1年、端から自己紹介や!
これから始まる高校生活に、期待と不安で胸を膨らませる小寺沢高校の新1年生たち。入学から間もないだけあって、コバルトブルーの校章入りブレザーとグレーのスラックスないしスカートが初々しい。早い新入生は早速入部する部活動を決めて体験入部し、またある生徒は早速制服を着崩してヤンチャさを見せている。
体育館裏の不良グループの溜まり場、番長の将大含む2人の3年生と4人の2年生が顔を見合わせている。将大は新調したパイプ椅子に腰かけている。本人がどこかの事務所の裏から「廃棄処分」と貼り紙されていたのを拾ってきた物だ。
「で、何で1年がゼロやねん。ソウ!お前言うとったよな?『いい感じの奴が3人くらいおる』ってよぉ」
「いや、3人ともアウトでした」
持参した鏡を見ながらソフトモヒカンのトップをチョコチョコ直しているソウが悪びれも無く言い放った。
「みんな忙しいからアカンらしいっす。バンドやりたいからとか野球部入るとかで」
「空手やってるって奴おったやんけ。そいつは?」
「『武道は喧嘩に使うもんじゃないっす』って追い返されました。威圧感ハンパ無かったっすよ。あれはアキヒコくらいしか対抗できないっすわ」
「で、そのアキヒコやけど…お前まだ一人も声かけてないらしいやんけ!」
「…いや、俺スカウトとか苦手っすもん」
185cmの長身を小さくしてアキヒコがうつむく。この日はインナーに黒のハイネックを着て更にいかつさを増したような格好だが、表情は冴えない。
「デカくていかついくせにコミュ障って何やねん!ヤマブーは?」
「寝てました」
スマホでエロ画像のまとめブログを見ながらヤマブーが何の悪びれもなく言うと、将大が椅子の側に放置してあったヤングジャンプで頭をはたいた。パシィン!という音が実に小気味良い。
「シバくぞデブ!」
「いや、シバいてから言うのやめましょうよ!ショーヤも何もしてませんよ?」
「いやね、今年の1年はヘボばっかっすよ!」
可愛い女子はいないかとスカウト活動なんかそっちのけだったショーヤは、いつもの締まりのない口調でもっともらしく宣う。
「気合い入ってない奴ばっかっすよマジで。パシリなんか何人もいらないっしょ?ヘボ何人も入れるとか意味ないっしょー?」
「お前は言い訳多いんじゃ!」
自分たちの事を棚に上げて唾を飛ばすショーヤもパシィン!と頭をはたかれた。
「何で叩くんすか!3年もやって下さいよ!」
「番長と副番は、どっしり構えて軽々しく動かんもんやし」
カツオが偉そうに腕を組んでそう言うが、どう見ても外見と声が軽々しいカツオが言うと説得力もクソも無くなる。
「お前ら、今日の放課後何人か連れて来い。ゼロやったらマジでシメるからな」
将大が頬骨と同じくらいの高さの鼻に皺を寄せ精一杯ドスを効かせると、2年生たちは渋々解散した。ヤキ入れを恐れてではない。怒らせては面倒臭いからだ。
「ホンマ、言うだけで何もせんのぉ…」
「お前が言うな!」
ショーヤの呟きを聞き逃す将大ではない。すぐに尻に蹴りが飛ぶ。
「マー公も番長らしなったなぁ」
カツオが笑った。
その日の放課後。溜まり場に鎮座する将大とカツオの2トップの前にソウがとある1年生を連れてきた。ズボンを腰ばきにして無造作に伸ばしたクセっ毛を女子サッカー選手よろしくヘアゴムの親方のようなもので留めている。
「自己紹介。フルネームで」ソウが促す。
「1年4組の高橋ライトです!趣味はサッカー観戦で、好きなチームはガンバ大阪とインテルとチェルシーです!」
「で、その頭はなでしこジャパンを意識してんのか?」
「いや、この頭はヤットの真似です。ヤットこと遠藤保仁は我らガンバサポが誇るプレースキックの名手にしてチームの心臓、日本代表での通算キャップ数は……」
「あーもうええもうええ!自分がサッカー詳しいのはよくわかった!」
サッカーの話題になるとかなり熱くなるらしい。軽くドン引きしたカツオが尋ねる。
「で、高橋君よぉ。中学ん時から不良やってたんか?」
「いや、ぶっちゃけ高校デビューっす!」高橋ライトは軽いノリで答えた。確かに、タレ目の愛嬌ある顔とどことなくカピバラを思わせるユルフワな雰囲気は不良とは思えない。
「ケンカとかは?」
「う〜ん…」
将大とカツオは顔を見合わせた。『こいつ、大丈夫か?』と。まぁ最悪パシリにでもしてしまえば問題ない。
「あ、番長の人ってどっちですか?」
ライトの問いにソウが将大を指差して答える。するとライトはポケットからマールボロ赤を一箱恭しく差し出した。
「どうか一つ宜しくお願いします」
「よし!今日からお前は俺らのメンバーや!俺が番長の本名将大や。面倒見たるからな!」
「俺は副番の野上匠矢。カツオさんと呼んでくれ。困ったら相談にこいよ!」
「あざっす!うち煙草屋やってるんで任しといて下さい!俺もたまに店番するんで、連絡くれたら売りますから!」
二人は思わず「おぉっ!」と声を上げて喜んだ。
煙草は不良のたしなみ、しかし昨今は喫煙者に厳しい世の中になり、未成年の喫煙に至っては言わずもがな。しかも値上がりに次ぐ値上がりでおいそれとは手に入らない。だいたい20歳以上に間違われるアキヒコが代表して買うかカツオが実家の舗装会社の社員の持っている分をくすねて来て非喫煙者であるソウ以外で分け合って吸う。そんな中、家が煙草屋で赤マルを簡単に調達できるライトの存在は、将大たちに取って大きいと見える。「ちなみに、俺も中二のころから吸ってますから!」
ライトが親指を立てると将大とカツオのテンションはさらに上がった。
「ライト!お前なかなかやるやん!全然中学デビューちゃうやん!」
「ソウ、いい奴拾ってきたな!こいつスケールのでかさを感じるわ!長い目で見ていこうや!」
ソウはただ、何とも言えないような顔でハハハ、と笑うだけだった。
ライトからの貢ぎ物をご満悦で味わう将大とカツオの元に、ヤマブーが一年生を1人連れて現れた。
「あ、煙草や。俺にも下さいよ」
「そいつ次第」
「えー?おい堀江、自己紹介」
堀江と言うらしいその1年生は、アシメヘアーに緑のセルフレームの伊達眼鏡、黒いマスクと言うちょっと奇抜な出で立ちだ。
「1年3組の堀江晃晟です」
「先輩の前で顔隠すなや。マスク取って挨拶せえや!」
カツオが先輩の威厳を見せようとキツめに命じる。
「あ、すいません…」
慌ててマスクと眼鏡を外した堀江晃晟の顔は結構整っていた。目はパッチリと色白で右目の下の泣き黒子が印象的な、中性的とも言える甘いマスク。身長も173cmと低くはない。チビのカツオと鼻がペチャンコで頬骨が張り出し一重まぶたのどちらかと言えばブサメンな将大は面白くない。
「将大さんカツオさん、一応俺『どんくらい強い?』って聞いたんすよ。そしたらこいつね、中学の時学校で最強やったらしいんですよ」
「何ぃ?マジか!」
将大が飛び上がった。カツオも声を裏返す。
「そうっすね。昨日も地蔵原の駅前行って4人…いや5人倒して来ましたね」
草食系のヤサ男風がそこまでのやるとは…カツオが食い気味に堀江の顔を覗き込む。将大は番長の威厳を保とうとまた椅子にふんぞり返り、真剣な顔をして急に漫画のキャラのような口調になる。
「まぁ、ザコ相手に数を誇っても意味がない。お前が倒したという相手の詳細を、一応は聞いてやろう」
「はい、1人目はザンギエフで次がベガ、それからケン使いが2回くらい入ってきて2回とも倒したら次に入ってきたのがブランカやったんですけど、そいつは上手かったっすね。次がキャミィやったんですけどそいつは楽勝でした!」
「スト2やないけ!」
将大、カツオ、ヤマブーはズッコケた。
「いや、ウル4(ウルトラストリートファイター4)っすよ!俺ガチ勢なんで。ちなみにメインがコーディーでサブがアベル、最近はフェイロンも触り始めました」
「誰もそんなん聞いてへんわいボケ!倒したとかって格ゲーの話やんけ!ヤマブーお前これどうなってんねん!」
「あ、ちなみにきちんと対人ですからね!」
「どうでもええわ!」
「あ、そういえば『喧嘩が』って最初につけるのを忘れとった……あだっ!」将大は無言で読み古したヤングジャンプを投げつけた。角の部分がモロに頭に当たりヤマブーが悶絶する。
「で、リアルファイトはどうなんや?どんぐらいやれるんや?俺ら喧嘩できんと話ならんで?」
カツオがパンチを打つ真似をすると堀江は決まり悪そうに口を開いた。
「いや~、そういう事するとうちの母さんがめっちゃ怒るんすよ」
ヤマブーが手を叩いて笑い出した。将大は「マザコンかい」と呆れ返り冷めきった表情でため息をついた。カツオも「話にならんし」と呟く。
「うちの母さんそういうとこ厳しいんすよ。実は母さん、ヤクザの組長の愛人で…」
「マジかぁ!?」まさかのカミングアウトに3人とも飛び上がった。「え?ていうことは…お前ヤクザの息子やん!将来組継ぐん?」
「いや、腹違いの兄ちゃんがいてそっちのお母さんが本妻やから多分そっちかな、と」
「喧嘩したら怒られるんや…」
「俺がヤクザみたいな、暴力で無理やり主張を押し通すような人間になったらアカンって…だからあんまり父さんに会わせてくれないんですよ。影響受けたら困るって」
「それで、何で俺らの仲間になろうと思ったん?」
「父さんが、『したい部活無いんやったら番長について男磨いてみるのもええど』って入学祝いにこれくれたんですよ。だから父さんの顔を立てようと…」
堀江の左手首には、高校生がするには不釣り合いなオメガの最新モデルの腕時計が光っている。それを見るなり将大はエビス顔で近づき、馴れ馴れしくも肩に手を回した。
「堀江君!この小寺沢高校番長の本名将大に黙ってついてきなさい。男を磨いてやろう。お父さんによろしく!」
妾の子とはいえ一般のサラリーマンにはおいそれと手にできないような時計をポンとプレゼントするような暴力団組長を親に持つ後輩。身内にしてしまえば何かとおいしいだろう。ひょっとしたら本職の極道が喧嘩に加勢してくれるかもしれない。将大が掌をクルッと返したのは、そんなセコい皮算用が胸にあったからだ。
「あ、僕のことはホーリーって呼んでくれたら嬉しいです。ハンドルネームが名字をアレンジして『Holy.A』なんで…」
「全然オッケー。みんな、ホーリーと仲良くしてやろうぜ!」
カツオとヤマブーは苦笑いしながらうなずいた。
『こいつ、小物やな…』
いつの間にかいなくなっていたソウとライトがいつの間にか学食の自動販売機で買ってきたジュースを片手に戻ってきた所で、ショーヤが走って戻ってきた。
「みんなみんな、アキヒコがおもろい奴連れてきたで!」
続いて溜まり場にやってきたアキヒコが連れてきたのは、細長い縁なしメガネの陰気そうな一年生だった。将大から無事分けてもらった煙草を片手にヤマブーが近寄って顔を覗き込む。
「自分…どっかで見たなぁ…ちょっと眼鏡取って口隠してみ?」
一年生は、はぁ…と言って従った。
「やっぱりややっぱり!歴史の教科書の写真にそっくりや!」
「あいつあいつ!高杉晋作!」
髪型といい目の大きさといい鼻の形といい、幕末の長州の偉人、奇兵隊で有名な高杉晋作の肖像にそっくりだということで2、3年が盛り上がった。1年の二人も「あぁ、確かに!」と言うような顔をしている。ただ、本人より口は小さく顎も細く尖っているが。
「1年1組の、早見知喬と申します」
眼鏡をかけ直し、よく通る声で自己紹介した早見のガリ勉もといインテリじみた外見と陰気もとい落ち着いた物腰は、不良には到底見えない。将大が尋ねてみた。
「何か、不良って感じせえへんな…何でまた来ようと思ったん?」
「何事も経験、ってとこですね」
まさかの答えに将大はじめ上級生たちは戸惑って顔を見合わせた。ショーヤに至っては「何言うてんねんこいつ…」と鼻で笑う。
「アキヒコ、何でこんな奴誘ったんや」
「1人で図書室から出てきたとこ見つけて…んでまだ部活も入ってないし友達もできてないらしいから誘って…」
「だからって陰キャを誘うな!どんだけコミュ障やねん!」
その後の話によると、早見は中学時代合唱部に所属していたが、コテ高の合唱部は女子の入部しか許可されておらず、本人はスポーツが苦手な上にめぼしい文化部も無かったために不良グループに流れてきたということだ。「え?合唱部?合唱部?何か歌ってよ!」
ショーヤが途端に色めき立って半笑いでリクエストすると、早見は足を肩幅位に開き咳払いする。
「では、イタリア民謡を一つ…」
鼻からしっかりと息を吸うと、『オーソレミオ』の冒頭から朗々と力強いテノールで歌い始める。その場にいた全員が度肝を抜かれ、あまりの声量にアキヒコが腰を抜かしそうになる。有名なあのサビの部分に入る前にヤマブーが待て待て待てとボクシングのレフェリーが途中で試合を止めるモーションでストップをかけた。
「上手いのはわかったから!いい声なのはわかったから!そんなデカい声出したらタバコ吸ってるのバレる!」
確かに、ヤマブーの右手の人差し指と中指の間には火のついた煙草が挟まっていた。
「歌も上手いし何か頭も良さそうやしなぁ。とても不良ってタイプには思えんなぁ。お前、ケンカとかできるんか?」
「自信はありませんが…いざとなれば手段を選びませんよ?」
将大の問いに早見は笑顔で答えた。
しかし、その笑顔が凄まじかった。
眉尻こそは下がっているが口端を釣り上げ歯を剥き出し、心なしか目だけ笑っていないような印象さえ与え、おまけに小さいが良く通る低く太い声でフフフフフ…なんて笑うものだから周りが凍り付く。
こいつは危ない。何かおかしい。手段は選ばないと言ったがどんな真似をするのかわからない。何を考えているのかわからない。パシリになんかしてイジメようものなら、きっと呪いをかけてくる違いない。いや、悪魔くらい召喚できるんじゃないか。とにかくこいつはヤバい。
しかしショーヤだけは空気が読めなかった。
「はぁ?手段を選ばへん?お前口だけちゃうんかいコラ!あぁ?調子乗んなや陰キャがキモいんじゃ!やってみいコラ!シバいたろかコルルァ!」
ちょっと変なキャラと思われる新入生に一発カマして先輩の怖さを見せつけ、あわよくば自分専用のパシリにしてやろうとオラつきながら早見に詰め寄るショーヤ。それを見たソウが半笑いでやめたれや、と言いかけたが、再び凍り付いた。
ショーヤの首筋にナイフの刃が押し当てられていたのだ。それを見た他のメンツも慌て出す。当の早見は至って無表情。それがますます全員の恐怖を駆り立てる。
「体力には自信ないですけど、道具と不意討ちでいくらでもカバーできますよ?」
ショーヤの表情が変わった。俺はケンカは強くないがこいつになら勝てるという自信満々の顔が恐怖に青ざめている。グッと刃先が頸動脈の辺りに食い込むと、ショーヤは泣きそうな顔で震える。
「動くと切れますよ。そしたらシャワーみたいに血がブシャーっと吹き出て…一応血液型聞いときましょか?」
早見は依然無表情だ。まるで食事時に「ちょっとそこの塩取って」みたいなノリで淡々としている。とうとうショーヤの恐怖が決壊した。
「ごめん!ごめん!ごめんなさいすいません申し訳ありません調子乗ってましたむしろ僕が調子乗ってました血液型OですO型です今日運勢最悪ですネットの占いで言うてましたいや最悪なのは僕ですよね僕が最悪ですよね将大さん止めてくださいお願いしますお願いしますカツオさん止めてください早見君を止めてください早くしてください早く早く早くアキヒコ止めろやお前がこいつ連れてきたんやろ責任持て何ボーっと見てんねん止めてくださいお願いします喧嘩隊長のアキヒコさんヤマブー止めてくれマクドおごったるから足りひんかったら王将おごったるから助けて下さいソウ止めろ見てんと俺を助けろ何笑ってんねんそんなにおもろいんかいや違うんです違うんですごめんなさい沢城さん俺達の中で唯一彼女持ちの沢城聡佑さんモテモテでイケメンの沢城聡佑さんめっちゃかっこいいめっちゃかっこいい助けて下さいダレカタスケテーチョットマッテテー言うてる場合か何でラブライブやねん死ぬ死ぬ死んでまう殺される殺される血がブワー出て殺される助けて助けて俺マジで死ぬから死んでまうから助けて!」
長い長い命乞いの末、アキヒコがやっと両人の間に入った。ヤバい。こいつはヤバい。みんながそう思った。ショーヤが先ほどまで刃を当てられていた首を指差して、「血ぃ出てへん?血ぃ出てへんよなぁ?」と聞いて回っているが幸いにも出血も傷もない。
「刃物はね、押し当てるだけじゃ切れないんですよ。こう、引かないと…」
まだナイフを握っていた早見が虚空に向かって実践して見せた。全くそつのない手つきだ。
「実はこれ十徳ナイフなんですよ。相手の目をエグるなら千枚通し、いやコルク抜きの方が痛いかな?」
とうとう十徳ナイフの機能、それも人体の破壊の仕方という間違った使用法まで説明し始めたので、将大が見かねて止める。
「もういい。もういいから!」
「ちなみに、拷問とかする時は僕に言って下さいね?」
「安心しろ。多分無いから」
ショーヤは思った。さっきトイレに行ってて良かった。そうじゃなかったらチビってたと。
アキヒコは背中に冷や汗をかいている。俺はとんでもない奴を連れてきたと。
将大とカツオは目を見合わせた。こいつはある意味一番戦力になるかもしれない。うまく手なずければ喧嘩の時に役に立つ。
ヤマブーはブレザーを脱いでTシャツ一枚になった。冷や汗が止まらない。この1年との付き合いは難しい。
ソウも呆然としている。まためんどくさい奴が増えた。
ライトとホーリーも唖然としている。早見怖えー。あんな事俺達にはできんわー。
「はい、2年3年そろったから1年端から自己紹介!ライトから!」
長い沈黙を将大が打ち破った。若干テンションが高い。凍りついた空気を打開しようとする番長なりの使命感か。
「高橋ライトです。あの…ライトって言うのは『照明』と書いてライトって読むんです。実はキラキラネームでした!」
字面にすると『高橋照明』。全員が笑った。将大は手を叩いて大爆笑している。ちなみに妹は『陽光』と書いて『レイ』と読むらしい。
「家は煙草屋やってます!親が離婚してて、じいちゃんばあちゃんと住んでます!ちなみに母親は高知県に単身赴任中です!」
「こいつたまに店番するらしいから、タバコ売ってくれるぞ!」
将大が嬉しそうに言うと拍手が起こった。
「ちなみに趣味はサッカー観戦で好きなチームはガンバ大阪とインテルとチェルシーです!親が離婚するまで万博記念公園の近くに住んでたんでその関係で…ちなみに倉田秋にサイン書いてもらった事もあります!」
今度はみんな微妙な顔をした。凄いのかどうかピンと来ないらしい。
「サッカーの事なら何でも聞いて下さい。よろしくお願いします!」
「じゃあ、何でサッカー部入らへんかったん?」
ソウが聞くと、ライトは気まずそうに言った。
「サッカーはまぁ…観る専なんで…」
「堀江晃晟、ハンドルネームはHoly.Aなのでホーリーと呼んで下さい。趣味は格闘ゲームです。主にウルトラストリートファイター4をやってて、たまにブレイブルーとかKOF辺りも触ってます」
「こいつ、親がヤクザの組長やってさ」
カツオが言うと、将大とヤマブー以外のメンツが驚愕して顔を見合わせる。
「そんなら喧嘩になったら本職が助っ人に来てくれるんちゃうん?」
「父さん、それは男を下げるからやったらアカンって言うてました。僕基本的に愛人の子なんで、その辺は期待しないで下さい。むしろ伏せてもらった方が…自分の力で男を磨いていきたいと思いますので、よろしくお願いします!」
ショーヤが「何や、助けてくれんのかい」とガッカリしたが、アキヒコは感心したように頷いた。ソウも偉いなーと笑う。
「改めまして、早見知喬です。趣味は読書、それからこういった刃物の手入れですね。武器、毒物全般に関する事に興味があります」
そう言ってまた先程の十徳ナイフを見せると、全員がまた凍りついた。
「呼び方は…中学の時はハヤミンと呼ばれていましたけど、さっき高杉晋作に似てると言われたので高杉でも晋作でも構いません」
「じゃあ晋作!お前は今日から晋作や!」
将大が言い出すと、みんなが晋作、晋作と口に出す。似ている自覚は無かったのかとヤマブーが尋ねたが、本人は自覚どころか言われた事自体が初めてだと言う。
「えー、俺達コテ高番長グループは…」
将大は言いかけて自分の1年からの行動を思い出した。俺、何してたんやったっけ…溜まり場で煙草吸ってウダってる、陰キャいびって遊んでる、たまに先生と喧嘩になる、学校の外でこっそり酒飲んだりしてる、たまに他所の学校の不良と喧嘩になる…か?あぁなったなった。
「他所からナメられんように気合い入れていけ!イモ引くな!1年、わかったか!返事は押忍や!」
「押忍!」
「あと、上級生には礼儀はきちんとしろ!わかったな!」
「押忍!」
「じゃあお前らの今後に期待する。解散!」
こうして、将大は新たに三人の配下を加える事になった…が、将大の小さな器量で大丈夫なのか。