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転生者は召喚される  作者: 菜々瀬蒼羽
第一章:勇者召喚編
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第八話「天靖の実力の一端:中編」

どうも!菜々瀬蒼羽です!

昨日は色々とあり投稿できず、すみませんでした。

描いていて思ったのですが、やはり戦闘描写は難しいですね。


では、どうぞ!


 5日目、昼食を終えた勇者たちが続々と訓練場に集まってきていた。


 この時間、メイドは主に部屋の清掃などを行っている。訓練場に来るメイドの多くは魔法に適性があり、訓練に必要と判断された者。好んで来るものはほとんどいなかった。



「来ないっすね~、そろそろ始まっちゃいそうっすよ」

「そうね、あいつは何をやっているのかしら」



 キョロキョロと辺りを見渡すジーニャ。彼女は好んでこの場所に来たメイドの一人だ。せわしない彼女の横では綴が心配そうにこころを眺める。


 こころは、今日来ると聞いて、期待で胸を膨らませていたのだ。悲鳴のこともあり、未だ来ない天靖の身を案じて涙目になっていた。そんな彼女を見れば心配になるのもうなずける。



「書庫には居なかったから大丈夫のはずよ」

「ホント? うぅ~やっぱり心配だよ」

「魔法陣を体に馴染ませるのは大変ですからね。描けていたとしてもそちらで苦労されているのかもしれません。書庫にいなかったのであれば、きっと大丈夫のはずですよ」



 綴が慰めようとするも効果は無い。見かねたこころの魔法を担当するウォルタが口を出すも、彼女は唸りながら皆が入ってくる扉を眺め続ける。


 本格的にどうにもならなそうなその姿に、ジーニャ、ウォルタ、綴の三人は揃ってため息を吐き出した。





「よし! 全員いるな! これより職業訓練並びに戦闘訓練を始める!」



 終ぞ天靖は現れず、訓練用の結界が張られ騎士団長の号令とともに訓練が始まった。


 本日も技術向上の訓練。団長であるバルドの元には近接戦闘職や生産職の者が集まって訓練をしている。たまに「腰が引けている!」等の喝が飛ぶが、武術をやっていない者であれば当然だろう。


 魔法職と魔術職はそれぞれの担当者とともに魔法に慣れる訓練だ。まぁ、魔術職は綴しかいないわけだが。


 いつも通り綴は、こころの所で魔法の観察と魔法陣の使用の練習を行う。いつもであれば、ウォルタが用意した生活魔術を使う練習を行う。しかし、今日はジーニャも居るため、彼女が地面に書いた魔法陣を起動させる訓練となった。



「地面に書いても起動できるものなの?」

「いつも羊皮紙でやってるじゃないっすか。それと同じっす」



 それもそうだと綴は自分で言った言葉を下げ、納得する。



「練習場所に地面はうってつけっすからね。魔法陣を定着させる技術が必要っすけど、今日は私がやるんで大丈夫っすよ。定着と分離は魔術使う人には必須スキルっすから覚えてくださいっす」

「分かったわ」



 ジーニャは円陣を描き、その中に一つ文字を描いた。そして、魔力をそこへ通し地面に定着させると綴に明け渡す。



「初めて見る文字ね」

「これは単陣魔術専用の文字なんすよ。これは一つだけで水って意味を持ってるっす。まぁ、専用文字は人それぞれ持っていたりするっすけどね。研究の成果ってやつっす。これはサリスティア公認の専用文字なんすよ」

「そうなの。じゃあ、今度教えてくれる?」

「そういえばまだ教えてなかったすね。了解っす!」



 単陣魔術とはジーニャが描いたように、一つの円と一つの文字で出来たもののことを言う。威力は初級程度で普通の魔法陣よりも発動が遅いが、発想と想像力に依存し、様々な形を得る。


 ジーニャは、今までこころの魔法を観察してきた成果を見ようとしているのだろう。


 綴は魔法陣に手を置いて昨日までやってきたように、空気中から魔素を取り入れ魔力を流し、発動させる。すると、いつもと違い発光の現象を挟み、水の被膜を作り出した。



「できた」

「ん~、起動できただけでも儲けもんすかね」



 喜んでいる彼女を横にジーニャは低めの評価。


 まず、魔素を集める段階で地球人の感覚としてはイカレテいるのだが。


 召喚5日目で当たり前となっているあたり、職業という才能なのだろう。もう一度魔力を流すも効果は先ほどと同じ。綴の想像が足りない証拠だ。


 同じことしかできないことに不満を持った彼女は、ジーニャにやって見せて、と視線で願い出る。それに気分をよくしたのか、ジーニャは笑顔で魔法陣に手を置き魔力を流し始めた。



「私がやってみるっす。これは想像が命なんすよ。だから巨大な水の球を想像すれば」



 言い終わると、彼女の言葉の通りにゴポリと音を立て、半径1メートル程の水の球が出てきた。今日の成果に満足したのか、ジーニャは腕を組み頷いている。



「すごい」

「まぁ、私ぐらいになれば、この程度――」



「皆の者、集まれ!!」



「な、なんすか、人が気分良くしている時にぃいっ!?」



 唐突にバルドから号令がかかった。それにジーニャは気分を悪くしながら振り向くも、すぐさま背筋を伸ばす。ナディアがバルドの横にいたのだ。



「天靖!」



 こころは、ナディアの後ろにいる天靖を見つけると、心配事で染めていた顔にパッと花を咲かせ、駆け出す。


 開始には間に合わなかったようだが、彼の準備はどうやら整ったようだ。


 やっと来たかとため息をつく綴は、体を固めているジーニャの背を押し、こころの後を追った。





「ひぃ!? 絶対気付いてるっす! 今は行きたくないっす!」



 彼女に 慈悲は 無い。



 ◇◆◇



「よし、皆集まったな。ナディア様が来て下さったことにより、訓練をさらに1つ増やせるようになった。喜べ、模擬戦ができるぞ!」



 団長のその言葉に男達が湧いた。今まではつまらない基礎訓練だけだったが、実践を行うことが出来るのだ。異世界ならではの戦闘を行えることに彼らは期待する。


 その半面、女子たちは怪我などの心配に追われていた。


 しかし、国を救う勇者に傷を負わせてまで、訓練させようなどとは思ってもいない。無傷で訓練を行う。そのためのナディアであった。



「私の魔法でこの結界を傷も負わず、肉体的に疲労のしないものに変えます。デメリットとして肉体的疲労を追わないため、身体的実力の向上が見込めませんが、それ以上に戦闘の経験による思考の実力向上が見込めます」

「言われただけでは信じ切れないだろう。だから今から俺とテンセイ殿で模擬戦を行う」



 書庫に張られた結界の上位互換。体を動かしていることも、見ていることも、全てを錯覚とする。言ってしまえば、バーチャル空間をこの場に作り出し、怪我も疲労も全てを仮想のものとするのだ。


 バルドの言葉の後、ナディアは指を鳴らす体制に入る。すると、勇者の中で待ったをかける声が上がった。



「模擬戦の役目、俺にやらせてください!」



 剣治はちらりとこころのほうを見ながら人垣より前に出る。彼を担当しているメイドがこれを見たら、自分にも被害が及ぶと卒倒していたことだろう。


 無知とは何よりも怖い。



「ケンジ殿か。すまないが今回の模擬戦は魔法や魔術の効力を試すためにも行われる。テンセイ殿は魔術を扱えるが、未だ魔術を習っていない貴殿では――」

「では俺とそいつでやればいいんですね! おい、やろうぜ!」



 バルドの言葉を途中で遮った剣治は笑顔を作り、天靖に近寄った。


 彼の頭には、天靖に勝てばこころが振り向いてくれるかもしれない等という考えがよぎっているのかもしれない。



「初戦はケンジ様とテンセイ様ですね。畏まりました」


「よろしいのですか?」

「今やめてしまえば、収まりが悪くなるかと。団長は後程お願いいたします」

「畏まりました」



 団長とナディアの密談は剣治の耳には届かない。


 天靖が同意するかなど気にせず、ナディアは指を鳴らし、結界を再構築する。すると、一瞬の後に訓練場がアリーナのような場所に変わり、戦闘に関係ない者は観客席に、模擬戦を行う二人はステージに配置された。


 その現象に皆が感嘆の声を上げる中、ナディアはジーニャとウォルタのもとへ近づく。



「ジーニャ、ウォルタ審判をお願いします」

「は、はひ! 畏まったっす!!」

「畏まりました」



 ビビり過ぎて言葉がおかしくなったジーニャに、ウォルタは呆れのこもった視線を送る。





「気難しい人でごめんなさいね? ウォルタ」

「ピィ!? せ、せいんせぇい、審判務めさせて! いただき! ます!!」



 ◇◆◇



「模擬戦は致命傷を負ったら終了します。両者、構え!」



 ウォルタの声はステージの上によく響いた。



「なぁ、俺の職業教えるからお前の職業教えてくれよ。俺は『剣の勇者』だ」



 剣治は挑発するように、口角を挙げながら、正眼の構えを取る。剣道で用いられる一般的な構えだ。


 天靖は彼の言葉に一切反応を示さない。精神年齢はとうに挑発に乗る年齢を過ぎているし、それ以前に自分の職業を口には出したくなかったのだ。



「あぁ、ごめんな。もしかして弱い職業を貰ってた? 大丈夫だって、手加減してやるし、魔王討伐のときも守ってやるから」



 気の弱い人間であればどれほど惨めな思いをしたのだろうか。天靖は一度観客席のほうを向き、ため息をつく。


 観客席では笑いをこらえるのに必死なナディアが肩をプルプルと震わせていた。



「構えるんだったよな。すまん、忘れていた」

「はぁ、何言って……」



 天靖は剣治視界に入れ、直立したまま深呼吸を一つする。そして、全身から力を抜くとそれは現れた。



「なんだ、それ」



 変化は服から出ている手と顔にしか見られない。それでも、彼の異様さを目の当たりにした剣治は、目を剥いた。


 毒虫が這った後のように、顔や手に描かれた幾何学模様。遠目でも分かる程、肌の面積を削るその紋様は、彼が魔王と言われても頷いてしまえるものだった。



「お前を倒すなら脳みそ一つ分で十分そうだ」

「なん、だと」



 意味の分からない言葉、それでも天靖が自分を下に見ていることは分かった。今まで下に見てきた人間が自分を嘲笑っている。それを知っただけで剣治の理性は徐々に崩壊していった。



「それでは、模擬戦はじめ!」



 ナディアに促され、ウォルタが開始を宣言する。その言葉と同時に、まず動き出したのは剣治だった。



「くらえ!」



 ここで死ねなどと言わないのは彼が未だ理性を保っているからだろうか。勢い良く振りかぶった剣に光を纏わせ詰め寄る。天靖は彼の攻撃方法を知らない。それ故に絶対あたると確信する剣治は口角を先ほどよりもさらに上げた。


 ――サークル:身体強化――



「消えた!? く!?」



 しかし、突如消えた天靖に彼の顔は驚愕へと変わる。


 もう振り下ろし始めた剣は止まらない。光を纏った剣は地面に当たると斬撃が走り、10メートル程前方を扇形に抉り取った。



「それに当たったら一発で退場しそうだ」

「後ろか!」



 剣治は再度光を剣に纏わせ、今度は逃がさないとばかりに横薙ぎにふるった。だが、先ほど声が聞こえていたところにはもう天靖の姿は無い。そのため、彼が振るった剣により半径5メートルほどの半円が出来ただけだった。


 ――身体強化、解除。サークル:雷槍――


 突如、バチバチと電気が弾けるような音が彼の頭上でなった。それに気付き、上を見上げる。すると、白くそれでいて黄色い何かが目の前に迫っているのを彼は見た。



「あェ? ギャアあアアァァァぁアアアア!!?!?」

「ほら、魔術を二重掛けしなくても勝てただろう?」



 残ったのはブスブスと黒焦げになり、煙を上げる剣治とその横に降り立った天靖。勝者は誰が見ても明らかであった。



「ケンジ様アウトっす! テンセイ様の勝利っす!」



 観客は沸くもせず、異様な彼を見てただ恐怖を抱いていた。そこにはこころの姿もあり、彼女は恐怖を抱くと同時に怒りの視線をナディアに向ける。


 当のナディアは、下手に格好をつけた天靖を見て笑いをこらえるのに必死だった。


いかがでしたか?

次話はバルド騎士団長との戦闘回です。


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