目を覚ますと...
初めまして
興味を持っていただきありがとうございます。
よくある話だった。
自分の愛した人を殺した者への復讐
そのためだけに悪魔に魂を売った。
魂を売ると言っても比喩であり実際に魂を売ったわけではない。復讐を手伝ってもらうその代わりに体を受け渡したのである。
となればどちらかと言うと体を売った。
と言うのが正しいのだろう。
もはや関係ない話なのだが....
悪魔との契約者としてはまぁよくある話だ。
しかしよくある話はここで終わった。
突如視界が開ける。
「あれ?」
声がする。自分が発したはずなのだが、自分の声とは思えないしわがれた声が。
(どういうことだ?)
ふと視界に何かが映る。
そこには黒く禍々しい腕があった。
不思議と嫌悪感がない。
こんなにも禍々しいものを見ても何も感じない。
今更この程度で
.....って!!なぜものが見える?
悪魔に体を売って死んだのでは?
などと考えるもその腕は自分の思うように動く。
その事実が必死に気づかないふりをしていたことーーそれが自分の腕であることを認識させた。
「おいクラック何してるんだ?」
どこからか声がする。
今回は声を発していない。
(ここには自分以外に人がいないそう思っていたのだが?)
「おい無視するんじゃねーよ」
「うわっ!!」
突然背中を殴られる。
それもとてつもなく硬いもので
「なさけねぇ声出しやがって。」
「誰?」
「なんだオメェ?ぼけてんのか?」
うしろを恐る恐る振り向く。
すると悪魔の腕が.....腕だけが浮いていた。
その腕だけのものはぶつぶつといいながら何かに気づいたような反応を示した。
「オメェ誰だ?」
その声には疑っている雰囲気がのっていた。
その疑いの声は自分がクラックでは無いことがバレた可能性を示唆していた。
まずいかもしれん。
クラックではないことがバレたのか?
いやでもこの体がクラックという悪魔のならば俺自身がクラックなのかもしれない?
などと哲学風の考えへと脱線しかける。
うーん?
「俺?」
ここで気づいてしまった。
自分のことを何も思い出せない。
俺がなんなのかがわからない。
覚えていることは自分の愛する人の復讐のため悪魔と取引をしたことだけだ。
混乱状態の頭でまともなことを考えるのは難しい。
思考を放棄しありのままのことを伝える。
「ふーん珍しいこともあるもんだな。」
あまり興味がなさそうだった。
普通何かしらの反応があると思うのだが、まぁそちらの方が助かる。
しかし疑いも何もしないこの腕に違和感を覚える。
「クラックと仲が良かったわけじゃないのか?」
「そんなんねぇよ。名前もくれねぇし。そもそも俺ぐらいになると、そんな感情ねぇよ」
「名前?」
急に腕がビクッと動く。
それをみて自分もびっくりしてしまう。
「真似すんじゃねーよ」
びっくりしたのを真似したとでも思ったのだろう。
「まぁいい。そうだ!お前俺に名前くれねぇか?」
突然不思議な質問をされる。
だが名前に何か意味があるのでは?と
さっきの名前もくれねぇしという発言から予想をしていた。
そのため迂闊に名前を与えることができない。
「なんだ疑ってんのか?」
またバレた。
もしや俺わかりやすい?
そんなことを考えている間もぶつぶつと腕がまた独り言を言っている。
どこから言葉を発しているのか気になるが、それは気にしない方がいいのだろう。
「そうか。しらねぇのか!」
「知らない?」
合点がいったかのような態度を取り喋り出す。
「名前はよ。魂に刻まれるんだよ。
だから名付け親には迂闊に逆らえねぇ。」
お前が心配してるのはそういうことだろう?
と言うかのように説明をする。
それは実に有益な情報だった。
「じゃあ名前ないの不便だしあげるよ」
「いいのか!?」
自分に害の無いなら...ただそれだけを信じ名前をあげることにした。
自分はもう一度死んでいる。
その事実があるから、何があろうと怖くはなかった。
「ただしネーミングセンスには期待すんなよ」
「おう」
名前かぁ。
自分の中にある知識をフル動員する。
とは言っても大した知識もなく大したことは考えられない。
「アカツキとか?」
驚いたような反応をしたあとに、一呼吸起き嬉しそうに喋る。
「アカツキか。あんま聞かねぇが、いいぜ気に入った。」
「これからアカツキって呼んでくれや。」
そのセリフを待っていたかのように突如アカツキが消えていく。
アカツキが何かやったのか?もしや騙された?
などと思ったが、どうやらアカツキも予期していなかったようだ。
「「え....」」
そしてアカツキが消えた。
クロックはひとりこの黒く暗く禍々しい空間に取り残されてしまった。
「えーーーー!!!!」
とりあえず大声を出し落ち着こうとする。
現状何もわからない。ここがどこなのか。なぜここにいるのか。
唯一の情報源のアカツキも突然消えてしまった。
なぜアカツキが、消えたのか。など疑問は残るが、動かないことには何も始まらないだろう。
そう思い行動し始める。
どうやら自分がいた場所は他の場所よりも少し開けた空間だったようで、外に出ると道が長く続いていた。
その道は横幅1.5メートルほどの道だ。
暗く天井にはつらら石があり、洞窟を彷彿させる。
「何もないなぁ」
歩いていれば何かあるだろう。あわよくば誰か人がいないか。などを期待したのだが。
(こうやって歩いているのもなぁ)
ただ歩いているだけではやはり面白みに欠けてしまう。
いつも通り足を動かし、背中のあたりにあるものを動かす。
それの繰り返しっ.....て!!
「せなかになんかある!!!!」
なんだこれ!?
あまりにも当たり前にあり、生まれてからずっと生えていたのでは?と思うぐらいに自然に動いていた。
恐る恐る触れる。
ふむふむ。この感触はーー翼だわ。
昔仕留めた鳥の羽と何ら変わらぬ感触。
よもや間違えるはずがなかった。
むしろ今まで気が動転していたとはいえよく気づかなかったな。と言うぐらいの大きな翼が生えていた。
翼といえば鳥が空を飛ぶ時に使うものだよな?
となると俺飛べるのか!
そうと決まればあとは早い。
翼を動かす。さすれば飛べるはず!
早速動かし始める。
「おっおっおーーー」
激しく翼が動く。
そして足が浮く。そしてジャンプでは届かない域に達すーーーだがそこまでだった。
ズドンと大きな音が響き渡る。
情けないことに落ちてしまった。
それでも多少だが飛べた。
空を飛ぶ。
それは魔法の存在する世界でもごく1部のものにしかできない。
いわば憧れというもの。
少年は皆憧れた。当然自分もそうだった。
それを自分ができたのだ感動はあっただろう。
しかしーーー
「いってぇぇぇ」
喚く。ただただ喚く。
一応成人済みではあるが、まるで児童が如く喚く。
何故このような目に遭っているのかは、明白だった。
悪魔だったら絶対にこうはならない。
悪魔ならこのような状態であれば必ずしていたことをしていなかった。
ーーそう準備運動をしなかったのである。
たかがそれだけのことではあるが、ずっと動かしてなかったであろう翼。
慣れない運動。
そして悪魔としての常識の無さ。
その3つが揃っていた。
このような状態であればどのような悪魔でもこうなっていたであろう。
だがそんなことは知らないので、ただただ喚いてるだけになってしまう。
そしてしばらくして
どうにか痛みのピークを脱する。
「空を飛ぶのは一筋縄ではいかないな。」
日頃からの訓練や準備運動の大切さ。
それがいかに大事なのかがわかる。
痛みを伴う形にはなったが、気分転換はできた。
気を取り直し道を進む。
読んでいただきありがとうござます。
次も読んでくれると嬉しいです。
18時に2話目投稿いたします。