【S6】仲直りにはふれあい
はぁ。
私はまたやってしまった。
「……」
彼がそういうことを仕事にしているのはわかっている。こんなところに来て華を植えるのでもないのだから、彼はいつかは戦いに行ってしまうのだろう、わかっていた。
けど、思ったよりもずっと早すぎる、王はここで兵たちを勇気づければいいと言っていたのに、私に相談もなく彼は行ってしまう。
……私、身勝手なこと言ってるな。
(でも……それでも、彼がどうして危険な場所に行くのかわからない)
兵士とはみなああなのだろうか。みなあんなに、自分の命を軽んじるのだろうか。
「私は世間知らずなのでしょうか……」
思えばこの十数年ほとんど教会の中で過ごして、儀式や儀礼、作法を覚えることでほとんどの時間を使ってきた。
戦争をしている人々がいることは知っているけれど、その実態を見たのはこれが初めてと言っていい。
(聖女などと持ち上げられていても……)
私は何も知らない子供のまま、意図的に世間の喧騒と隔絶されて生きてきた自身が今はもどかしくて、なんだか悔しい気持ちにもなる。
今までそれを知らないまま生きてきた自分が力なく俯く、情けない自分に涙すら出そうになる。
私は喧嘩の仲直りの仕方すら知らないのだ。
「っ! だ、誰でしょう」
机の前に向かう私に聞こえてきたのはノックの音。急いで目元を拭って振り返り、その誰かを迎え入れるため急いで立ち上がって
「俺だ」
聞こえてきた彼の声に、思わず動きが止まる。
さっきまで冷めきっていた指先が、急に熱くなるのが感じられた。
「入って……うぉ」
答えも聞く前に開けてしまったその扉の前に、少々驚いた彼が私を覗きこむ。
何でこんなこと、落ち着いて開ければよかったのに。
「……邪魔する」
「どうぞ」
家の中に入ってきた彼はさして気取るでもなく、いつものあの物珍しい姿。
一体、一体何をしに来たのだろうか。
「何時ぐらいに寝るんだ? それまでには帰るつもりだが」
「い、いえ、とくには決めていませんから」
嘘だ、月がこの高さであればもう蝋燭の灯りを消す時間で、出来る限り資源を大事にするために早々に眠ることが多い。
「そいつはよかった、少し話がしたくてな。 座っていいか?」
「あ! あ、どうぞ! 私は……こっちに」
いつものように話せない、あの日から。むき出しの感情をぶつけて彼をなじってしまったから、その負い目がどうしても忘れることが出来ない。
それに私がこの人生を捧げてきた教義を思うとどうしたって彼に説教をしたくなってしまうし……命を投げ出すような真似はやめてほしいと願う気持ちは依然としてある。
だから彼が話し出すのを待って、私はただただ沈黙を保った。月の光の下で二人伸びる影が向かい合い、見つめ合う。
「俺のこと嫌いになったか?」
「い、いえ、そういう……わけでは」
「よかった、じゃあまだ仲直りできるな」
「……はい」
彼はにこやかに笑う。卑怯だ、そんな笑顔。
「俺はこういう生き方しか知らない、ずっとこうして生きてきた、そういう点では似てないか? ……似てないか」
違いすぎる。私と彼とではまるで違う。
「俺の生き方を認めてくれってわけじゃない、ただ」
彼と比べたら、私はまるで子供だ。聞き分けがなくて、我がままばかり言っている……。
「パラダ、俺は俺の生き方でお前に嫌われたくない。 俺を嫌わないでほしい……ただそれだけだ……聞いてくれるか?」
「……はい」
私がこの人の生きる道に何か口を挟めるようなことをしただろうか、いや私は助けられてばかりで、彼を助けたことなど一度もない、それなのに私は、こんなことばかりを言って困らせて。
子供だ、私は子供だ。今から命を懸けてこようという彼に、こんな気苦労を使わせて。
恥ずかしさか何なのか、私はもう彼の顔を見ていられなかった。
「それと」
彼はゆっくり腰を上げて、ふと私に影がかぶさる。
それは彼の手が月の光を遮ったからで
「俺のためなんかに泣くなよ」
彼の手が私の頬を拭っていたから。
「勘違いだったら恥ずかしいセリフだな……よく眠れよ」
そのまま私の部屋から出ていく彼の背中を、私はただ茫然と見送っていた。
……その夜はどうやって眠ったのかよく覚えていない。ただ、ジストが言うには酷く幸せそうな顔をしていたらしい。
……ジストにはお願いだから忘れてくれるように頼みこんだ。




