表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

0.『さよならを言えなかったあなたへ』

……今、思い出せる最初の記憶。

 それは、私の下に駆け寄ろうとする貴方。小さな身体が軍服を着た兵士に押さえつけられている姿だ。

 服を汚し、顔に傷を付け、深紅の髪まで土に塗れた。誰よりも辛そうな貴方の顔が、今でも記憶の底から離れない。

 とても辛いのに、優しい記憶だ。

……もっと楽しい記憶、嬉しい記憶もあった筈だ。

 でも、これが私の精一杯だ。

 もう、これより先に思い出せるものはない。

 ここまで来るのに、擦り切れてしまった。

 誰かに優しくされた記憶は私の両腕と共に。

 誰かと喜びを分かち合った記憶は私の両脚と共に。

 私にはもう。一人で歩くこと。一人で食事を摂ること。そして、誰かを抱きしめることもままならない。

 鳥は飛べるから自由だ。なんて、私の口からは言えないだろう。

 鳥は飛ぶ為に、手を失ったのだ。

 私は誰かを飛ばせる為に、腕を失ったのだ。

 鳥は休む為に足を使う。

 私は生きる為に脚を捨てた。

 飛ぶ鳥の姿も見えない窓の外に光を求める。

 いつもと変わらぬ朝。青空はただ、ただ広がっているばかりだ。

 掠れた声で口癖のように、あの日の名前を呼ぶ。

 届くはずがない声が白い部屋に吸い込まれた。

 カツン、カツン…。

 普段と変わらぬ足音が近づいてくる。

 夢から覚める時間が来たのだ。

 力のない瞳を入り口に向ける。

 白衣の男が目に入った。

「おはよう、起きているようだね。早速で悪いが、君にやってもらいたいことがあるんだ」

 まるで機械にでも話しかけるような声に目を閉じる。

……次は、何を失うのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ