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オカルト系を含むもの

小料理屋の宴は、妖怪たちのもの

作者: 無機名

※先に投稿した『妖怪・・・観察する』の世界観を引き継いでおります。

出来れば、先の作品の読後にお読みいただければ、もっと楽しめると思います。


人物紹介

天邪鬼:妖怪なかまには、人の世界に紛れて社会人をやってる珍しいヤツ扱いされている。会社においては、毒舌だが指導が良いと評判。空気などに対して、へそ曲がりな皮肉を吐くのが習性のためか、本質は物分りが良い。


ぬらりひょん:図々しく家に入り込むやつ。時々、願掛けなどで神や妖怪にすがろうとする人間の素行調査を土地神や妖怪に頼まれていたりする。存在を希薄にしたり、消えたりすることが出来る。


座敷童子:小料理屋の女将。普段は幼童の姿だが、お店に関わる時は大人の姿になっている。人から見えないようにすること。自身の身体年齢操作。人気のある存在のため、様々な特徴を持っている。

一番の特徴は、人がその気になっていれば、手助けに成る幸運を呼び、与える程度のちからを持つこと。

 小料理屋にて、男が徳利から、ちびちびと酒を注いでは飲んでいる。

 今しがたまで、ここ座敷席には彼の連れの男がいて、そいつは彼女からの連絡があったから……と言って去っていた。

 友人が去って、一人で飲み始めた当初は、なんとなしに憂鬱な表情を浮かべていたが、酒の味が良かったのだろう。段々と表情に上機嫌を写し始めていた。

 しかし、ふと、なにかに気付いた彼は、割り箸を手にとって、何もない空間に向かって投げつけた。


「痛っ!?」

「コレで何度目だ?隠れて料理を摘もうとするな」


 なにもないはずの場所に投げられた割り箸が、不自然な――なにかに当たったような動きを見せたところに、さしずめ湯気がゆたうような空気の流れを見せて老人が現れた。


「おい、捻くれ者、老人を少しはいたわらんかい」

「ふざけたことを……あんたは、そもそもがその姿だろう。」

「だから労れ」

「やなこった。その特性で、どれだけつまみ食いされたやら……何度、突然消えて、こっちに会計を押し付けた。思い出してから言え」

「捻くれに拍車がかかっとるのぉ。天邪鬼あまのじゃく

「今の捻くれは間違いなく、お前のせいだ。……まぁ、いいさ。ともかく座れよ、ぬらりひょん――ああ、金は出しておけよ」

「そんなにワシ、信用がないのかのぉ」

「ああ、無いな」

「……そんなぁ」

「なんだ、その顔は……」


 しくしくと、泣くような変顔アクションを取りつつ、老人――ぬらりひょんは渋々と5000円札を男の……天邪鬼の前に置く。そして、対面に座った。

 確認したお金を懐の財布にしまい込みながら、天邪鬼は給仕を呼びつける。

 そうして呼ばれた給仕は、先程までいなかった……入店を憶えていない老人の存在に驚きながらも、追加の注文とって去っていった。

 そんな中、ぬらりひょんは気にもかけず、料理をつまんでいる。


「それにしても、コレまで金を持たないのが基本姿勢のジジイが、何だって金を持ってるんだ?」

「んー、株の賭博場とかに紛れ込んで、情報をひっぱとる。スマホって便利よな」

「特性を使ってか……悪党だなぁ」

「人ほどでは無いぞ?世の上に立つ者は、自覚なしにいくらでも殺しとるじゃろ?……ワシはあやつらの隙間で与太ってるだけよ。昔から、なーんにも変わらんわ」

「人に染まったと言ってやる」

「お主は捻くれ者だからのぉ。諦めたらどうじゃね?」

「……ひねくれるのを、か?」

「そうよ。今の世は、かつて程、行動が世の中に影響を与えられぬ。

 嘗てのように逃散ちょうさんして代官に……今風に言えば、すとらいきを起こして、税の軽減を申し立てることもできん。

 有無を言わさずにお役人が取り立てるからの。嘗てのお主は人に逃散を促したりしてきたが、今はできるか?できぬじゃろう?みな己で手一杯で、団結などというのは発想にない」

「……」

「先程お主と話してた人間。あやつもそうじゃ。自覚なしに嫁を傷つけておったよ。」

「……そうか」

「子供が出来て、妻が不調であっても、疲れていても、子が出来る前までと同じことを望んで、いちいち文句をつけるばかり。手伝いなぞしておらんかった。

『オレは仕事で忙しかった。疲れた』『金を稼いでいるのはオレで、お前は養われているんだから、服従しろ』――と、言わんばかりじゃったわい。歩み寄りが無かったんじゃな。

 所詮、大なり小なり、人間なんて弱い者いじめをするもの。知っとるじゃろう。それに座敷わらしにも手伝ってもらったから確かよ」

「あら、呼んだ?」


 二人の会話に、割烹着を着た女性が割り込んできた。


あねさん」「おう、久しぶりじゃな」

「私が関わる話でしょ?混ぜてくださいな」


 先程、給仕が注文を受けた料理を、乗せた盆からちゃぶ台に優雅に移しつつ混ざろうとする。

 腰に届くほどの長く艶のある髪を首裏辺りで束ね、赤い着物の上に割烹着を着た女性。彼女は店の主人:座敷童子ざしきわらし


「わしゃ構わんよ」

「どうぞ……ところで、聞いていいですか?ここにいる時は幼童の姿じゃないですね。どうしてです?」

「ふふ、此処でお仕事をするには、小さいままだと人には怪訝な目で見られる。なにより幼いままだと、いろいろなモノに手が届かなくてね。不便でしょ?」

「おい……なんでワシにはタメ口で、座敷わらしには敬語なんじゃ?」

「家の中で暖かく振る舞う者と、人の家に入り込んで、好き放題やる。その違いだ……空き巣じゃねぇか。やってることを考えて言え。ジジイ」

「ワシがやってるのは、家の風通しを良くするための行いよ。座敷わらしと変わらんわ。まぁ……ちょっといたずらしたりで遊んでのぉ。

 しかし……いつも言うべきことと逆のこと言う、捻くれのお主に言われたくないわ」

「あん?逆のこと言ってるだけで、言うべきことを言ってねぇ訳じゃねぇだろが、それに社会人やっとるわクソニート、浮浪者」

「ニートじゃと?――言うか、この若造!」


 二人の口ゲンカが熱を帯びて暴走をし始めたところで、座敷童子が"ゴン"と音を鳴らして酒瓶をちゃぶ台においた。

 表情は接客の常たる微笑みが貼り付けられていても、まさしく怒っていた。その迫力に気圧される二人。


「言いたいこと言ったら、お酒を呑んで落ち着きなさい。まったく。

 私達は人の望みで産まれて、産まれた時の人の望みに沿って行動する。そして、人はむかしと比べて変わった――歪んだから、人から産まれた私達が変わるのは当然でしょ?

 天邪鬼。貴方、変わってないって言うなら、なんでさっきの人に皮肉を吐かなかったの?」

「……」

「ねぇ、わかってるのでしょう?例えば、むかし神社で神さまに願われるのは『子供が健康に』『ごはんを食べられますよう』『病気が治りますように』――その程度だった。当たり前のささやかなものだった。

 けれど、今は違う『他人ひとよりももっと』よ。その欲が深くなった。おごそかな願いではなくなった。だから、神さまは人を見捨て始めた。

 私も、そんな願いばかりになっていった……住み着いていた家を捨てた。

 貴方がそれを認め難い……そんな性格なのはわかってる。でも、認めなきゃ辛いばかりよ?」

「………」

「ああ、それと今日来た、あなたの友人。彼は此処を出禁にするわ」

「え?」

「当然でしょう?身勝手な欲に飲まれた人の想念・思念は、私達妖怪に強い影響を与える。私達を歪めてしまう。醜くされてしまう」

「ちょっと……でも、オレは……」

「自分は染まっていない。って言いたいの?――それは、貴方が人に染まりにくい特性を持つ天邪鬼だからよ。さっき、ぬらりひょんが言ってたけど、私はあなたの友人の家に見に行った。客として来る以上、私達に影響を与えちゃうからね。

 私は夫婦に同情して、お互いに向き合えれば良いことになるだろうと、運勢を呼び込もうとしたけど、意味がなかったわ。あの二人は自分のことを優先して、相手を選ぶ気が無かったから……。

 いよいよ今日、彼は別の女性という逃げ道を選んだ。都合のいいことばかり求める者を助けるなんて、私はしない。そして、そんな者を此処に招きはしない。

 これは私のコトワリ……それに、みんなが、ぬらりひょんみたいになっちゃったら困るでしょ?」

「……納得です」

「なんでワシじゃ……異議を申し立てるぞ、座敷わらし」

「少なくとも、妖怪も使える座敷席には入れない。入り口のカウンターかテーブル席までしか通しません。わかった?」

「……はい、わかりました」

「うん。じゃ、飲もうか。厄払いね。さっき、あなたの友人にお代を頂いたから、追加の注文は特別に人件費を抜いた値段にしてあげる。――さ、妖怪のみんな、お酒は社会人やってる天邪鬼のおごりだから呑んでいってね」

「お、いいのぉ」

「「「天邪鬼さん、ありがと~!!!」」」

「え、ちょと、まって……やめて……」


 客に、人がいないことをすでに確認して出された座敷童子の号令に、ぬらりひょんを始めとして妖怪用の座敷席から歓声が上がる。

 そこには妖怪たち……鬼だの天狗、土地神を始めとした、たくさんの酔客。天邪鬼は慌てた。ここにいる者たちの大概が酒豪、うわばみの類。彼らに奢るなんて――。


 ――そして、その日の閉店間際。

 ぬらりひょんは「払った額の倍は飲み食いできたのぉ」と、上機嫌を浮かべて去り。

 座敷童子は「今日は、なんとか黒字ね」と、帳簿をつけながら胸を撫で下ろし。

 会計を済ませた天邪鬼は「……すごく財布が軽くなった」などと、ぼやいていた。

お店について……

小料理屋:ざしきわらし

営業日:不定期(妖怪たちには事前にお知らせ)

営業時間:17:00~23:30(以降は居酒屋兼業、妖怪など専用~27:00)

美人の女将がいる、知る人ぞ知るお店。

不定期で数ヶ月位閉める事がしばしばあるため、営業してると驚かれる。

また、訪れる客が幸運に恵まれることが多いため、一部では『店名のとおりに座敷童子がいるのではないか?』と囁かれていたり。

女将に認められると奥の座敷席を使わせてもらえる。※ただし、素行が悪いと追い出されることも……。



会話文重視の文章にしてみました。会話の頭にいちいち名称をつける脚本文は嫌だから、それぞれの言葉に特徴をもたせたつもりですが、通じたかな……。

苦情、感想、批評、待ってます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様への願いが[他人よりもっと]になって、神様に見捨てられた......心に響く文章ですね。 そして、人間は、神に見に見捨てられた後、便利なスマホと言うものを神とし、神への信仰を失う。 そ…
2019/01/22 20:25 退会済み
管理
[一言] 私も行ってみたいなあ。 奥の座敷で、土地神様達と飲んでみたい。 やはり、あの夫婦はお互いに自分しか見えていないようですね。 人間は欲があっての生き物ですが、情報化社会でさらにいい生活やいい…
[一言] 何だか、素敵な雰囲気のお店になりましたね! 妖怪が人間の想念から受ける影響か・・・。
2019/01/12 18:08 退会済み
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