下
詰め込みすぎて大暴走!
本当はこの話をベースにいろんな童話を織り込んでいく予定でしたが、時間が足りませんでした。
いつか丁寧に書き直したいです。
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会話と文章を追加。
話が少し滑らかになるようになった、かな?
今日まで長いようで短かった。
脳裏に過ぎる日々をかみ締めて、私は継母様と姉たちに向き直った。
彼女たちも辛く苦しい特訓の道のりを思い起こしているのか涙で潤んでいる。
「継母様は人脈作り!新しいうちの特産トウモロコシをついでに宣伝してきてください!」
「値段は?」
「相場の1.5倍で。まだ量産はできてないですし品薄くらいでちょうど良いです。姉様たちは王子をゲット!難しいようなら公爵あたりを狙いましょう!姉様たちなら出来ます!!余程のロクデナシでない限り矯正は可能です。広い視野で行きましょう!」
「「師匠っ…私たち頑張ってきますわ!!」」
姉様たちは頼もしい肉食獣の瞳で返事をしてくれた。特訓の成果か、姉様たちは気が昂ぶると私を「師匠」と呼ぶ。まあ、普段は出ないから大丈夫か。
「ジョセフは留守を頼んで申し訳ないわね。帰ったら皆で一等のワインで祝いましょう。勿論ジョセフもね。準備をお願いするわ。」
「お嬢様…ご立派になられてっ……。畏まりました。お気をつけていってらっしゃいませ。皆様がお戻りになられるまで、この家をしかとお守りする所存ですぞ。」
一緒にトレーニング(ジョセフ用に組み直したもの)をするようになって、ジョセフは精悍な顔つきになっていた。老年に差し掛かっているにもかかわらず肉体は一回り大きく腹筋はバキバキに割れ、威圧感が半端ない。ごついおじいちゃんになってしまったが、用心棒代わりと思えば一石二鳥、かな。
筋肉でピチピチのスーツを着たジョセフに見送られて私たちは城へと馬車を走らせた。
馬車は買った。出来立ての馬車は木の香りが心地よい。御者台に座るのはディー。今日はずるずるのローブではなくそれらしい服を着ている。
「あるじー、こっそり入って飯食ってもいいですかね?」
「良いワケないだろ馬鹿者。」
良い服を着ていてもディーはディーだった。
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王城はそれはもう煌びやかだった。
きんきらきんで目が眩みそう。
しかし私たちも負けていない。
麗しの継母様と姉様たちは堂々と入城し、視線を釘付けにする。
継母様は下品にならない程度に妖艶な魅力を引き出す黒と赤、姉様たちは某プリンセス達を参考にした緑と黄色のドレス。デザインは同じで、対にしてミステリアスさを引き出すようにしてある。
この日のために新潮したドレス一式。彼女たちの魅力を余すところなく伝えている。
掴みは完璧だ。早速大勢の人々に囲まれている。
「いやー、思いの外ご馳走が少ないですねー。」
「なっ、ディー?!」
私が満足げに彼女たちを眺めていると背後から聞きなれた声がした。
慌てて振り向けば、貴公子然とした出で立ちになったディーが立っていた。いつもぼさぼさの髪は整えて後ろへ流され、綺麗なアメジストの瞳が見える。深い青に金の刺繍が細やかに施された衣装はとても良く似合っていて、まるでどこぞの王族だと言われても納得出来そうだ。
全然知らない人のようで、何だか落ち着かない。
「どうです?幻術完璧でしょ?これで着替えいらずですよ。」
「…………。」
やっぱりディーはディーだった。
一瞬格好良いと見惚れてしまった自分が悔しい。
「可憐なお嬢さん、どうか私と一曲おどってくださいませんか?」
声をかけられて振り向けば、なかなかのイケメン!
恥じらいに目を逸らす振りをして、素早く服装をチェックする。
流行を取り入れて斬新にしたりカフスをゴテゴテのキラキラにするのは成金趣味の親父か舐められないように金をかけている下流から中流だと聞いた。
(流行を取り入れつつも伝統のデザインも重視。カフスは何処のか見えないけどシンプルな家紋入り。
…これはいきなり当たりが来たのでは!?)
「喜んで!」と手を出そうとする私の手に後ろから大きな手が被せられる。辿って振り返れば、有無を言わせぬ笑顔のディーがいた。
「彼女は私との先約がありますので、他をお当たりください。」
「誰だよ?!」と突っ込もうとした私の口は、もう一方の彼の手が頬に添えられた事により阻止された。
イケメンはイケメンだが、ディーと並ぶと分が悪い。相手は気圧されたように適当な挨拶をして逃げてしまった。
文句を言おうと睨みつけたが、笑顔で返された。
見慣れない姿に何だか私の頭はのぼせてしまって、何も言えずにそっぽを向くしかなかった。
なんだか調子が狂う。
その後もディーは来る人くる人を追い返していく。全く言う事を聞かないし(あ、これは普段からだったわ)いくら人混みで巻いても現れるので、私は仕方なしにヤケ食いをするしかなかった。私は不貞腐れているのにディーはどこか楽しそうで納得がいかない。鼻歌でも歌い出しそうな奴に腹が立ったので、ヒールで踏もうとしたら避けられて更に腹が立った。
しかし、お城のご飯はとても美味しい。
お腹も満たされ気分も治ってきた時、会場がざわついた。
「ナルセム王国王子、シュレイン様のおなりである!」
王子が入ってきた。
途端熱気に包まれる会場。周りのお嬢様方の気合の入り方が半端ない。花道への場所取りが凄い。正月の福袋商戦のようだ。アレに行けるのは歴戦の猛者しかいない。あまりの凄さに男性陣がちょっと引いている。
私は王子様狙いではないからホント良かった。一目だけは。見ておこうと首を伸ばした。有名人だしとりあえず的な。
遠くに見えたのは金髪に白の礼服に身を包んだ美青年。会場の熱気にも負けず堂々と歩く姿はさすが王子様。綺麗な深い青の瞳が見えた。
そこまで見て満足した私はデザートに取り掛かった。
ディーが食べている苺のムースが最後のひとつでそれを取り合っていると肩を叩かれた。
「何?!」
勢い振り返ると、そこにいたのは王子様。
いつのまにか会場は静まり返っていた。
「え…と、ワタクシニナニカゴヨウデショウカ。」
何とか声を絞り出すと、王子が目の前で膝をついた。
「麗しい姫よ。お名前を聞いても宜しいかな?」
ええぇぇ…
お嬢様方から悲鳴が上がった。
「あの…「しがない一貴族ですので、王子様にお名前を覚えていただくほどのものではございません。」
視線を遮る様にディーが前に出る。
こうして並ぶと正直ウチのディーの方が格好良く見えるのは身内の欲目だろうか。少しムッとしたらしい王子がディーを見る。
「誰だお前は?私はお前には話してはいない。去れ。」
「んー、貴方は私の主には相応しく無いですね。お引き取りください。」
「何だと?!私は王子だぞ!」
「それで?」
「なっ!…お前何処の者だ?」
「私は彼女に仕えるしがない魔法使いですよ。去れといわれるのであれば去りましょう。さ、主帰りましょう。」
「お前だけ帰れといったんだ呪い師!」
「ええーさっきは帰れとしか言われなかったからそんなの分からないですよ。」
「屁理屈をこねるな!!衛兵!こいつをつまみ出せ!!」
ディーは王子相手にも全くブレなかった。
「こ、こら!止めなさいっ!」
「いててて…!」
漸くフリーズから解けた私は、流石に不敬が過ぎると力強く背中の肉を抓った。次に体のバランスを崩したディーの髪を引っ掴んで頭を下げさせる。
「ウチの者が大変失礼しました。いやー何分私共は田舎の無作法者で失礼を…ハハハ…。」
冷や汗をかきながら必死で弁明する。打ち首とかはごめんだ、ホント。
「…何ですの、アレは。」
「全く、何処の家かしら。少しばかり見目が良いからって、無作法にも程があるわ。」
「見た事もない方ですし、本当は貴族でないのでは?」
「んまあ、下賤な者が着飾って?分を弁えて欲しいですわ。それも下賤な者だと分からないのかしら。」
そこへ非難と嘲笑が交じったお嬢様方の声が響く。
…うわーぉ、怖ぇ。
この時ばかりは一年前まで虐げられて社交界にデビューしていなかった事を天に感謝した。絶対家名は言わないようにしよ。
しかし状態は全く好転していない。私が頭痛を覚え始めた時、
「煩い。」
ディーがすっと視線を動かした。
途端悪口を言っていた令嬢たちの口がピタリと閉じ、駆け寄ってきていた兵士が彫像のように固まる。
ついで、明かりが明滅し、城全体が揺れだした。
「ひっ…いやああああ!!」
窓際にいた令嬢が外を見て悲鳴を上げる。異常を察知した皆が外を見ると景色は一変していた。
雲が窓を横切り、眼下には街の明かりが遠く見える。
いつの間にか空に浮かんでいたのである。
「なっ、やめろ!やめさせろ!!」
「私は煩いと言ったぞ?」
その一言と一暼で固まっていた近くの兵が床に叩きつけられる。
王子や兵たちが必死でディーを止めようとするが誰もディーに近づけない。普段の人を食ったような飄々とした雰囲気はカケラも無い。圧倒的な力で人を捩伏せ綺麗な顔を薄く歪ませて笑うディーは、さながら魔王のようだ。
「思い上がりも甚だしい愚かな蝿どもが。この私を怒らせた事を後悔しながら死ぬが良…いっ!!」
「やめろっつってんだろがっ!!」
私渾身の肘がディーの鳩尾に入る。
「い、痛いですよ主ぃ。」
と悶絶するディーには先程の威圧感は欠片もない。そのことにホッとして、私はディーの頭をばしばしと叩いて城を元に戻させた。
城を戻して一息つくと、周りはまだ呆けている。
…ばっくれるなら今しかない、と思った。
「皆様、大変お騒がせしました!どうぞこのあともご歓談をお楽しみくださいませ~。オホホホホ…。」
ディーの襟首を掴んでトンズラこいた。
「あっ、待って…」
王子が何か言って来たがそのまま逃げた。
賠償金とか払えるわけもない。
…完全な失敗だ。
祝賀会で開けるはずの上等なワインはやさぐれた私といつの間にかしれっと一緒に飲んでたディーの中に消えた。腹が立って全力で足を踏んだ。家用の布靴である事が悔やまれる。
遅れて帰ってきた継母様と姉様たちはちゃんと任務を遂行してきたのでワインが美味しそうだった。
姉様たちは無事に素敵な旦那様をゲットできたようで何よりだ。伯爵様と公爵様。どちらもイケメンで優しそうな人たちだった。彼女たちを鍛えた師匠として感慨深いものがある。
こうして私の運命の旦那様を見つけようプロジェクトは終わりを告げた。
ガラスの靴なんて履いてなかったので、王子の使いが探しに来ることもなかった。お触れは出ていたけど勿論無視した。
顔バレ現金の王都でコソ泥のような生活をするのに飽きて、私は領地に引っ込むことにした。
ほとぼりが冷めるまで、と思ったが、のんびり領地で過ごすのも悪くないと最近は思っている。
「エラ様ー、この辺一帯の木をなぎ倒してトウモロコシ畑を作っても良いですかね?」
「良いわけないだろ!!」
「ちょっと暴風で根こそぎ倒すだけだから。」
「なんで許可すると思ってんの?!」
…あまりのんびりはしていないかもしれない。
サンドラ子爵領のトウモロコシは名産だから、あと少しは畑を広げる許可を出してもいいかもしれない。
……甘いか?いや、必要投資、のはず。
ディーはあの件のことは「なんか腹立ったから」で済ませてケロっとしている。
私だけ悶々と悩むのは腹が立ったので一発殴っておいた。
「エラ様ー、腹減った。いつものスープ作ってください。トウモロコシの。」
「従者としてその態度はどうだよ?!」
「ええー、だってエラ様のが一番美味しいですもん。」
「…………しょうがないなぁ。」
穏やかに過ぎる風に目を細めて私は答えた。
こうして今日も私は駄目な魔法使いと幸せに暮らしているのであった。
読んでいただきありがとうございました!
いつかまた、彼らを動かしたいですね。
その時にお時間あればまた見てやってください。