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これは続き

 快晴、

 雲一つない澄み切った青空の下、俺は歩く。


(……暑い。)


 まだ、初夏だというのに真夏のような暑さだ。しかも、梅雨の季節なのでジメジメしている。

(早く、家に帰ってゴロゴロしよ。)


 そんなことを思いながら家へ向かっていると、俺はふと視線を感じたので顔をあげてみた。

 すると、ちょうど自分から見て左上にある高台の上に立っている少女と目があった。


 ヒュゥウウウ


 二人の視線が交差したその瞬間、新たな物語の始まりを知らせるかのように、二人の間を一つの爽やかな風が通り過ぎていった。



 少女は今どき珍しく着物を着ていた。着物といっても、催し物などで着るきらびやかなものではない。言い方は悪いがみすぼらしい感じがする着物だ。

 知り合いかな?と一瞬思ったが、あんな美しい少女なら忘れる筈が無いので、すぐに頭の中で否定する。


 そう、その少女は、俺が今まで生きてきた16年の間に会った、どんな女性よりもずっと美しかった。

 見つめすぎるのもどうかと思い、俺はペコリとお辞儀をしてその場を去ろうとした。

 何故か、少女は顔に疑問符を浮かべているが気にせず帰路を急ごうと…


「あ、あの!」


 呼び止められた。

 ん?と思って後ろを振り向くと、少女はこう尋ねてきた。


「もしかして、私の姿が見えているんですか?」


 言葉を失った。

 もちろん、質問の意味が理解できなかったからだ。

 私の姿が見えている?あの子は何を言っているんだろう?

 答えとしては『はい』だが、そういうことを聞きたいのではないだろう。

 じゃあ、どういうことだ?

 わからん。


 俺がこう考えている間、少女は俺がずっと無言だったせい?なのか、「やっぱり」という感じの顔を浮かべていた。

 聞き間違いだった可能性もあるし、そも無言のままというのもどうかと思ったのでとりあえず聞いてみることにした。


「すみません、もう一度言ってもらっていいですか?」


 俺がそう言うと、少女はまたしても顔に疑問符を浮かべ「……あれ、もしかして本当に私のこと見えてる?」なにやらぶつぶつと言いだしたので、もう一度同じことを聞いてみる。


「あの〜、すみません、もう一度言ってもらっていいですか?」


 少女は今度こそ本当に驚いたという顔をしてこちらを向いた。

 そして、


「あなたは、私の姿が見えているのですね⁉︎」


 少女はそう言った。


 え、どうしたの?いきなり、大きな声だして。

 どうして、こんな質問をするのかがいまいちというか、全くわからないが、とりあえず答えておこう。


「えっと、一応見えますが、、、それがどうかしたんですか?」


「あ、いえいえ、あまり気にしないでください」


「そ、そうですか」


 この人、もしかしてこの暑さで頭がまいってしまったのだろうか。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。俺には今日早いとこ家に帰って飽くまでゴロゴロするという崇高な使命があるのだ。

 こんなところで足止めをくらっている暇はない。

 話が終わったと思い、


「じゃあ、」


 そう言って立ち去ろうとした俺を少女は引き止めてきた。


「あ、あの、もう行ってしまうのですか?」


 もう行ってしまうもなにも、これ以上ここで長居する理由がない。


「はい、そうですけど。まだ何かありますか?」


 もともと、目があっただけの関係だ。これ以上話すことなどある筈がないだろう。

 念のため言っておくが、俺みたいなコミュ障に話を広げるなんて考えはない。


「ぇ?えっと、んと、」


 どうやらないみたいだ。


「それじゃあ」


「ちょ、ちょっと待ってください!今、思いつきました!」


『思いついた』と言った時点で用はなかったと言ってるも同然じゃないかな?

 まあ、いいか。どうせ、質問もこれが最後だろうし。


「で、何なんです?」


「あ、あの〜」


「………」


「えっと〜、、」


「………………」


「ん〜〜〜」


「……………………あの、質問がないなら無理に作らなくていいんですよ」


「え⁉︎いや、あります!」


 この少女はなんでこんなに質問をしたがるのだろう?

 まさか⁉︎俺に一目惚れした……訳ないか。

 そんな夢は見ない。絶対あり得ないから。


 こう考えている間も時間は過ぎているのだけど、、

 まだ、質問が思いつかないのか。

 少女はまだ、目の前で唸っている。

 仕方ない。こっちが質問するか。


「あなたの名前は何なんです?」


「え?」


 少し驚いているようだ。

 確かに、帰ろうとしてる奴から質問をされるとは思わないだろうし。


「だから、あなたの名前ですよ。名前、名前は何ですか?」


「あ、名前、そっかその手があったのか」

「えっと、名前、名前、私の、名前は、、」


 どうしよう、この子自分の名前もすぐに答えられないのか。

 さっきから頭おかしいと思ってたけど、まさかここまでとは、、


 実際、少女は今も目の前で唸っている。

 もしかして、知らない人には名前を教えたくないのか?

 普通に考えたら先にそう考えるのだろうけども、さっきの姿を見たあとだったからそこまで考えられなかった。


「名前を教えたくないのなら、別に言わなくてもいいですよ」


 そう言ったあとに思ったが、俺を引きとめたのは向こうの方じゃないか。

 じゃあ、名前を教えるくらいどうって事ないだろうし。やっぱり、この子は頭がおかしいのだろうか?


「いえ、そういうわけではないのですが、、」


 そういうわけではないらしい。

 ま、まさか、人の名を聞く前に自分から先に名乗るのが礼儀とかいうあれか?


「あの〜、変な事言ってるって思わないで下さいね」


「え、はい」


 もちろん、さっきから思ってる。


「どうやら私、自分の名前忘れちゃったみたいなんです」


 目の前の少女はそう言った。


「は?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


「「………………………」」


 そして二人の間に沈黙が訪れた。


「「………………」」


「「……………」」


「「…………」」


「「………」」


「「……」」


「……」「…ぁ、ぁの」


 沈黙に耐え切れなかったのか少女が口を開いた。


「せ、せめて、何か言って下さいよぅ。気まずいじゃないですか」


「え、あ、うん」


 さっき、自分の名前を忘れたって言ったのか?いやいや、さすがに自分の名前は忘れないだろう。


「あの、自分の名前を忘れたなんて冗談ですよね?」


「いえ、本当の事なんですけど…」


「ごめん、ちょっと用事を思い出した。じゃあ俺はもう帰るから」


 そう言って俺は家に向かった。(早歩きで)


「え、あの、ちょっと!どうして急に帰るんですか⁉︎」


「大丈夫、急用を思い出しただけだから」


 あの人ヤバい。頭のネジが四、五本抜けてる。


「あ、明日もこの場所で待ってますから〜〜〜!」


 背後からそんな声が聞こえたが、気にせず家へと向かった。(ダッシュで)



 ーー!ーー!ーー!ーー!ーー!ーー

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