序章 私の知らない物語
近代的な帝国の貴族街
月が空を支配し、夜も真夜中へと差し掛かろうとしていた時のこと
それだけで街がひとつ買えるだろうと言わんばかりに装飾の着いたソファに座っていたのは銀髪の幼き少年だった。部屋の広さ、高そうな彫刻品の数に巨大なシャンデリア。そして数々の護衛部隊にメイド達。まだ建国されてから間も無い小さな小さな発展途上の帝国にて少年には一瞬で平民の1年分の金が吹き飛びそうな贅沢が許されている。これだけでこの少年がこの帝国の小さき帝王だということの証明には事足りる。
何故か弱く力もなさそうでただ銀を食い散らかしそうな少年が王となっているのか……謎が深まるばかりだが。
「つまらない」
そう肘をつきメイドが読み聞かせていた本を見ていた少年が…いや、帝王がそう一括し、イラつきながらすぐ側にあった小さなテーブルに足を載っける。
本を読み聞かせなどただの贅沢か子供扱いされているのか…帝王が詰まらなさそうにしているあたりは後者であろう。
そして、その衝撃に端に置かれていたガラスのコップは大理石の床に叩きつけられ砕け散る
青ざめ、慌てた様子の栗毛色の髪をした読み聞かせのメイドは深く頭を下げる
顔を売りにするだけで若い間は贅沢に暮らせそうな身なりをしているのにメイドをしている。そんな美しさのメイドだ。
「誠に申し訳ありません。坊っちゃま
直ぐに別のものを取りに行かせます 」
手短に謝るとすぐに立ち上がり近くにいたメイドに本を投げつけるように乱暴に渡し、その渡した本を直すように伝えてもう1人には別の本を取りに行かせ、他のものには床を掃除するように命じる
メイドの中でもこの栗毛色の髪のメイドは格上なようだ。
「メイド長亜瑠様。こちらを」
手早く持ってきた本を亜瑠と呼ばれる栗毛色の髪のメイドに渡した後頭を下げる姿を見るとこの国は実力主義の国だということがひと目でわかるだろう
掃除がおわりそのまま何事もなかったかのように本の読み聞かせが始まった。
だが子供扱いがやはり気に入らないようで帝王は小さく舌打ちをした。