。」
そしてまたアナウンスが流れる。
その試合のようなものは淡々と進んでいく。
変わるのは試合内容と進化していくゴーストの見た目だけだった。
(嫌なもの見たな。)
ゴーストのようなもの達の戦いと食事タイムは終わり俺は少し離れたところにいた。
それにしても悪魔ってこうやってできていくのか。
嫌なものではあった。
だがこれを見れたことは決して損ではない。
あの魂のようなものを口にしたら強くなれる。
だがそれをしてしまったら人間としての尊厳が失われてしまう気がする。
俺の心はまだ人間だ。
とりあえずは食べないようにしよう。
(あの食事を見て思ったが悪魔って飲食不要なんだな。)
お腹が空かない上に喉も乾かない。
随分と便利だが、やはり人間としてご飯は食べたい。
そう思うということは人間だった時の感覚がまだ残っているようだ。
そういえばアナウンスにつられてきたが、ここに来るまでだいぶ長かったな。
となるとこの階層も広いのかな?
とりあえずここの内装を把握しとかないとな。
まだ何も知らないんだからせめてそれぐらい知っとかないと。
それじゃあパッパッと行きますか。
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