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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
The ShadowWarrior
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【S2】夜の森


 あぁ、俺は正気なのか?

 いっそ正気じゃなくて狂っているなら助かるんだが、どうにもそういうわけにはならないらしい。


「は~、安らぐ」

「……」


 真横でバカでかいため息をつくジストもそう、この圧倒的な現実感、夢や幻覚ではありえない触感やディティールが俺にこれがリアルなのであると重くのしかかる。

 非現実的、非常識、あり得ない、馬鹿げてる、どれだけ言葉を重ねたって、どれだけ瞼を閉じたって、この随分と古風な恰好の二人は俺の目の前から消えない。

 大きく開かれた原っぱから森の中へと入ると随分じめじめとした空気が肌を触る。


「抜けるのに一日かかりそうだな」

「あぁ、今から日が暮れる前に森を出るなら走らなきゃだめだ」


 結局あの後誰も来ないまま数分が過ぎて、いい加減ジストの顔が青ざめて来たので縄を切って、ゆっくりと下ろしてやった。


「さすがに深夜の強行軍はな」


 そのお陰でただでさえ体力に不安があるパラダに加えて、ジストも調子を崩してしまった。


「すみません……」

「謝ってばかりだなあんたは、ほら」


 たき火を囲んでいたパラダに水筒を勧める。


「ありがとうございます」


 俺が知る前からずっと歩き続けているのだろう、こうして落ち着いてみればパラダは随分と憔悴して見えた。

 ジストもうつらうつらとしてさっきから何度もたき火に顔から突っ込みそうになっている。

 これを無理に歩かせたところで病気や怪我に繋がり余計に到着が送れるだけだ。


(ヤスカンド強襲を思い出すな)


 あの時はVIPの一人が異常な肥満で、一日10kmも進めないという事態に陥り、結局のところ他のチームと合同で装輪を使い脱出したのだ。


「おい」

「んっん~……」

「こんなところで寝るな、ちゃんと姿勢を正せ」

「……」


 既に目が半分しか開いていないジストをベッドに運んでやって、粗末な獣の皮を上にかけてやった。

 鎧くらい脱げと思うのだが、“私は護衛だ! いつ何時でも臨戦態勢だ!”などといって脱がずに今に至る。

 そう思うなら護衛対象より先に寝るなよと思うが、もうこいつはいい。


「あんたも寝てしまえ、翌日まだ歩くぞ」

「えぇ、えぇ、そうさせてもらいます」


 相変わらずふらふらと不安を感じさせる足取りで寝所へ向かう彼女の姿。ジストが背負っていた仮設テントでひと際いい場所で寝れるのが幸いだが。


「ほら」


 そこに行くまでに転ばれても困るので、手を差し出してやる。


「……」


 顔を俯けたまま一言も喋らない彼女、どうやら相当疲れがたまっているらしい。

 テントの前まで来ると素早く頭を下げてそそくさと中に消えてしまう。

 少しくらいおしゃべりしたかった気がしないでもないが、まぁゆっくり休んで疲れを消してくれた方がいい。


(さて)


 たき火を火を消すか消さないか、少しだけ悩む。

 たき火の明かりは当然相当遠くまで届き、ここに宿泊者がいるということを示してしまう。

 野盗の類がこの辺りにうろついているならばこれ幸いと近寄ってきて無抵抗の相手に暴虐を働くだろう。

 だがそれは逆に野生動物を寄せ付けにくいという性質も持ち、闇夜にしてしまえば臭いを辿ってやってくる可能性も考慮しなければならない。


「……」


 結局たき火はそのまま俺はその場を後にする。

 いや別に逃げ出すわけじゃない、ただ彼女たちと同じ場所で寝るわけにはいかないだけだ。

 パラダの方はどうか知らないがジストは間違いなく銃について理解している、この状態で眠れば彼女が手を出してこないという保障はない。

 万が一賊の類が来たとしても、音でわかるようにちょっとした仕掛けを施してたき火を背に遠ざかる。


 寝場所を離す、ともう一つ俺にはやらなければいけないことがあるのだ。

 それは食料の確保だ。


(あの野郎)


 あそこでぐっすり眠りこけているジストの奴が本来食料を確保しているらしいのだが、護衛なのにやることが山菜取りときた。

 まぁそれで問題なくここまでこれているのだから、俺が何を言う必要もないのだろうけれど、あぁも弱ってしまっては明日食べるものがない。

 剣があれば獣を刈って見せると豪語するあいつの剣を奪ってしまったのは俺だから、やはり責任は俺にあるのだろうがやはり何か釈然としないものを抱きながら歩く。

 俺だって眠らなくて動けるわけではない。実際今は凄く眠いが、それでも訓練されている分普通の人間よりも相当に眠気に対して対抗できる。

 とはいえこれから向かうのは真夜中の森の中だ、とてもではないがメディカルキットに入っているナイフ一本でどうにかなるようなものではない。


「まさか本当に使うことになるとはな」


 だからMOLLEの隙間に取り付けておいて、一度も実戦で使った事のないこれ。


「初めての実戦だ、気張れよ」


 折り畳み式で、畳んだ状態では少し大きいペットボトル程度の筒に収まる、小型のリカーブボウ。実戦闘で使う事を想定しひたすら耐久性を上げた軍用のものだ。

 筒に同封されたステンレス製の矢は骨を断っても三年は研げば使えるというのが売りで、俺も万が一のためにアーチェリーを習得していた。まさかこんな状況で使う羽目になるとは思わなかったが


「……食える獣が出てくれることを祈るか」

 

 最悪、パラダには俺の固形栄養食でも分けてやろう。

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