【3】応対
そもそもこいつを捕まえた理由は一つ。
俺達には決定的に欠けている部分があって、それを得るためにはある程度の地位にいる敵方にいる人間が必要だった。
そいつに適切だったのが彼女というわけで、その協力が得られないというのは困った事態になる。
「ドリンクは?」
「あなたが飲ませてくれるのかしら?」
「もちろん。 レディには誠意をもってあたれと教えられている」
「よく言う…」
戦場に居るのはレディなんて呼ばないんだよ……、ラウンドテーブルのサイドに腰掛けゆったりティーの一つでも傾けていてくれれば俺だってそれなりの対応はする。
そもそも手足を縛られているレディがどこにいるんだか、落ち着いて話あうために彼女にはインチキマジックを収めてほしいが……恐らく少しでも隙を見せれば何かしら企むんだろう。
そんな相手に交渉事か、いよいよ面倒な事態になってきたな。
タフガイ気取りの男ども相手にしてる時ならまだ楽なんだが、交渉というのは一発でご破算になる可能性が高い。
(逃がしてやるから全部喋れ……なんていうのは素人のやることだ)
喋った情報が正しいかどうかそれを確かめる必要もある、こいつを簡単に開放することは不可能だ。
かといって他に何を提供できるかといえば……ないな。
DIAの連中ならドラッグでも提供して出させるだけ出させたら後は使い捨てるんだろうが、生憎その手の類のものは見つからなかった。
かといって彼女の口を割らせる料理を出せるかといえばそんなものもないわけで、鼻先に何かをかがせたい所なんだが。
「欲しいものはあるか?」
「自由」
「悪いがそれ以外で頼む」
「お前の死」
この調子だ、情報の対価としては随分と不相応なものを要求してくる、それじゃあ取引は行われない。
砂に錫を交換する商人がどこにいるっていうのか、困ったもんだな。
「てめぇ女! 舐めてんじゃねぇぞ!」
「はっ、獣が。 まるで知性が感じられませんね」
「この野郎!」
「やめろスッティ」
このまま不毛な時間を過ごすのは望む所じゃないんだが、さてどうしたものか。
いっそテイザーを持ってきてもいいかと思ったが、さすがにもう少し紳士的に話を進めたい。
そうなると物理的衝撃を伴わない痛み、気絶もしづらい関節を軋ませるのが有効だが……
(こいつはきっとそれでも喋らないだろうな)
この気の強さだ、きっと痛みに屈するくらいなら自決を選ぶだろう。
こうなるといよいよ八方ふさがりのように思えてくる。こちらから取れる手も足もない。
せっかくの苦労も、死にかけた俺も全てが無駄になってしまう。
何か方法がないかと考えている俺に聞こえてきたのは何かがもめる音。どうやら部屋の外で何かが起こってるらしい。
そいつは少々穏やかな状況でもない、腰に手かけた指がグリップに伸びて、ゆっくりと安全装置の上にふりかかる。
「ちょっと、ちょっと待ってください。 ここには誰も……」
「私はいいんだ。 退け」
そういってこの部屋の中に乗り込んでくるその影に、思わず両手を広げて、その姿を迎えた。
相変わらずこいつは間抜けな顔をしているな。緊張感がすっといなくなって行方不明になっちまう。
「どうしたフェアレディ。 ここに美味しい飯はないし、蒸かした芋も無いぞ」
「お前は私をなんだと思っているのだ」




