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俺が番長じゃ!

大阪府S市を縦断する私鉄・S沿線。7駅ほどのその周りには7の高校。国公立、有名私立大学に数多の卒業生を毎年送り込む進学校が一つ、そこそこが二つ、スポーツ強豪高が二つ、そして近隣から恐れられ大人たちからも眉をひそめ迷惑がられているヤンキーだらけの不良高が二つ。昔からのバンカライケイケで有名な伝統的ヤンキー高の「チョン工」長南(ちょうなん)工業高校と、大阪じゅうの問題児が集まる不良界のエリート高、「ハナ学」こと(はなぶさ)学園高校だ。この2高は昔から犬猿の中で、事あるごとに小競り合いを繰り返している。


しかし、この話の主人公はこの二高のどちらの人間でもない。舞台はS沿線のちょうど真ん中辺りにある市立小寺沢高校。周りから「コテ高」と呼ばれており特に偏差値が高い訳でも無くスポーツで名前を売っている訳でもない、かと言って就職率が高いわけでもない、校風も厳格でなく乱れている訳でもない、周りから「バランスが良く無難な(中途半端でこれといった特徴のない)高校」と言われているこの学校は、つい5年くらいまで女子高だったのが統廃合により共学になったような所だ。そんな所だからまだ生徒全体の比率が女子7割に対して男子が3割程度と少ない。どの学校にも不良はいると言われてはいるが、こんな学校の不良なんかただのヤンチャ坊主、長南工業の気合い入りまくりのツッパリや英学園の見た目も中身もクレイジーな不良と比べれば大人と子供、少年サッカーとJリーグと言った所だ。



季節は春。校庭に咲き誇る桜並木が新年度の始まりを告げる。コテ高の不良達が溜まり場である体育館裏のスペースに集合した。人数は番格の本名将大含め6人。それぞれが学校指定の制服である青いブレザーにグレーのスラックス、エンジ色のネクタイをだらしなく着崩してこれまただらしなく座っている。

「で、マー公が番長で文句無いよな?」

廃棄寸前でガタガタサビサビのパイプ椅子に偉そうに腕を組んで座っている本名将大(ほんな まさひろ)隣に立った3年の野上匠矢(のがみ たくや)があとの4人に言う。両サイドに2本ずつラインを入れた坊主頭と髪型はいかついが、甲高く細い声と163cmという低い身長、下手をすれば小学校高学年で通ってしまいそうな童顔、極めつけにカツオという愛称で全てが台無しだ。これで喧嘩が強ければそれはそれで一種の凄みになるのだが、残念ながら全く期待はできない。

実際の所、3年生は将大とカツオだけとなるので、自動的にカツオが副番長となる。

「で、この俺が副番や。文句無いよな?」

「いやいや、3年二人だけじゃないっすか」

二人の前に座っていた4人のうち、最初に口を開いたのはショーヤこと嶋村翔也(しまむら しょうや)だった。釣り眉タレ目に両耳ピアス、髪の毛は濃い目のオレンジ色に染め、ブレザーの下はノーシャツノーネクタイでパーカー着用、フードを奥襟から出していかにもチャラチャラしてます、という風情。しかし丸顔で頭ばかり大きく手足も胴体も短い3頭身半体型なので端から見て今一格好悪い。ついでに言うと気も短いが喧嘩は弱い。

「本名さん番長、カツオさん副番しかないじゃないっすか。なぁアキヒコ?」

「まぁ…他にどうしようもないっすよ」

急に話を振られて無表情でうなずいたオールバックの2年生の名前は浅野明彦(あさの あきひこ)。185cm80kgという恵まれた体格のおかげで喧嘩の実力はコテ高随一。しかも鋭い切れ長の目と実年齢より5歳以上年長に見られる老け顔もとい落ち着き様は3年の将大とカツオ以上に貫禄があるように見える。しかしそれとは裏腹に内気でシャイで口数が少ないのでいつもショーヤ辺りに主導権を握られている。

「ていうか、本名さんの方が番長って感じっすよ!」

鋭角な銀縁メガネをかけた肥満体、ヤマブーこと山村勇悟(やまむら ゆうご)が笑うとカツオが声をひっくり返しながら噛みつく。

「お前俺のことナメてるやろ!…マジで」

途中で何かに気付いてトーンダウンした。ヤマブーの言う事に納得してしまったからだ。身長170cmで茶髪のウルフヘアーが決まっており一丁前に目付きも悪い将大の方が、あだ名そのままのカツオよりよっぽどドスが効いている。しかも喧嘩も将大の方が強い(とはいえ将大もそこまで強い訳ではないが)。

「でも、今の3年って二人以外抜けちゃったっすよね」

ソウこと沢城聡佑(さわしろ そうすけ)が残念そうに言う。このグループの中では一番顔立ちが整っており、トレードマークのソフトモヒカンのお洒落な感じも相まってグループ内ではイケメン扱い。それでいてショーヤやヤマブーの無軌道な言動に歯止めをかける常識人だったりする。


「ホンマそれやで。俺ら以外の4人とも受験やーとか就活やーとか卒業ヤバイーとか言ってぬけやがったし!」

「マー公進路大丈夫か?俺はお父んの舗装屋に就職するからええけど」

「俺は今しかできない事を全力で楽しむんじゃ!」

将大は壊れかけの椅子をキイキイ言わせながらふんぞり返っているが、進路の当てはない。「その時が来たらなるようになる」としか思っていないだろう。一方のカツオは、親が「有限会社野上道路」という舗装業の会社を営んでいるので、放っていても就職先には困らない。「これは今年の一年に期待やな、マー公?」

「即戦力になる奴が欲しいよな。中学の時学校シメてたとか、格闘技やってるとか、キレたら周りが血の海になるとか…」

「俺、そんな奴に言うこと聞かせる自信無いっす!」

ヤマブーが情けない事を言いつつスマホをいじり始めた。画面をピンチしながら目を血走らせている。エロ画像でも見ているのだろう。

「そんなんお前ら2年の仕事やんけ!まずコミュ力の高いショーヤが話をして、パワーのあるアキヒコがシバいて言うこと聞かすんやんけ」

「セっコ!早速番長の特権使うんすか!」

文句を言うショーヤだが、コミュ力が高いと言われ嬉しそうなのは隠せない。無茶ぶりの巻き添えに遭ったアキヒコは聞かなかったことにしてヤマブーに続き携帯をいじり始める。こちらはソーシャルゲームらしい。

「やっぱり、こういうのって3年が直接言うモンじゃないすか?」

「お前、誰にモノ言うとんじゃ」カツオがソウのツッコミに対しまたも噛みつくが、いくら3年でも愛玩犬のような喧嘩の弱いチビ坊主の言うことなんか聞く奴が不良をやる筈がない。

「ええから聞けや!」

将大が勢い良く立ち上がる。その拍子に椅子が壊れて完全に粗大ゴミと化した。

「お前ら、明日から見所のある1年スカウトして連れて来いな!一人くらいパシリ要員入れとけ!以上!解散!」



帰り道、二人になったショーヤとアキヒコ。内気なアキヒコは今年最初の番長命令を思い出してため息をつく。

「俺、知らん奴に声掛けるん苦手やしな…」

「そんなん、『来な殺すぞ』っつったら大丈夫やんけ」

「それも何かかわいそうやしな…」

「お前…不良がかわいそうとか言うなや!」

「大体、前の番長が次の番長を指名するっていうのがアカンよな。そんなんちゃうかったらアキヒコが実力で番長なれるやん」

「いやいやいや!俺番長とか無理やし!まとめるとかできひんし!」

「そんなんは俺が副番になって代わりにしたるわ!だからいつか実力でトップ取ったろうぜ!」

「うーん……俺は何かそういうのイヤやな…」


世襲制度に早速反発するショーヤ。しかし肝心のアキヒコが乗り気でない以上、クーデターは成功するはずがない。結局大人しく新番長・将大についていく羽目になってしまうのだ。


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