【4】街
正直言って、最初の印象は驚きだ。
「デカい街だな」
「あぁ、凄いものだろう!」
「何でお前が自慢げなのかは理解できないけどな」
俺が居たのは概ね中東の田舎街で、最もなじみのある場所もそこだから、むしろこの街の空気は懐かしいくらいに思える。
「シャインガルはこのあたりでも一番の街」
川の流れこむ広大な平野に寄り添って建てられた街には多くの交易路が入り、その街中も随分と活気で溢れ、行きかう人々と俺たちもまた一つの大きな流れとなって動く。
路傍に溢れる露天商、大通りを歩く山羊の姿、そして何より目を引くのが。
「なんせ」
道の奥に繋がる、その大きな建物。
「ここは国王オルソン家が代々住まう、アルカトールの首都だからな!」
「なるほど」
そこら中にうろついている鎧を着た男たちは衛兵というわけか。
やけに物々しい雰囲気を曝しだしているから何かと思ったが、あの城の中に住まう人間を守るために出払っているようだ。
とはいえいくら何でも剣呑な雰囲気が街を包んで、随分と穏やかならぬ状況という風に見受けられる。
俺もストールで体を覆っていなければあの商人のように鎧の男達に止められ因縁をつけられていたかもしれない。
城下町の警備というのはえてしてこういうものなのだろうか。
「この道でいいのか?」
「はい」
ともかくもめ事に捕まる前にパラダを目的の場所まで送り届けよう。こう人ごみの中では落ち着いて話もできない。
自信満々に道を間違えるジストの首根っこを掴んで大通りから右の脇道へそれると、少々人気は少なくなったように思える。
「あれか」
建物の隙間から見えてくるひと際目を引く建物。
「こういうのに余り興味はないんだが、凄いものだな」
外見に余すところなく施された細かい装飾、恐らく何十年もかけて細工師が石から掘り出したのだろう。
明らかに異質さを称えてその建物は聳え立っている。
「えぇ」
感心していると今度はパラダが胸を張り、自慢げに鼻を鳴らす。正しく言えばない胸だが。
「このフェルベノ教会は今から三百年前に聖者フレジの聖遺体を保存するために時の王トラッキハントが大工ララスラ・アラに……」
さすがに神官、本職の事となると饒舌になるらしい。
今まで謝罪か挨拶くらいしか聞いたことのない口から次々と歴史が語られていく。
正直なところ俺は何一つここのことを知らないから、そう固有名詞を並べられたところで覚えられはしないのだが。
(まぁいいか)
「この教会はこのアルカトールのまさにシンボルであり、国を支えてきた経済、宗教、学術、様々な意味での重要な施設であり、この教会を任されるということは国家の一大事を……」
楽しそうに喋っているのだから邪魔しては悪い。
「あぁそうだぞ! そしてこの教会を守っているのが私たちアルセリアき」
「黙れ」
「何故だ!?」
こうしてしばらくパラダの説明を聞きながら教会の前でのんびりと、周りを通り過ぎる人間たちの奇異の目に晒されながら過ごした。




