【16】疾走
冗談、というのは言葉の上で交わされるから面白いものだ。
もしそれが現実に起こるならそれは“冗談じゃない”。
ブレス。
ブレス。
呼吸に揺れる体を押さるために二酸化炭素を吐き出した胚は、極限までしぼんで胸は硬く引き締まる。
三度目の射撃、確実に彼女の脊椎を撃ち抜ける位置に合わせて……一度目、二度目と同じ射線を辿り彼女に吸い込まれるようにラプアマグナムが進んでいったはずなのだが。
(どうやら)
俺の弾は彼女に届く前に消えているらしい。三度目の正直ではないが、この三発目の弾が砂煙も上げず立ち消えたことでようやく確信を得た。俺の腕が落ちたわけではないのにほっと無でを撫でおろしもするが、状況はそれどころではない。
(さすがに気づかれたらしいな)
ラプアマグナムが直撃したわけでもないが、今回減音をまったく施していないマグナム弾だ、その音は近くを通るだけで威圧感を振りまくだろう。
俺の居場所を正確に把握しているようではないが、それでも攻撃を受けているという状況は把握しているらしい、まずいな。
魔女の周りに浮かんだ随分とファンタジーな光景が更にファンタジックに広がっていく。彼女の頭の上に四つ、黒いエネルギーの弾が浮き、いかにもといった様子で雷のように電撃が走っている。
おうおうおう、魔女か、魔女だな、間違いないあれが魔女だ。
「タッツ!!」
距離は800m。大声程度では聞こえないはず。
「なんですボ……」
「全員馬まで走れ、今すぐだ!」
彼女が俺の視界の中で腕を上げる、その瞬間浮かび上がった四つの弾が彼女の頭上で回転を始めて、落ちた。
地が捲れた。
(なんてこった!)
こいつはよく知っている、嫌な予感的中といったところか!
CASミッションを空軍に頼むとちょうどこんな攻撃が見れる、GBU-31、JDAMが炸裂するとちょうどあんな感じだったか、とにかくあんなもの食らったら一溜りもないのだろう。
それはあの魔女の力をもろに食らっているバイバレスの連中を見ればわかる、恐らくあの中心地にいた奴は骨すら残っていまい。
(味方もおかまいなしか!)
あの魔女は恐らく今恐慌状態にあるのだろう、周りが見えていない状況にある。恐らくバイバレスの連中は彼女の力をもって城壁を破ろうとしていたところに俺が邪魔をしてしまったというわけか。
このままここにいてあれに巻き込まれるなど冗談でも笑えるものではない。
「な、なんですかボス、これは!」
「説明は後だ、今すぐ後退する。 グローア、走れるな!」
「は、はひ」
くそまずったな、まさかこいつをまるでものともしないとは。
それに聞いていた話を少々軽く見すぎていた、どうやらダグレイスの言っていたことは本当らしいな、あれが暴れたならば確かにこの世界の軍では太刀打ちできないだろう。
「よし行くぞ、タッツ、前を行け。 スッティ、グローアを見てやれ、やれるな?」
「任されて」
足元が揺れる、遠く平原側で炸裂するエネルギーの波がこうして伝わってくるというのは、随分と戦場らしくなるものだ。
あぁくそったれ、まさか空爆の中を走るような真似をこの世界でさせられるとは!
「走れ走れ走れ!」
万が一の後ろから追撃を警戒しながら俺は走る、背中向きに走って、それでも足をもたげぬようにグローアとスッティの背中を守りながら。
「走れ!」
あぁ最悪だ、最悪の日だ。俺に今できるのは、あの城壁が破壊されないことをただただ祈るだけだった。




