episode1
クズリって知ってるか?
イタチ科、熊に少し似ている。英名はウルヴァリン。小さな悪魔と呼ばれていて自分より遥かに体の大きいオオカミやピューマ、時にはヒグマからも餌を横取りするらしい。
狩りの仕方はスタイリッシュで木の上から獲物の脊髄を狙うという。雪国に生息しているらしく、雪の上でも時速四十キロで走るらしい。あのハリウッド映画「ウルヴァリン」の主人公、ローガンはその勇敢さや強さからこのクズリを思わせるためウルヴァリンと呼ばれる。
俺は渡辺 悠斗。ローガン(ウルヴァリン)の強さに憧れる普通の高校生だ。今もローガンを目指して筋トレに励んでいる、着痩せはするが脱げば凄いんです。
「骨の鉤爪、出ないな・・・」
手のひらを力強く握りしめ、骨の鉤爪が出ないか今日も試す。これはもはや日課となり、かれこれ五年間続けている。いつか出るって信じてる。意外とマジで。
「悠斗~~!ご飯よ~!」
母さんの声だ。朝食が出来たらしい。
「わかった、今行く」
返事を返して部屋の扉を開けて階段を降りてゆく。
リビングに着くと俺以外の家族は既に席についてトーストを口にくわえていた。
「おはよ、兄ぃ」
「あぁ、おはよう」
恵梨香に返事を返す。中学三年生のかわいいただ一人の妹だ。今日はポニーテールだ。いつもは下ろしているのに。
「髪型、似合ってるじゃないか」
席について恵梨香の髪型えお褒める。凜とした顔によく似合っている。
「ん・・・ありがと」
いつも通りの無表情でお礼をする恵梨香。
「はい、どうぞ」
テーブルに俺の朝食が置かれる。とても美味しそうだ。
フレンチトーストにツナの入ったサラダ、フルーツ。流石に凄腕調理師は伊達ではない。いつもありがとうございます、母さん。
「いただきます」
「召し上がれ」
うん、やはり旨い。こんなものを毎日喰える俺は本当に幸せ者だ。
味を愉しんでいると母さんがもう一品、食卓へ運んだ。
これはお餅・・・?
「ヘルシーなお餅料理作ってみたの、もう少しでお正月でしょ?」
「なるほど、じゃあいただきます」
その料理の見た目は色あいがよく、目ですら愉しめる。
味はどうかな・・・?
箸で餅を掴み、口に入れる。すると餅の柔らかさと餅本体の甘さが伝わってくる。そしてあまりの美味しさに飲み込んでしまった。
「どう?美味しい?」
「・・・」
「悠斗・・・?」
「・・・」
「お、兄ぃ・・・?」
--喉に詰まった・・・ッ!
俺の様子を不思議に思った母さんと恵梨香がこちらを見てくる。苦しさと一緒になんとか声を出す。
「のど、に、つまっ、た・・・ッ!」
「えっ!?悠斗!大丈夫?!」
大丈夫な訳がない・・・。
「お、兄ぃッ!」
恵梨香がイスを突き飛ばしてこっちに寄ってきて俺の背中を叩く。 痛い。母さんアタフタしている。
--マズイ・・・意識が・・・。
--こういう時、ローガンはどうするんだろうな・・・。
もう意識が持たない。
--次の人生はクズリのように強く生きよう。
死を覚悟しながら強く生きることを決心する。
そして意識は途切れた。