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転生者は召喚される  作者: 菜々瀬蒼羽
第一章:勇者召喚編
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第三話「知人との再会」

「我はサリスティア王国、国王ハリミアルフ・ギル・ラ・サリスティアである。此度は我の呼びかけに答えてもらったこと感謝いたす、勇者達よ」



 突如現れた王による自己紹介を受け、皆は蛇に睨まれた蛙のように体を固める。


 その中で一人、天靖だけが彼の名前に反応を示した。彼にとって、王の名は意味を持つものらしい。揺れ動く瞳はその動揺の度合いを示している。


 その動揺は一番後ろで寝転がる半蔵の側にいたため誰にも気づかれてはいない。


 そんなことは露知らず王、ハリミアルフは召喚した勇者たちに向けて言葉を続ける。



「我は勇者の力を借りたい。現在近隣に新たなる魔王が生まれ、この国は危機に瀕している。つい先月西にあるアリビア帝国が攻め落とされた。魔王軍がこの地に攻め込んでくるのは時間の問題なのだ」



 その魔性の言葉は、人の感情を揺れ動かし、自分のことを下に見ているものほどその心内に浸透させていった。


 勇者という言葉がかっこいいとか、人助けをしたいとか、そう言ったものではなく、もっと心の奥深く、深淵へ響くもの。人間性すら揺れ動かされてしまいそうなその言葉に皆は心酔していた。



「故に我は心優しきあなた方異界の勇者を呼んだのだ。聞けば異界の勇者はこの世界では類稀なる力をふるえるという話。死ぬ危険もなかろう。魔王を倒せた暁には望みを何でも叶えてやろう。それを叶えるだけの力は我にある。どうか心優しき勇者達よ、我らに力を貸してはくれまいか」



 やっと王の言葉が終わり、緊張から解放される。


 それでも心酔具合はぬけず、次々と生徒たちは「魔王を倒したい」「助けてあげたい」「勇者になりたい」と告げ始める。そこにはこころや綴の姿もあり、天靖はただ一人その輪から外れて皆のことを見ていた。


 半蔵がいたら変わったとか、そんな「もし」で片付くようなものではない。これはもっと恐ろしいもの。禁忌にさえ片足を突っ込んでいるような、強引な暗示だった。そして、この暗示の正体を彼は知っている。


 天靖は辺りに注意を向けるが、それらしい姿は見つけられなかった。



「ちゅーもーく!」



 生徒の1人が声を上げる。


 声の主はクラストップカーストグループの囃子役である山田太郎だった。丸眼鏡を押し上げた彼は、騎士がしたように一歩退き剣治に道を譲る。


 グループリーダーの剣治は一つ咳払いをすると注目を集め、思いの丈を述べた。



「俺たちは国王陛下様を助けたいと思う。困っている人がいて俺たちがその力を持っているなら手を差し伸べることは当然のことじゃないか。みんなはどう思う」



 俺たち、そういいながら手を広げた先にいるのはグループのメンバーである、こころと綴、2人に加え、金剛(こんごう)(がく)と山田太郎。


 トップカーストに位置する人間が賛同している状況に皆は目を輝かせる。彼らの瞳に灯るのは、これから俺たちは英雄になる、という幻想。


 これからどれだけの人間が死に、どれだけの者が英雄として語り継がれるのかという勘定は彼らの頭の中にはない。彼らの心に一番似ているのはゲームクリアを目指す少年の心だろう。



「聞かなくても大丈夫だったようだな。国王様、私たちに魔王討伐の協力をさせてください!」



 剣治は一つ頷くと、王へと向き直り参加の意思を表した。すると、王は安心したように息を吐き出した。



「おぉ、感謝する。勇者諸君よ。では、こちらへついて参れ。諸君がこの国で活動ができるように国の紋章をつけた身分証を与えよう」



 上着を翻し、扉の奥へと消えていく王の後ろを剣治達は慌てた様子でついていく。


 ここに残ったのは未だ寝ている半蔵と天靖、そして騎士だけ。着いていかなかった理由は暗示をかけた人物に会いたかったから。その者がどこにいるか分からないが、天靖は確信をもってここにいると心の中で断言する。


 ふと、天靖の後ろから足音が聞こえてきた。


 騎士は目の前にいるし、半蔵は足元で寝ている。それなのに何故か、ステンドグラスのほうからヒールを鳴らす音が聞こえてくる。


 天靖はその足音の主のほうを振り向くことはせず、見えなくなった彼女たちの背を見つめながら問いかけた。



「俺は、正しかったのか?」



 その問いかけはこの世界の理に関連する。



「ここでは仕方のないこと、それはあなたがしっかり分かっているんじゃないの? それとも旅をして記憶を無くしたのかしら?」

「そんなことは無い! 俺はずっと!」



 後ろで発せられた答えに、慌てて反論しようと天靖は振り返る。しかし、そこには誰もおらず、ただ月明かりを取り込むステンドグラスがあるばかり。人は一人もそこにはいなかった。



「騎士団長様、こちらの勇者様をよろしくお願い致します」

「はっ! 畏まりました」



 先ほどまでの女性の声は扉のほうから聞こえてきた。再び振り返れば、扉のほうではメイドが一人、騎士団長と呼ぶものに半蔵を預けている。足元を見れば、やはりそこには寝ていたはずの巨体は無かった。



「俺はずっと、何?」



 半蔵を預けたメイドはため息を一つ漏らすと天靖を見据え、問う。


 こういった状況でなければ見惚れてしまうほどの月明かりに輝く銀髪と、大人な女性を作り出す艶黒子。今はその美しさが相まって、誰もが恐怖を抱く鋭い眼光で天靖をとらえていた。


 その怖さを振り切り、建物の奥にいる彼女に自分の声が聞こえるように、天靖は声を張り上げて応える。



「俺はここを忘れたことなんて一時もなかった。もう一度ここに戻ってお前たちと―――」

「私たちとやり直すために自殺でもした?」

「っ!?」



 しかし、答えの途中、被せて言われた言葉に声が出なくなった。


 彼女の言ったことが今は違うとしても、事実であったから。この世界を去って何度か転生を繰り返した頃、彼は思ってしまったのだ。ここよりも楽しい場所なんて存在しないのではないか、と。


 そう思い立ってしまったら止めることはできなかった。物心がつき、記憶が甦ると同時に天靖は何度も何度も自殺を行った。


 彼の望みはただ一つ。苦楽を共にし、共有した仲間たちとの再会だった。


 だが、その行為は仲間たちへの裏切りと他ならないことを、今の天靖は知っている。



「そう、やったのね。くじ引き感覚で楽しかったかしら? 私たちは来世であなたが幸せに生きることを望んでいたというのに」

「楽しくなんてなかった。一度死を繰り返すごとにお前たちの顔が浮かんで、後悔した。謝っても謝りきれない」

「そうね、謝罪なんてした日には私は即刻あなたのことを来世へ送ってやるわ。あなたのそれは謝罪なんてものでは埋めることのできないもの。何度自殺したの? 答えなさい」



 悲痛な面持ちであるばかりで天靖は答えようとはしなかった。


 答えてしまえば、残酷な真実というものを彼女に突き付けることになるのだから。彼は自問する。なぜ自分はあの時やめなかったのだろうか、と。


 彼が自殺するとき、周りには産み育ててくれた親がいた。一緒に遊んでいただろう友人のような者がいた。


 他人にトラウマを与えてまでするその行為に何の価値があったのだと再び彼は後悔の念に駆られる。そんな彼の様子を知ってか知らずか、彼女は催促をする。



「言いなさいよ」

「ナディア」

「今のあなたには名前を呼んでほしくないわ」



 未だ口を割りそうにない天靖にナディアと呼ばれたメイドは、ついにしびれを切らし、命令を下した。



「はぁ、あまりあなたには使いたくはなかったのだけれど。あなたの修行にもなるでしょう。『言え』」

「あっ、くぅっ、お、れが、じさつ、したのは、12かい、だ」



 命令により、天靖の口は彼の意志に従わずその回数を口に出してしまう。もちろん抵抗はしたようだが、それも空しく話してしまった。



「じゃあ、1人3、じゃなくて4回ずつね。あなたは私たちの命令を1人4回ずつ聞くこと。それを守れば一度は許してあげるわ」



 天靖の先ほどまでの葛藤は意味があったのか、二ケタの自殺回数に驚く様子もなく「ふーん」と鼻を鳴らしながらナディアは簡単な計算を行う。そしてニコニコと目元の笑ってない笑顔を彼に向けながら、免罪条件を述べた。


 次の瞬間、ナディアは天靖の横に並び、彼の腹部に左手を添える。天靖がこれからされるであろうことを知っているのだろう。一歩退き、距離を取ろうとする。しかし、彼女の手は彼を逃がさなかった。



「私の一回目ね、反省しなさいよ」



 耳元で告げられるや、お腹を触られているだけなのに関わらず、抉るような苦しさとともに、後ろにあるステンドグラスを破りながら吹き飛んだ。



 ◇◆◇



 一方そのころ、こころ達はというと粗方の人物の身分証発行が終わっていた。


 残るは綴とこころだけで、他の終わったものたちは空間魔術という身分証を収納するための魔法陣を体のどこかに描いては、慣れるために奮闘していた。



「では、次にココロ・ミナモ様」

「はい」



 こころは呼ばれるや、最初に二つ並んだ丸テーブルのうちの黒いテーブルに手を置く。淵に沿って円が鎖状に重なり合う魔法陣を描くそれは、テーブルに日本語とこの世界の言語でこころの名前を浮き上がらせる。


 それを見た後、こころは隣にある木製の丸テーブルに触れる。そこには黒いテーブルとは違い、星が鎖状に重なり合い、その中心を通るように円が描かれている。


 彼女の読み取りが完了したのか、目の前に木でできたカードが出現した。文字は日本語ではないためこころには読めない。右下にはこの国の紋章だろう。4つの菱形が十字に並んでいる。



「では、拝見させていただきます。ミナモ様の職業は蒼魔法の勇者ですね」

「ありがとうございます!」



 彼女達を誘導していたメイドはそのカードを拝借し、ざっと目を通す。


 勇者という単語が出てきても、驚くものはもうこの空間にはいない。教師である半蔵を含め皆が皆勇者なのだ。王が勇者たちと言っていたのも頷ける。


 次は綴の番。彼女も同じ作業を行い、身分証を作成した。若干こころに比べて処理能力が落ちていたように思えるが、人それぞれなのだろう。



「ユミヤ様の職業は魔術の勇者ですね」

「ありがとうございます。あの、質問してもよろしいですか?」

「はい、どうぞ。私たちに答えられる範囲であれば」

「魔法と魔術の違いはあるでしょうか」

「あ、それ私も聞きたいかも!」



 こころが魔法で綴が魔術。同じような単語なのに違ったように使われていた。


 それと、こころがもらった魔法に関する勇者は他にも何人か存在する。それらは表現するために決まって、翠や紅など色が同時に使われていた。しかし、綴の持つ能力には色は書かれていなかった。


 それも含めて疑問に思ったのだ。


 メイドはあぁ、と彼女たちは当たり前を知らないことを思い出す。そして、質問をしてきた綴とひょっこりと顔を出したこころに対して笑顔で説明を始めた。



「魔法は個人に与えられた奇跡のようなものです。そのため、そもそも魔法を持たない人もいます。これは個人の中にあるものなので、能力の発動はきっかけさえあれば、例えばこのように」



 メイドは質問の答えとして、傍に置いてあった空のコップを手に取り、もう片方の手をかざす。すると、コップになみなみと水が現れた。その不可思議な光景に二人は、身分証発行を始めてみたときのように、目を丸くする。



「私の魔法は蒼の系統、水の有無に関わるものです。次に、このように指を弾けば、注がれた水は無くなります」

「すごい、マジックみたいね」

「私にもできるのかな?」

「マジックというものは分かりませんが。そうですね。ミナモ様は蒼魔法の勇者様ですし、水と氷に関することであれば幅広く扱えるのではないでしょうか」



 この世界にはどうやらマジックは無いようだ。


 水を出現させたり消したりするのが当たり前のような世界なのだから、そう言ったものは存在しても、大衆の目は引きにくいのだろう。


 目を輝かせているこころをよそにメイドは説明を続けた。



「魔術は魔法を扱えない人でも、魔法陣や詠唱を介することで魔法を扱えるようにしたものです。お二人がこれから描く身分証収納の魔法陣がそうです。ですので、ユミヤ様の場合、魔法陣や詠唱を学べば全属性の魔法を扱えるかと。しかし、現在解明されているのは中級まで、それも解明したのは気難しい方なので。教えてもらえるようこちらからも取り計らうつもりですが」


「そうですか。ありがとうございます」



 少し落ち込み気味の綴。


 もしかしたら器用貧乏未満になるかもしれないのだ。こころを傍で守りたいと願うのに、もしかしたら守られる側になるかもしれない。


 こころはというとそんな綴を見て「大丈夫私が守ってあげるから!」などと言い出す始末。そんな彼女の追い打ちに打ちひしがれた綴は1人、空間魔術を体に書き込むために移動を始める。


 彼女の背には郷愁の色が見えた。あっちだったら私は守って上げれたのに、と。


 身分証発行の儀式が終わったため、メイドは手を叩き注目を促す。彼女の後ろには装飾の施された立派な武器や防具がいつの間にか並んでいた。



「それでは、空間魔術の書き込みを終えた方々はこちらに集合してください。国財より皆様の能力にあった装備を提供いたします」

「あれ? 天靖は?」



 クラスメイトの不在に気付いたのは、ただ一人。


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