【26】神兵
私はこれまで一人で何も決めてこなかった、言われるがままに行うことが良いことだと信じずっと生きてきた。
(ごめんなさい区間長)
二度もあなたの言いつけを破ってしまって、私は罪深く思慮浅い人間です。帰ったらまたお説教でしょうか。
それでも、私は今ここにきてよかったと思っているんです。
「みなさん、聞いてください」
事の始まりは私のところにきた一人の少女、彼女が持ってきた手紙に始まる。
明らかに身分卑しきといった感じの彼女は、確か王の世話係をしていたという少女で、この城の中唯一出入りが許されている身分の者たちだ。
「私は聖者アンハイムの末裔、パ・ラダ・エクラートル。 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、聖女であります」
彼女らは城の馬を世話するために外に連れ出し、大切な国の資産を養う義務を背負っている。だから外部のものとも唯一の接触の機会があったのだろう。
私のところに届いた手紙というのは、王からのものであった。
「ここに来たのは私の……私の考えを聞いてもらうためです」
「神官殿、お早く!」
「わかりましたジスト」
王は私に助けを求めていた、聖女たる私が王のことを認めれば、必ず民衆はその流れに乗ると。
王の手紙で女王が王を排斥するために動いていることも、それがいかに道理の通らぬことなのかも書かれていた。
親が子を廃そうなど、しかも神に祝福されし王を個人の感情で害そうとなればそれは教会に敵対しているも同じ、神に仕えるものとしてそれは断固として見逃せないことである。
けれど今ここに至ってはそれを問題としているわけではない。
「私は助けられました、この街に来るまで彼に出会わなければ私は命を失っていたでしょう」
王の手紙の最後に書かれたその文字。
“聖騎士殿と貴方はお知り合いのようであるから、私が何かを言うよりも彼の言葉こそ貴方に働きかけると信じよう。次のページには彼からの手紙が入っている。”
それから私は少し笑ってしまった。
“俺のことはいいから自分のことだけを考えていろ”
たったそれだけ、大きな羊皮紙に書かれていたのだ。
イヅナオヒサとは誰なのか、半信半疑であったけれど、その言葉を見て私は彼が彼だと確信することができた。
「私は聖戦士、今王の隣に居るあのイヅ・ナオヒサに助けられたのです。 聖女と王、これは偶然でしょうか」
私は彼を救いたい。聖女として行うべき王の救済をついでにするのはおかしいだろうか、それでも私はもう一度ここで彼と出会いたいと思う。
そして会えたら言いたいことがたくさんあって、私はそのために今ここに立っているのだ。
「いえ、もはや単なる偶然の人物ではありません。 彼こそが闇を払いシャインガルを導くもの、聖なる光の導き手」
帰ってきてください、イヅさん。
「彼こそが聖戦士なのです! 神の意志の担い手に、どうして私たちは反目しているのでしょうか!?」
これでいい。きっとこれからシャインガルは騒乱に陥るだろうけれど、これでいいんだ。
「限界か……!」
私たちのところへ唯一通じる道、そこには扉があって、ジストはそれを抑え込むために随分とモノをかき集め時間を稼いでくれていた。
けれどそれがもう限界であることは見るからに明らかで、木の扉の隙間から次々と鉄の刃が突き出始めている。
女王に忠実な近衛兵たちが私を捕らえようとしているのだろう、こうなることはわかっていたから彼女がついてきたのだ。
「ジスト、逃げてください。 私なら大丈夫です」
私は聖女だから殺されまではしないと思う。けれどジストはそうはいかない、彼女の身の安全を保障するものなど何もない。
だから私はジストに残ってほしいと頼んだけれど彼女は聞き入れなかった。
「私はあなたの騎士です。 身分はなくとも心はそのつもりですよ」
あの時もそう言って、今ここにいる彼女は、静かに首を振ってから腰の長剣を抜く。
扉の向こうにいるのは少なくとも住人以上の完全装備の兵たち。
神の起こす奇跡でもない限り、諦観が私たちを支配していた。
「……」
だから私はまた祈る。
神に、首から下げられた、この木彫りのシンボルを握って、ただ祈る。
「ジスト、パラダ」
低い男の人の声。
「伏せろ」
破られた扉と共になだれ込もうとした雄叫びを、彼はただ静かに受け止めていた。
その魔法のような力をもって。




