【S3】ディナーはどちらで?
街で俺はすぐに歓迎された。
「こ、こんなことさせてしまってすみません!」
「いいって、気にするなよ」
なんたって貴重な男手だからな、街の修復にせよなんにせよ労力にありすぎるということはない。
「こいつはどこに置けばいい?」
「あっちの……“世惑い亭”です!」
「了解」
ひとまず俺たちはリレーアの街に腰を下ろし、それぞれの生活に落ち着いていた。
すぐさま行動、というわけにもいかないし、前線は前線で頑張っているようだし、俺たちにできることは今のところこういった雑用のみ。
といっても俺は与えられた部屋で休んでいればいいという身分であったものの、ずっと何もしないでは体がなまってしまう。トレーニングは欠かしたことがないが、それでも暇を持て余すならこうしていたほうがずっといい。
(さて)
リレーアが目標としていることはわかった。バイバレスとの戦いが大目的で、小目的は先の戦いで行方不明になった将軍の捜索。
俺は前線に出る必要がないとアーニアルから言いつけられてはいるが、このままこの状況で手をこまねいて見ているというのは、どうにも俺にはできないらしい。
どうせ奴のことだろうからここまで読んだうえで俺をここに送り付けたのだろうが、お望み道理働いてやろうじゃないか。
「ボス!」
「タッツ、首尾は?」
俺が選んだリレーア派遣隊のうちの一人、手先の器用なタッツ・フロップイ。
そのタッツが向こう側からやってきて、笑みを浮かべ腰にぶら下げてた袋を持ち上げる。
「この通り」
このタッツは元盗賊上がりで、軍の中でも疎んじられていたところを見つけた。
「上出来だ」
タッツから袋を受け取り俺はコインを渡してやると、奴は笑みを浮かべたまままた影の中へと消えていく。能力を示したものには相応の対価を払う事が軍の士気を高めることにつながるのだ、こういうところでケチを出してはいけない。
おかげでタッツは俺の密偵として随分役に立ってくれている、盗みから人間関係の掌握から監視まで、俺の手の届かないところをよくよくカバーできる都合のいい男であった。
「え~っと……エバンセ通り、1-4-1……」
この近くのはずだが、それらしき場所は見えないし、荷物の受け取り主らしき人物も見えない。
「……ここか?」
ふと視界に入った暗がりの一角。ふとすれば見過ごして通り過ぎてしまうような、そんな目立たぬ裏路地の扉。
その前に立った看板には確かに“世惑い亭”と書かれた文字が並んでいて
(まいったな、木箱が入らんぞ)
あまりに入り口が狭いもので手に持つ木箱がどうやっても入らない。まさかここに置いていくわけにもいかず、仕方ない事情を話早々に引き取ってもらうとしよう。
古い木の扉を開けてみれば強い酒気の臭いが鼻をつく、なるほど酒場か。
「あら」
カウンターらしき場所から出てきた女性が俺に気づいたらしく、俺のことをじろじろと眺める。
「うふふ、あなたにはまだ早いんじゃないかしら」
「勘違いさせて悪いが、客じゃない」
「じゃあ何かしら?」
中は随分と薄暗く、湿気ていて、酒気に交じって漂う香水の匂いで酔いそうだ。
その香水の匂いはこの女店員の肌から発されているのだろう。
「荷物だ、引き取ってくれ」
「あらあらごめんなさいねぇ、うち搬入口は裏口よぉ」
「まいったな」
それにしても、彼女が着ているのはドレスだと思うが、随分とルーズで……いやもはやこれはただ体にかかっているだけと言っても構わないだろう。
どこぞひっかけでもすればそこに引かれて全てをさらけ出しかねないようなドレスに飾った彼女は随分と妖艶で
「オーナー? どうしたんです」
「お荷物届いたんだけど、入り口から着ちゃってねぇ~」
「あぁ~」
奥から出てきた従業員と思われる少女(といっても俺より上か)の姿を見てようやく合点がいった。
(なるほど)
彼女もほとんど肌を露出し、最低限の衣装がかろうじて女性の尊厳を保っているといった様子。
けだるげで嫌に朝日を嫌うようなしぐさを見せる辺り、まさしく影の住人といった感じで
(ここは娼館か)
ここが夜の世界だということを理解した。




