【29】決起
私たちは逃げ出していた、彼の作ってくれた突破口を一気に突き進んで、地上へ向かったのだ。
「神官殿、こちらへ!」
といっても道中私たちの道を塞ぐようなものたちはおらず、“聖戦士”の庇護を受けた人間を恐れず討とうとする人間はそう多くない。
「あ、あの、ごめんなさい。 うまく走れなくて」
「あぁもう、仕方ないな! 神官殿早く早く!」
おかげでのろのろと一向に進まない今の私でも無事城下町広場への扉へと迎えられていた。
恥ずかしい話であるけれど、彼に泣きついてからすっかり腰が抜けてしまったらしくうまく走ることができないのだ。
「よし……神官殿、せーので開けますよ」
「お願いしますジスト」
この先にあるのは城門前広場。先ほど私の話を聞き届けてくれた民たちがいるところだ。
アーニアル二世の手紙には演説を行ったら民衆に隠れて時を待つようにとあったけれど、果たして彼らは私を受け入れてくれるだろうか。
「せーっ……」
もしかして女王に反旗を翻すふしだらの聖女だと思われているのではないだろうか、そうなれば万事休す。
「の!」
破られた扉の向こうからあふれ出た光に私は思わず目を細めて、漏れ出る喧噪が体を包み込み、ジストの目の前で木の扉が倒れた。
「押せっー!!」
ここは城門前、もっと正確に言えば城の正面、正門に当たる場所。
「ブチ破れ、俺たちの王を取り戻すんだ!」
民たちが女王の言葉を聞くために押し寄せていた場所が、今はどうにも雰囲気が違う、それだけははっきりとわかる。
「一体何が起きてる!?」
「誰だお前……聖女様!」
「酒場の!」
それは街に来た時色々尋ねさせてもらった男だった。彼の伝言を区間長に伝えるのを忘れてしまっていたことを思い出したけれど、今はそれどころではない。
「これは……どうしたのですか?」
「見ての通りでさぁ」
民衆、それも力自慢らしい男たちが扉の前に集まり、どうやら力任せに正門を開こうとしているように見える。
「俺たちの王様に帰ってきてもらうために、あのいけ好かない親衛隊の野郎どもが閉じちまった扉を開けようってんでさ」
「まぁ!」
この城の正門は二つの封が行われる堅固なものだ、一つは閂で閉じられた、通常正門と呼ぶ場合指す方の扉。
そしてもう一つが今男たちがなんとかしようと苦心している、天井から落とされる扉というよりは柵のような二枚目の扉である。
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「さて」
そろそろ聖女パラダは脱出してくれただろうか、そうでないと困ってしまうのだが。
まぁイヅを送ったのだからこれ以上打てる手があるわけではない。
「後はお前の頑張り次第だぞ、聖戦士」
イヅにはあえて知らせなかった、というより虚偽を教えたパラダの演説のタイミング。
彼女の身に危険が及ぶとなれば恐らくあいつは承知しなかったはずだ。
あの城内には混乱に陥ってもらわなければならない、そうでなければあの女はあっさりと城から抜け出し遠く親戚を頼って生き延びるだろう。
それだけは何としてでも止めなければならない。
「頼むぞ、イヅ」
あの女を取り逃がせばこの国は二分され、俺も親殺しという汚名を避けられなくなってしまう。
だから、そのためならば俺はできる限りの動きをして見せる。
この国の王として。
「開門はまだか……」
アーニアルの名を持つものとして。




